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ポケットルーム探訪記・異聞譚

弁士:池宮輝哉


現場力研究会のメンバーが、ポ ケットルームにスタッフ として働く池宮輝哉さん(てるくん)を尋ねました。その際のてるくんの語り……

水曜日の午後、空は雨模様の中「いつもの メンバー」がポケットルームに顔を出してくれた時は嬉しさに心も踊る気分でした。しかし以前にスーツを着た”黒服”の人たちが視察に来た時は、誰も中に 入って来れなかった子ども達のことです。あの百戦錬磨の「西川軍団」が大挙して入って来ることで子ども達が「ワーッ!」と逃げだしたらどうしよう!とか、 心のどこかに「今日は上手行くだろうか」という心配な気持ちも僕は抱えていました。

そんな不安はどこ吹く風と、早速左奥の机 の隅っこで西川さんと2年生のまっ君が楽しく談笑しながらオセロをしています。西川さんも何ごともなかったかのように「子どもの世界」にするっと溶け込ん でいてびっくりしました。パッと端から見ていても、今日初めて出会った大人と子供という感じがまるでしなくて、天王寺にある新世界の将棋クラブで長年来 「おなじみ」の将棋仲間のように対戦を楽しんでいました。後から聞いた話によると、西川さんはまっ君が「オセロで角(カド)を全部取ったら面白くないや ろ」と、わざと角を取らせてくれて手を抜いてくれたことが衝撃的だったらしく。途中は「てるくんの先生なんやろ」とか「勝ったらてるくんに言うわ」と言う 話などをしていたそうです。

その少し離れたところ、宮本さんと岡野さ ん達と、トランプの「大富豪」で遊んでいる中に、先ほどの「まっ君」より二つ年上のお兄さんの「かいと」がいます。3人兄弟の長男で、甘え上手で人懐っこ い弟たちとは正反対の性格で、ポケットルームでも目立つ存在ではないのですが、とても優しい心を持っていて、たまに得意のピアノを上手に聞かせてくれるこ とがあります。そんなどちらかと言うと引っ込み思案で人付き合いが得意なほうではないえいとが、僕が違う子とUNOをやっている最中に横目で見ると、宮本 さんと岡野さんとトランプをやりながら何だか楽しそうに過ごしていました。

今日の参加者は15人くらいで、他にもバ ルーンアートをしたり将棋をしたりと時間はあっという間に過ぎました。入口のところで集まって「家が駅の近くやから一緒に帰ろう」と、それからはその兄弟 と現場力研究会のメンバーで最寄り駅のほうへ歩いて向かいました。家の前まで送って行ったところ、かいとは何か名残り惜しそうにして、ポケットから「これ しかないけど」と言って、足跡の形をした黄色のクリップを、一緒に大富豪のトランプをした岡野さんと宮本さんに渡しました。「雨が降っているから暖かくし てね」と、ここで一旦別れましたが、かいとは「お見送りする」と言ってまた付いて来ます。「雨に濡れるからいいよ」と僕が言っても付いてくるので、一緒に また並んで駅まで行ってその下で別れました。その姿を横で見ていた上條さんが後に振り返って、かいとは「あの大人たちなら心を開けるんじゃないか、だから こそどこまでも一緒に付いて行って見送りたかったんだ」というような感想を言われていたことが今でも印象に残っています。


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