Present World Cultural Anthropologists Thesis, 2017
1.0 文化人類学者の仕事は2つの活動からなりたっている。ひとつはフィールドワークとよばれる社会調査で、他のひとつは民族誌とよばれる 書物や論文 を書くことである。
2.0 フィールドワーク(field work)は研究対象となっている人びとと共に生活をしたり、そのような人びとと対話したり、インタビューをしたりする社会調査活動のことである。
3.0 民族誌(ethnography)は、フィールドワークの記録を基礎にした書物=論文[さらに映像・ウェブページなどの類するもの] である。 民族誌(エスノグラフィー)は、今世紀初頭(具体的には1922年)に定式化されたいくつかのものが英語で公刊されて以来、さまざまなスタイルの変化はあ るものの、人類学者に書かれ読みつがれてきた。
4.0 民族誌=エスノグラフィーの狭義の意味は、対象の民族(エトノス)の記録(グラフィー)であるが、現在では、民族誌は人間の社会や文 化につい て考えるための、文字記述を中心とした、人間ないしは人間集団を対象にした実地調査にもとづく記録ということができよう。
5.0 社会学者とならんで、そのオリジナルな活動を探検から調査へと転換させてきたのは文化人類学者(民族誌学者・民族学者)たちではある が、 フィードワークは、社会学者や文化人類学者だけに独占されているものではない。だが、フィールドワークを専業としてきた民族誌学者たちは発達させた独自の 方法論という歴史的伝統を文化人類学者たちは受け継いできているのも事実である。また、今日におけるビデオ機材や録音器具の性能向上により、フィールド ワークの姿は技術革新の影響を受けたものになっている。
6.0 文化人類学者が、どのような情報収集をおこなうかを理解する鍵は、まず民族誌がどのように書かれているのかを知ることである。民族誌 は、研究 対象になった人びとの文化や社会が、文化人類学者が描きたいと考える筋書きに沿って書かれている。これは、民族誌が、文化や社会についての理論書であると 同時に、文芸的作品として読めることをあらわしている。しかし、民族誌における文芸上の修辞(レトリック)は、あくまでも前者の<文化や社会についての理 論書>としての体裁を保証するための手段として使われていると考えるべきだ。
7.0 民族誌は、古典とよばれている主要な著作や論文がある。文化人類学者、それらの学界内部で敬意をもたれていたり、自分の興味にあった 学派の著 作や論文を手本にしたり、あるいは、文化人類学以外の著作や論文からインスピレーションを受けて著作や論文をまとめようとする。
8.0 従って、文化人類学者はその研究者の仲間でよく読まれている学会誌や研究雑誌、さらには著名な人類学者の著作を読むことに専念する。
9.0 フィールドワークで得た資料があり、さまざまな民族誌論文・著作を読んだ経験があっても、民族誌を書かねばただの調査ディレッタント である。
10.0 自分が心酔している著者のスタイルをまねても、オリジナルの苦労仕事でも何でもいいから、民族誌を書かねば文化人類学者とは言えな い。
11.0 しかし、民族誌学にもとづく論文や著作は、フィールドを知れば知るほど<書けなくなる>という逆説が、研究者のあいだではよく言わ れる。調べ れば調べるほど、新たに調べる項目やテーマがどんどん増殖していくのである。
12.0 このため、欧米の研究者のあいだでは、調査期間が終わった博士課程の研究者は、すみやかに隠遁して比較的に集中して博士論文を書き 上げること と助言する先達の人類学者も多いと言われている。そして、この助言は日本でも通用すると思われる。
13.0 民族誌論文でも著作でも、結局はアイディアが固まったら、どんどん書いてゆき、ある程度まとまったら、小出しに独立した論文にする か、同業者 の集まる研究会や学会で発表したり、先達の人類学者に読んでもらって批判や助言を受けることである。
14.0 以上のような知的生産のプロセスは、フィールドワークで得たデータを実験室で得たデータだと考えれば、いわゆる実験系の研究者と同 じプロセス をたどって、論文生産にこぎつけていることになる。だから、文化人類学の論文生産は、外側をなぞれば実験系の科学者とおなじことをやっていることになる。 ただし、実験とフィールドワークが根本的に異なることがある。それは、フィールドワークの研究対象は、生身の人間であり、情報の質やその加工には倫理的な 関係が生じるということである。もっとも、自然系の実験でも、人間を相手にする医学研究における人体実験は当然のことながら、動物実験でも倫理要綱が定め られており、なんでもありというわけではないことは当然である。
原出典:文化人類学者の情報収集
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Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099
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