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バンド・部族・首長制・国家

Band, tribe, chiefdom, and state: Four types of sociopolitical organization

池田光穂

社会進化論(social evolution theory)の人類学者エルマン・サーヴィス(Elman Rogers Service, 1915-1996)が提唱した、社会進化の4つのレベルを、バンド、トライブ、首長制、国家という。サーヴィ スはおもに、パラグアイにおける文化進化(cultural evolution)を調査した人類学者である。基本的には狩猟採集民の社会形態である血縁集団を中心とするバンド、親族集団が拡大しながらもその親族集 団にもとづいて政治権力が行使されるバンド(部族)、より効率的なマネジメントによる利得("managerial benefits")による中央集権的な組織や官僚制の萌芽がみられる首長制——ここでは支配と被支配や従属という政治権力がより明確になる——から、 (マルクス主義階級論が主張するような)資源へのアクセスの不均衡よりも純粋に政治権力の不均衡にもとづく支配ー従属が、首長制よりもさらに洗練された国 家——文明は国家形態によって支えられる——という、4つの社会形態がみられるとした。

Elman Rogers Service, 1915-1996 (cited from University Michigan)

サーヴィスの理論の特徴は、マルクス主義的な階級論 や(エンゲルス流の)ダーウィン進化論にもとづく国家論の起源としての「未開社会論」というよりも、生業形態が政治権力の集中や分散をかたち作るだけでな く、宗教や文化を作り上げていくという、文化論的な立場をとる環境決定論である。そのため、バンド社会は狩猟採集民(採食者, foragers)、トライブ=部族民は粗放的な農業(園芸 horticulture)、首長制は牧畜(pastoralism)、そして国家は農耕(agriculture)という生業と結びつきをもつと主張す る。

旧石器時代はバンドや、萌芽的なトライブのレベルま でであり、新石器時代になり、首長制や国家がはじめて登場すると考えられている。また、後で述べるように、後期旧石器時代に、萌芽的な宗教儀礼や芸術の原 型のようなものが登場するので、かつて言われたような、食料の安定生産のみが、人間の創造力を開花させるとも言い難い。

さて、それに対して、ジュリアン・スチュアート(スチュワードとも表記:Julian Haynes Steward, 1902-1972)は、文 化進化の多系列を主張し、文化生態論(cultural ecology)という領域の提唱者となった。スチュアートの貢献について、ウィキペディア(英語)からみてみよう。

Julian Haynes Steward, 1902-1972

"In addition to his [=Julian Steward's ] role as a teacher and administrator, Steward is most remembered for his method and theory of cultural ecology. During the first three decades of the twentieth century, American anthropology was suspicious of generalizations and often unwilling to draw broader conclusions from the meticulously detailed monographs that anthropologists produced. Steward is notable for moving anthropology away from this more particularist approach and developing a more nomothetic, social-scientific direction. His theory of "multilinear" cultural evolution examined the way in which societies adapted to their environment. This approach was more nuanced than Leslie White's [1900-1975] theory of "universal evolution", which was influenced by thinkers such as Lewis Henry Morgan. Steward's interest in the evolution of society also led him to examine processes of modernization. He was one of the first anthropologists to examine the way in which national and local levels of society were related to one another. He questioned the possibility of creating a social theory which encompassed the entire evolution of humanity; yet, he also argued that anthropologists are not limited to description of specific, existing cultures. Steward believed it is possible to create theories analyzing typical, common culture, representative of specific eras or regions. As the decisive factors determining the development of a given culture, he pointed to technology and economics, while noting that there are secondary factors, such as political systems, ideologies, and religions. These factors push the evolution of a given society in several directions at the same time." -Julian Steward.

「教師および管理者としての役割に加え、スチュワー ドが最もよく知られているのは、文化生態学の方法と理論である。20世紀の最初の30年間、アメリカの人類学は一般化を疑い、人類学者が綿密に作成したモ ノグラフからより広範な結論を引き出そうとしないことが多かった。スチュワードは、人類学をこのような特殊主義的なアプローチから脱却させ、より名目的で 社会科学的な方向へと発展させたことで注目されている。彼の「マルチリニア」文化進化論は、社会が環境に適応する方法を考察したものである。このアプロー チは、ルイス・ヘンリー・モーガンのような思想家の影響を受けたレスリー・ホワイト[1900 -1975]の「普遍的進化」理論よりも、より微妙なものであった。スチュワードは社会の進化にも関心を持ち、近代化の過程も研究した。彼は、社会の国家 レベルと地方レベルが互いにどのように関連しているかを調べた最初の人類学者の一人である。彼は人類の進化全体を包含する社会理論を創造する可能性に疑問 を呈したが、人類学者は特定の既存文化の記述に限定されるものではないとも主張した。スチュワードは、特定の時代や地域を代表する典型的な共通文化を分析 する理論を作ることは可能だと考えていた。ある文化の発展を決定的に左右する要因として、彼はテクノロジーと経済を挙げる一方、政治体制、イデオロギー、 宗教といった二次的な要因もあると指摘した。これらの要因は、ある社会の進化を同時にいくつかの方向に押し進める」

Leslie Alvin White, 1900-1975

いっぽうマルクス主義派の社会進化論は、サーヴィス が考えた食料獲得よりも「食糧生産」や「生産様式」が社会や権力形態を一義的に決定するという見方をとる——それゆえに私はサーヴィスの立場を先に「文化 論」と記した。そのため、食糧の蓄積を可能にする農耕の発展と食糧貯蔵と政治権力につよい結びつきがあり、そのような権力があってこそ、国家が主宰する祭 礼や芸能などが「発達」したと考える。マルクス主義派のこのような権力論は、生産様式や食糧管理あるいは分配などを牛耳る権力がとても似ている(=多様性 が少ない)にも関わらず、そこから生まれた文化がなぜ多様なひろがりをとるのかを適切に説明することができない。

マルクス派の国家権力論において興味深い理論を展開 した理論家には、歴史学者のカール・ウィットフォーゲル(Karl August Wittfogel, 1896-1988)の「東方専制主義論(Oriental Despotism: A Comparative Study of Total Power, 1957)」や、考古学者のヴィア・ゴールデン・チャイルド(Vere Gordon Child, 1892-1957)の新石器時代の食糧生産の増大が社会形態の複雑さと権力の増大に貢献したという「新石器革命論(Neolithic Revolution)」などが著名である。

現在、コンセンサスを得られている議論は、旧石器時 代は、前期・中期・後期の三時代区分に分けられて、その後に、農耕定住生活の新石器時代がくるというものである。後期旧石器時代は、新石器時代の直前の時 期で、様々なことが起こったと言われる。例えば、ネアンデルタール人の絶滅や現代人ホモ・サピエンスの登場。埋葬に副葬品を供える宗教儀礼、洞窟や壁岸面 に絵や意匠などを描く芸術創作活動がみられる。そして石器制作にいては、石刃技法による石器の多様化と量産され。精巧な骨角器が登場するのが、後期旧石器 時代である。

さて、文化人類学では考古学分野や一部の生態人類学 派を除けば久しく(少なくとも20世紀最後の四半世紀)この4つの社会類型【バンド・部族・首長制・国家】区分に光があてられなかったが、1997年に なって、生物地理学者のジャレッ ド・ダイアモンドが『銃・病原菌・鉄Guns, Germs, and Steel, 1997)』を著 し、彼の壮大な地球規模における人類進化と新環境決定論(New environmental determinism)を提唱したために、20世紀になって再度、サーヴィスの社会進化の理論について学界ならびに科学ジャーナリズムのなかで再度光が 当てられることになった。

上掲書において、ダイアモンドは「諸社会のタイプ」 について表14-1にまとめ、(1)成員(成員数、定住パターン、社会関係性、言語や民族の数)、(2)政府(政策決定・リーダーシップ、官僚制、情報と 権力の独占、紛争解決、居住における階層制)、(3)宗教(専制や暴政の正当化)、(4)経済(食物生産、労働分業、交換、土地の管理者)、(5)社会 (成層化、奴隷の有無、エリートのための贅沢、公共建築物の有無、土着語の識字)、の5つの項目にわけて論じている。サーヴィスの著述Primitive social organization : an evolutionary perspectiveをほぼ踏襲しているとは言え、この整理は今日の学徒に非常にためになる——下図引用を参照。

Four types of Society according with their subsitences, From  Jared Diamond, "Guns, Germs and Steel," 2005: 268-269. These four types of society are orinated from Elman Rogers Service's, Primitive Social Organization, 1962.

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サーヴィスの著作(http: //www.newworldencyclopedia.org/entry/Elman_Rogers_Service)による

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Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 2016-2019

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