知の統合学習とはなにか?
What is Integrated and Synergistic Learning in Open University Situation?
21世紀の我が国における、知の統合の課題につい
ては、日本学術会議が2007年に最初に提言した「知が有効に社会に資するために、科学者コミュニティは何をすべきか」という観点から出発する。そこで
は、科学者コミュニティはどのように、その知の統合に取り組んでいるのかについて検討を加え、その最終報告書(「提言:社会のための学術としての『知の統
合』」2011年)において、知の統合のあり方を提案した(→「知ないしは知識」)。
そこでは、大きく次の3つの観点からにまとめられて いる。(1)認識科学と設計科学の連携の促進、(2)使命達成型科学の研究マネージメントにおける留意点、(3)異分野科学者間の対話の促進、である。こ の3点のもとに、以下の4点の具体的課題が記されている(『提言:知の統合』報告書,Pp.iii-iv)——これが実質的にエクゼクティブサマリーに なっている。
(1)認識科学と設計科学の連携の促進
認識科学によって導出された知が、設計科学による人
工物や制度・方策等の案出をへて社会化されることに加えて、この
ような(認識科学と設計科学との)連携が新たな知を生む場合が少なくない。それゆえに、「あるもの」や「存在(sein)」を探究する認識
科学と「あるべきもの」や「当為(sollen)」を探究する設計科学の間の連携の促進が、「社会のための科学」にとって重要。
(2)使命達成型科学の研究マネージメントにおける 留意点
イノベーションを意図した使命達成型科学研究におい ては、研究マネージメントを担う研究リーダーは次の2点に留意する必要がある、ことを指摘する。
(a)研究成果の産業化や社会化に関して、広い知を結集し俯瞰的に 洞察する。
(b)研究が分業化されて推進される場合には、若手人材が狭い領域に閉ざされて育成されることがないよう配慮す
る。
(3)異分野科学者間の対話の促進
・World Knowledge Dialogue のような文理対話の会合を国内でも定期的に開催する必要あり。この場で文と理のインターフェースの役割を果たす人材の教育体制を検討することが重要。
・「大学は異分野の知の宝庫である」ことを再認識し、学部や研究科を横断するフォーラムを通じて異分野間の知的触発を促進する教
育研究の環境を、各大学内部において整備する必要。
この報告書の優秀な点は、科学技術のクライアント (=顧客・発注者/受益者)の中に、国家や産業のみならず、生活者をきちんと位置づけている点にある。
「フントウィッツ(S. O.
Funtowicz)らは、このような限界(=巨大化複雑化した現代の知識と技術の限界[引用者])にさらされながら問題解決を迫られる科学の現状を「後
正規科学」(Post-Normal
Science)と呼んだ。我々はこのような科学の限界を率直に認めるとともに、それを克服する道として知の統合をさらに強力に推し進める必要がある。そ
の場合、科学のクライアントとして国家行政や産業に加えて生活者を視野に入れることが必要であろう。知の統合の契機は生活者の知恵にもあることを提起して
おきたい」(報告書 2007:32)。
また、2011年3月11日の東日本大震災は、その 躓きの石になったことは明白である。
「これまでのこうした努力と取組みにもかかわらず、
「知の統合」を求める社会的な要請に必ずしも十分に応えられていない。もし、社会的要請に応じることのできる「知の統合」の仕組みが実現されていたなら
ば、例えば、2011年3月11日に発生した東日本大震災時の大規模地震と大津波、原子力発電所の大事故、風評被害といった複合的な大災害に対して、科学
者は、その予防あるいは解決のために必要とされる知を総動員し、それらを効率的に組み合わせることで社会的な要請の解決に必要な知識を十分に提供すること
ができていたであろう」(報告書 2011:1-2)。
このような観点から、我々は、自分たちの属してる組 織において、いかなる貢献が可能なのか? 討論してみよう!
(あなたの大学での取り組み)
(あなたの大学の職域での取り組み)
(あなたの大学の同僚との取り組み)
(あなた自身の上記課題への取り組み)
しかしながら、OECDではもっともっと早くその対
応に対して今度は基礎教育のほうから取り組んできた。1968年に創設された国際バカロレア協会(IB:International
Baccalaureate)は、ディプロマプログラムつまり、大学の入学資格の科目に「知の理論(Theory of Knowledge,
TOK)」を設けている。この科目の歴史はIBのホームページをみてもよくわかないのだが、すでに1970年には科目名として登場している。現在のヴァー
ジョンは2000年代の最初の10年間の中期にはほぼ原形がでており、かつインターネットにおいて閲覧可能な媒体になっている。IBでは、その科目に先立
ち、理想とする学習者を次の10項目で表現している。この項目は、日本の大学の、表面的な理念や美辞麗句が飛び交う数多のアドミッションポリシーよりもは
るかにシンプルでわかりやすい。僕はひも解く度にいつもこれに感銘するので再掲したい。つまり、1)探求する人、2)知識のある人、3)考える人、4)コ
ミュニケーションができる人、5)信念をもつ人、6)心を開く人、7)思いやりのある人、8)挑戦する人、9)バランスのとれた人、10)振り返りができ
る人、である。(→「知の理論」)
大学入学資格であるディプロマプログラムであるため
に、TOKは大学で学ぶべき課題ではなく、大学入学までの中学・高校までに必要なものを規定していることを忘れてはならない。僕はここに驚くのだ。先の日
本学術会議の「知の統合」は、日本の最高レベルでの研究者における科学研究の指針だからである。もちろんOECDの中の有力国として自負する我が政府の文
科省は、IBに関する紹介ページを設けている。だが、これを我が国の初等中等教育のグローバルなスタンダードにするような様子はみられず、そのような資質
をもつ入学生を受け入れる大学の教養教育ですら、知の理論を積極的に取り組もうとする動きはない。しかしながら、IBのディプロマプログラムの日本語化に
関心を持ってくれるところは、日本の予備校関連の出版社と海外版を作成している海外の出版社なのである。またティーチング・ガイドはウェブで、もちろん無
料でダウンロードできる。「知の理論」を若い次の世代に伝えたい、この情熱の深さはいったいどのような理由から出てくるのか? 僕の結論はこうだ。知の理
論の同義語としてよく使われる「クリティカル思考」への人々の敬意と、それを遺憾なく発揮できるためのソクラテス的対話コミュニケーションへの限りない信
頼と、それを実際に使ってみないとその良さは理解できないというプラグマティズムに裏付けられている、と。
参考資料:大阪大学での取り組み(2017年当時)
出典:文部科学省「各国立大学の取組構想における戦 略の概要」平成28年度における国立大学法人運営費交付金の重点支援の評価結果についてからのリンク(2016年3月9日)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/03/1367853.htm
私(=池田光穂)の専門分野に関わる課題(2011 年当時)
「社会生物学の分野では、古くはダーウィン (C. R. Darwin) が「人間の由来と性選択」(1871年) において道徳性の起源の問題という、人文・社会科学に属すると一般的に考えられている問題を「進化論」の手続きによって考察するなど、古くから生物学は 「知の統合」の先駆的事例を提供してきた。/他の多くの分野と同様、近年の生物学の進展は、著しい専門分化を生じさせ、特にバイオテクノロジーの導入以 降、急速に専門分化が進んだ。その結果、多くの生物学研究者が過剰専門化の弊害を感じるようになり、生物学の内部でも分野間の連携が必要とされるように なったのである。同時に、生命科学の進歩は、生命科学だけでは解決することが困難な多くの課題を生み出したため、他の科学分野や社会との連携も図る必要も 生じるに至った。これらの要請の結果、「ヒトと動物の関係学会」、「生き物文化誌学会」、「総合人間学会」、「人間行動進化学会」など、いくつかの分野横 断的な学会が設立された。/なお、生物多様性の概念の創設者として知られる進化生態学者のウィルソン (E. O. Wilson) は、“Consilience: The Unity of Knowledge”を著し、進化生物学の方法論を用いて広範な人文・社会科学的問題を分析しようとするなど、欧米における生命科学を核とした「知の統 合」を牽引している。だが、ウィルソンはあくまで学術の範疇での統合を目指しており、本提言が対象とする『社会のための「知の統合」』には至っていない」 (報告書 2011:7-8)。
「科学や技術の急速な進歩とその技術的な応用によっ
て多くの倫理的問題が生じた。そのような応用倫理学上の問題の中でも生命に対する影響は大きな関心を集め、1988
年には生命倫理学会が成立した。この学会では、医学・生命科学、哲学・倫理学、法学・経済学、宗教学・社会学という複数の学術分野から選出された代表者が
共同で学会を運営し、生命倫理に関する社会的課題の研究を推進するなど、分野間の連携が進んでいる。この他、科学や技術の急速な進歩が大きな影響を与えた
分野としては、脳科学と哲学の融合分野が挙げられる。脳科学では、イメージング技術等の進展により脳機能の基礎過程の解明が進み、ボトムアップ的に脳のメ
カニズムの解明が行われるようになった。この変化によって、心理学と脳科学が結ばれるだけでなく、これまで哲学の特権分野と考えられていた心・意識・精
神・主観といった分野に、脳科学・認知科学・情報科学という自然科学の諸分野の研究手法が入ってくるようになった。その結果、倫理的問題を含むさまざまな
社会的問題が生じた。それらに対応するため新たな研究分野が産まれてきており、その中には「脳神経倫理
(neuro-ethics)」のように急速な発展を遂げている学際的分野がある。/また、心理学での近年の研究は、IT
ツールの浸透が「心のなかのバッファー」とでもいうべき「ワーキングメモリ」を利用する機会の減少をもたらしたことを示している。/「ワーキングメモリ」
を使いこなすことが脳の社会的能力の獲得に大きな影響を果たすとことを考えれば、社会と技術の関係を考える上で、社会脳の研究が重要な意味を果たすといえ
る。この問題を現代の情報化社会から総合的・統合的に捉えるためには、脳を従来の生物的立場から捉えるのではなく、社会的存在としてとらえる立場が必要で
ある。日本学術会議では2006
年より心理学・教育学委員会に「脳と意識」という分科会が設けられ、3つの部(第一部、第二部、第三部)が連携しながら社会脳に関するシンポジウムを開催
してきた。その結果、分野によって異なる言葉で表現されている概念が、運用上は、非常に近い手続き・概念に関連していることも発見されるなど、分野間の距
離が狭められてきている」(報告書 2011:8)。
リンク
文献
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