ニッチ構築
Niche Construction
池田光穂
ニッチ(niche)あるいは生態学 的ニッチ/地位 (ecological niche)とは、ある特定の生物の種が、生態的環境のなかで占める位置づけである。したがって、ニッチ構築(niche contruction)とは、生物種が同一種ないしは関連する生物種と共同して、固有の環境をつくりだして、生存の可能性を広げることを意味する。
下記は共立出版から出版されている、F.John Odling‐Smee ・Kevin N.Laland ・Marcus W.Feldman の共著の翻訳の紹介である。
ニッチ構築についての有益な説明になっているので再 掲しておこう。
「生物は,自ら環境を変化させる。その変化が,次の 世代以降の進化に影響する─これがニッチ構築の主張だ。
従来の進化理論では,生命は環境に対しては一方的に 受け身にしか反応しない存在だった。選択は,常に「自然」が行う。だが,ニッチ構築進化論では,生物体はもっと能動的で主体的な存在だ。環境が生物体に働 きかけるように,生物体も環境にはたらきかける。そのプロセスが進化にとっても生態学にとっても重要だ。
本書の特徴は,この一見,過激とも思える主張を,科 学的かつ合理的に展開している点である。実際の動物で見られるさまざまな証拠を膨大に集め,数理モデルを作って検討し,実証面でも理論面でも先行研究との すり合わせを綿密におこなっている。大胆に、そして緻密に─科学において新しい理論を提唱するというのはどういう作業なのか,また,なぜ新しい理論化の作 業が科学にとって必要なのか,それらのことが良く分かる好著だ。
人類の進化,とくに文化進化にもニッチ構築の考えか たは新しい視点を提供してくれる。ニッチ構築により,進化生物学と生態学,そして人類学の橋渡しが可能になるだろう。生物の進化と人間の歴史が,ひとつの 連続体として描ける日も,そう遠くないかもしれない。著者のジョン・オドリン=スミーは,20年以上ニッチ構築についての研究をおこなってきた。より若い 世代の動物行動学者ケヴィン・レイランドと,人類遺伝学の泰斗マーカス・フェルドマンが加わって,万全の布陣。進化に興味のあるすべての人,必読である」
この情報の出典:http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320056473
ウィキペディア(英語)の解説は次のようである。
"Niche construction is the process in which an organism alters its own (or other species') environment, often but not always in a manner that increases its chances of survival. Changes that organisms bring about in their worlds that are of no evolutionary or ecological consequence are not examples of niche construction.[1] Several biologists have argued that niche construction is as important to evolution as natural selection (i.e., not only does an environment cause changes in species through selection, but species also cause changes in their environment through niche construction).[2] "
このような、ニッチ構築の概念を人間と動物の双方に
外挿する時に、人間の動物化(寓意化)と動物の人間化(擬人化)が起こっていることについて、私たちは自覚的にならなければならな
い。また、人間の建築(ルドフスキー 1981,1984)と、動物におけるハビタットの構築(Morgan
1868)についても、研究者は注意深く峻別しなければならない。
復習しよう、「ニッチ(niche)あるいは生態学 的ニッチ/地位 (ecological niche)とは、ある特定の生物の種が、生態的環境のなかで占める位置づけである。この位置とはただ単に空間的なもの(例えば、深海の砂の低地に住ま う、3000メートル以上の高地の上空や山壁を生活の場所にする)のみならず、食物連鎖の位置づけ(例えば、どのような種を捕食するか/被食されるか) や、共生関係(動物間のみならず植物やバクテリアなどの関係)の位置づけなどでも、表現されるものである。ちなみに、ニッチとは、共同墓地における墓場の 位置や納棺のための棚(セル)のことを表現するのに使われるので、空間的占有という比喩表現に 由来するものである」。
これを踏まえて「ニッチ構築(niche contruction)とは、生物種が同一種ないしは関連する生物種と共同して、固有の環境をつくりだして、生存の可能性を広げることを意味する。端的 にいうと、ビーバー(Castoridae, Castor sp.)のダム構築は、典型的なニッチ構築といえる」。(→「隠喩としてのニッチ構築」参照)
下記のビーバー(Castor canadensis)の動画でも明らかなように、陸上では 鋼よりも硬い歯、水中では、後ろ足に水かきや平らな尾っぽをもっている。すなわち、ニッチ構築に最適なように身体形態が進化してきた(=選択されてきた)のである。
Beaver Lodge
Construction Squad | Attenborough | BBC Earth -The American beaver's
ability to nibble wood demonstrates the stunning adaptability of these
amazing mammals. In addition to creating their own lake, this family of
beavers construct a make-shift fridge and winter-time snug. |
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文献
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