マーガレット・ロック先生の医療人類学
Post Graduate Seminar on Medical Anthropology, Margaret Lock's
Medical Anthropology 2014
池田光穂
健康と病気に関する文化的および社会的現象を研 究対象とする人類学研究を、医療人類学(medical anthropology)と呼ぶ。この授業は、健康と病気に関する人間のさまざまな諸実践(これが考え得る最も広義の「医療」の定義である)が、文化人 類学の基本的な概念と方法を用いれば、研究と分析が可能となり、その時代や社会の価値評価になり得る基礎資料を呈示できることを、講義と演習(文献読解) を通して明らかにする。今年は「授業の目的」の3.に掲げた、医療実践を、身体と心の変調(=病気経験)を媒介にするコミュニケーションプロセスに他なら ないという観点とり、医療人類学者マー ガレット・ロックを中心に最新の生物医学の知見とその解釈などを絡めつつ考察したい。
我々の常識を解体する文化人類学的想像力:マーガレット・ロック先生の著作を手がかり に! |
「昨日までの医療(the Medicine before only yesterday)」はそんなんじゃない?! この授業は、学部高学年ならびに大学院生(博士前期レベル)にふさわしい医療人類学 の基本的な知識と研究法について学ぶものです。では皆さんの抱いている「常識的な現代医療」についてはどう思われるでしょうか。例えばこういうものです: まじないや呪術的治療に代表されるように、医療の原型には、宗教的でいわゆる迷信的な要素が多く含まれていましたが、近代医療の先覚者たちは、それを実験 と実証により合理的に克服して、今日のような科学的な医学を気づいたと。これらは、近代科学の進歩史観と呼ばれる説明の方法で、現代の医学史研究や医療社 会学においては、このような素朴な説明だけでは、医療・医学の発展を説明できるものではないことが指摘されています。 |
今の医療が、最適で完全なものではありません! 現代の我々は科学的合理性の世界を生きているように確信していますが、それも、そのような信念の結果に基づいてのみ我々は生きているわけではありませ ん。合理性の証明のみならず、すでに社会的に承認を得て、あたかも当たり前になっているもの(例:科学的信頼性、医療保険制度、医療行為の倫理原則)は、 いちいちその確実性などを個別に証明してから、それを使っているのではなく、慣習的にあるいは惰性のごとく我々は利用しているに過ぎません。それゆえに、 例えば、医療費の自己負担を現行の3割から5割に変更すると政府が仮に決定したとすると、私たちは怒りを覚えますが、では当たり前で自然だと思われている 3割負担の根拠が何に基づいているか適切に説明することができません。また高齢者や小学生未満の乳幼児が2割であることも(当事者ですら)忘れています。 それどころか、かつては2割(それ以前には1割)負担で済んでいた歴史的経験すら忘れられています。 |
人間の苦悩と向き合う医療とは? このように、医療と医療を受ける態度については「人間にとって医療とはこうだ/こうあるべきだ」という主張を経験的事実という手がかりになしに、勝手に 推論しても時間の無駄なのです。皆さんが、現代の医療について便利で高度に進歩したものだと思われるは、皆さんの自由ですが、病気や老化が人間の苦悩の原 因であり続ける限り、医療に対する人々の不満はなくならず、よい医療や人間らしい医療を成就するためにもっと資金が必要だという主張は、増大する医療費を 正当化したい医療職専門家や、治療のための研究開発が必要だという基礎ならびに応用の医学研究者の口実にすら覚えてきます。 |
何が人間にとって理想的な医療なのか? 何が人間にとって必要な医療なのか、何が人間にとって理想的な医療なのか、このことに関する議論に具体的な根拠を与えてくれるのは、医療従事者の観念的 な理念からではなく、現在地球上で行われている医療ないしは医療らしきものの具体的な観察と、それらを比較検討することから出てくる経験的知識に他なりま せん。そのためには、どのようにして生物医療中心主義の現代医療を、その客体化(objectification)過程を通して理解可能なものとし、人間 中心の医療を召喚することができるか/否かの吟味が不可欠になります。 |
医療は文化依存で社会的非拘束性の下にある! そして、医療実践とは、身体と心の変調(=病気経験)を媒介にするコミュニケーションプロセスに他ならないという観点にたつ必要が生じます。それゆえ授 業では、インターパーソナルなコミュニケーション理論——今学期に取り扱うのはマーガレット・ロック(1936- )という医療人類学者のそれ——の 知見を紹介し、医療実践が文化の文脈依存という社会的拘束性を受けざるを得ないという理論的根拠を理解できるようにします。 |
今年(いつでもヴァーチャル)は、Lock, Margaret, 2013, The Alzheimer Conundrum を勉強します!
■ローカル・バイオロジーについて
「ローカル・バイオロジーとは、バイオメディシン (生 物医学/生物医療)を利用するあらゆるユーザーが、バイオメディシンを自分が関わる身体の変調や異常を解釈する時に動員される、知識と実践のゆるやかな体 系であり、その多くは言説化されており、観察やインタビューを通して表象可能なあり方のことである」ローカル・バイオロジー)
◎Lock, Margaret M., East Asian medicine in urban Japan : varieties of medical experience.
"An excellent
description and analysis of East Asian medicine ...Based on fieldwork
conducted in Japan during 1973 and 1974, which involved the use of a
variecy of participant-observer techniques, as well as extensive
reading in primary and secondary sources in Japanese and English,
Lock's study makes a significant contribution to our understanding of
an important dimension of life in Japan...In well-written chapters
dealing with the philosophical foundations and historical development
of East Asian medicine, Japanese attitudes regarding health, illness,
and the human body, detailed description of kanpo clinics, herbal
pharmacies, acupuncture and moxibustion clinics, shiatsu and anma
clinics, East Asian medical schools as well as the interactions between
various providers and patients (customers), Lock develops the cultural
thesis ...In the process, she provides information on things most
visitors to Japan have seen, heard, felt, and smelled but rarely
understood." (Journal of Asian Studies). "Breaks important new ground .
Lock discusses concrete medical practice and its cultural significance
in general...rich in comparisons, engrossing to read, and analytically
penetrating ...an important and absorbing book. It is an engaging
account of how at least some Japanese people respond to universal
problems. Most readers will obtain from it their first clear impression
of what East Asian medicine actually is and does." (Journal of Japanese
Studies). "Of considerable significance for comparative cross-cultural
studies of medicine, of which this is the best account for a Japanese
setting that we now possess." (Monumenta Nipponica). "Both Japan
specialists and medical anthropologists will be stimulated, challenged,
and engaged by this book." (Medical Anthropology Newsletter). |
「1973年から1974年にかけて日本で行われたフィールドワークに
基づき、様々な参加者-観察者の手法を用い、また日本語と英語の一次および二次資料を幅広く読み込んだこの研究は、日本における生活の重要な側面について
の我々の理解に大きく貢献するものである。
東アジア医学の哲学的基礎と歴史的発展、健康、病気、人体に関する日本人の態度、漢方薬局、漢方薬局、鍼灸院、指圧院、あんま院、東アジア医学部、そして
様々な提供者と患者(顧客)の相互作用を扱うよく書かれた章で、ロックは文化論を展開する...その過程で、日本を訪れるほとんどの人が見、聞き、感じ、
嗅いだことがあるがほとんど理解できないことについて情報を提供している"(Journal of Asian
Studies)。(アジア研究ジャーナル)。「重要な新分野を切り開く。ロックは具体的な医療行為とその文化的意義を一般的に論じている...比較対象
が豊富で、読み応えがあり、分析的で鋭い...重要で吸収力のある本である。少なくとも一部の日本人が普遍的な問題にどのように対処しているのか、魅力的
な記述である。多くの読者はこの本から、東アジアの医療が実際にどのようなもので、どのようなことをしているのか、初めて明確な印象を受けるだろう」。
(Journal of Japanese
Studies)。「医学の比較異文化研究にとって重要であり、日本という舞台で書かれたものとしては、本書が最も優れている。(Monumenta
Nipponica). 「日本の専門家も医療人類学者も、本書によって刺激され、挑戦され、関心を抱くだろう。(Medical
Anthropology Newsletter)。 |
Preface to the Paperback Edition List of Illustrations List of Tables Preface 1. Introduction: The Pendulum Swings to Holism PART ONE: East Asian Medicine: Its Philosophical Foundations and Historical Development 2. Early Japanese Medical Beliefs and Practices 3. Theoretical and Philosophical Foundations of East Asian Medicine 4. History of East Asian Medicine in Japan PART TWO: Attitudes toward the Body in Health and Sickness 5. Early Socialization 6. The Interrelationship of Socialization Practices and Medical Beliefs PART THREE: The East Asian Medical System in Urban Japan: Kanpo 7. A Kanpo-Clinic: The Patients 8. A KanpoClinic: The Doctors 9. Herbal Pharmacies PART FOUR: The East Asian Medical System in Urban Japan: Acupuncture, Moxibustion, and Massage 10. Acupuncture and Moxibustion Clinics: The Setting and the Patients 11. Massage: Shiatsu and Amma 12. East Asian Medical Schools 13. Philosophy and Attitudes of Acupuncture, Moxibustion, and Massage Specialists 14. Holism and East Asian Therapy PART FIVE: The Cosmopolitan Medical System 15. Doctor and Patient Relationships in Cosmopolitan Medicine 16. Conclusions Glossary Bibliography Index |
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