ビジターへの意識化
Conscientization
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「ビジターへの意識化」の前にまず「意識化(いしきか)」についての基本的考え方を整理しておこう。なお、意識化とは、 conscientization, formation of critical cousciousness と英語では翻訳されるが、もともとは、パウロ・フレイレ(Paulo Freire, 1921-1997)の用語である。
意識化は、なにかについて考えるときに、あるいは、なにかを漫然と行為しているときに、自分はそ のことについて何を考えているのかということに自覚することである。ところが、何かをしているときに、自分がいったい、どういうことを意識に上らせるのか を自覚ことは難しい——いったい何について、どのように考えればいいのか、そして、それはどんな意味をもつのか、そのことの有用性、有意義性をすくなくと も予見したり、過去にそのような意識化をして、役にたった、思慮深くなった、このごとを多角的に考えられるようになったという経験がないかぎり、この意識 化は重要視されることはない。また、そのような意識化をしても、後で「そんなことは無駄だった」と偉い人から評価されたり、また自分で「そんな意識化して も役に立たなかった」という経験が過去にあれば、意識化も継続して使われないだろう。
ただし、継続的に執念深くというのは無理だが、意識化というのは、どんな人でも、どんな子供で も、できる行為ないしは技(アート)である。問題は、意識化の意識化、反省のなかの反省、メタ意識など、意識にまつわる、ユニークな働きについて自覚しな いかぎり、この意識化について、人々は、やっているにも関わらず、有用な生きるための反省につながらない。
それにまた、意識化は、従来の観念論(idealism)や機械論(mechanism)からは その意義を見出しにくい。観念論では、意識は現実から分離されて、現実は意識に従属する。意識がそのように見えている/理解されるものが現実だと観念論は 考えるからである。現実を改革することは、まず意識の改革が必要だと考える。他方、機械論=メカニズムでは、[観念論に似て]意識と現実は二分されるが、 意識は現実を写す鏡に他ならない。このように、意識が現実を規定しても、また逆に、現実が意識に規定されても、意識そのものが、その意識そのものを変える ような可能性を持たない。
だがしかし、現実が意識を規定する一方で、そのような意識が行動や実践を通して働きかけ ていくとき、現実はそれによって影響を受けて変化し、それが、さらに新たな意識——以前の意識から進歩/進化した意識の別の状態——を生んでいくことが あるとしたらどうだろうか? これ(下線部)が意識化の過程の特徴であり、このことを哲学の用語で表現すると、弁証法(dialectic)=べんしょう ほう、という。弁証法とは、正反対のもの、たとえば、主観と客観、主体と客体、現実と意識、実践と理論の対立を、調停して、別のあり方の可能性をもたらす ことである。
ビジターへの意識化とは、これをエコツーリズムの文脈で実践することである。
その項目例:水谷論文p.129
・以下は1992年イギリスでおこなわれたヨーロッパのレンジャー、ワーデン、インタープリターを対象とした「グリーンツーリズム」をテーマにするセミ
ナーで講師が問うた、ビジターに対する意識化を考える際の項目(一部改変)である。
(1)行動
1.1 行動が周囲と調和しているか?
1.2 行動は穏やかで他者や野生動物を撹乱していないか?
1.3 どのような方法で旅をしているか?
(2)地域住民との接触
2.1 地域住民と対話しているか?
2.2 地域住民の生活様式を理解しているか?
2.3 あなたがたの存在により地域住民が何かを得ているか?
(3)公園の環境
3.1 公園の環境から何かを体得する機会を得たか?
3.2 公園の環境に対してインパクトを与えたか?
3.3 旅をすることによって公園の環境にとって何かがもたらされたか?
(4)宿泊施設
4.1 滞在中にどれほどのエネルギー、水を消費するか?
4.2 宿泊施設は地方の素材で造られているか?
4.3 景観にうまく調和しているか?
4.4 交通量の増大をもたらしていないか?
4.5 地域住民を雇用し、適当な賃金と条件を与えているか?
4.6 健康的な食事と郷土料理を提供しているか?
4.7 バーでは地域のビールを出しているか?
(5)金銭
5.1 セミナーの費用のうちどれほどが実際に地域におちているか?
5.2 地元産のみやげ物を買ったか?
(6)認識
6.1 この地の特質、問題、美しさ、伝統、これからどう変わってゆくか、などについての考えをもってこの地を後にするか?
6.2 この旅について友人に語るか?
6.3 この後、再訪することを望むか?
[出典:水谷知生「グリーンツーリズム」『環境研究』No.85,pp.118-136,1992]
【文献】
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