だれが論文著者(クレジット)として掲載されるか(原著:36)
Publication Practices
だれが論文著者(クレジット)として掲載されるか(原著:36)
根本は、ポスドク時代に続く3 年間、技術系の大手企業で働いてきた。コンピュータ・シミュレーションによって、彼はトカマク型核融合炉の壁近くで生じる乱流混合を制限する方法を発展さ せた。彼はPhysical Review誌に投稿するために論文を書きあげ、審査してもらうために研究グループ長にそれを提出した。グループ長は、「論文は素晴らしいけれど、研究指 導者として論文の著者の一人に自分を加えるように」といってきた。根本は、グループ長がその論文に直接にどんな理知的な寄与もしていないことを知って いる。
Dr.(Ph.D) Nemoto Chan
Who Gets Credit?
Nemoto has been working in a large engineering company for three years following his postdoctoral fellowship. Using computer simulations, he has developed a method to constrain the turbulent mixing that occurs near the walls of a tokomak fusion reactor. He has written a paper for Physical Review and has submitted it to the head of his research group for review. The head of the group says that the paper is fine but that, as the supervisor of the research, he needs to be included as an author of the paper. Yet Nemoto knows that his supervisor did not make any direct intellectual contribution to the paper.
コメント
● 用語の整理
【ギフトオーサーシップ】
gift authorship:論文に貢献していない他人(研究者)を共著者に仕立て上げること。論文への「貢献」をグラント提供やスーパーバイズまで含めるべき だという主張と、純粋に具体的な研究の範囲にまで留めるべきだという主張があり、それぞれに根拠があり、一概に決められない。しかし、科学的論証過程が厳 密になり、捏造問題などで、グラント責任者にも塁が及ぶケースもあり、グラント提供者は、共同研究者に研究レベルまできちんとコミットするべきだという考 え方が主流になると、ギフトオーサーシップは、やってはならないし/やらせてはならない、ということになる。また、論文作成への貢献は、実験をスーパーバ イズして、喩え一字の修整字句があれば、その著者への貢献を認められるべきだろう。学術投稿論文は共同で書くというスタイルが主流であるが、これまでない と言われてきた人文社会系の研究も多くなりつつあるので、ギフトオーサーシップの問題は他人事ではありません。
【ゴーストオーサーシップ】
ghost
authorship:論文に関わっているにも関わらず、著者として掲載しない行為。(リストに登場していない)幽霊が論文を書いているという風刺からこ
う呼ばれる。典型的なものは、ゴーストライターに書かせて、あたかも自分が書いたようにふるまうことです(これは洋の東西を問わず、また理系・人文社会
系・学際融合系を問わず、しばしば見受けられますので要注意です)。データの捏造に対して、これは論文の本人以外の作成ですので、(あたかも自分が作成し
たと嘘を言うわけですから)捏造の一種とみていいと思います。また、実際に論文作成にかかわらず、謝辞に載せればその責任が問われないというのも誤った考
え方です。
【名誉オーサーシップ、オノラリー・オーサーシップ】
honorary authorship:ゴーストオーサーシップとは逆に、論文に関わっているにも関わらず、著者として掲載してしま うケースです。これは、推奨されるべきことがらではありません。こんな奇妙なことがどうして起こるのでしょうか? それはその学問領域で著名な人から「ア ドバイス」受けた理由で、著者として招いてしまうケースですが、その招待には、下心があって、著名な人(=セレブ)との共著だと論文に掲載されやすくなる だろうという思惑からです。残念なことに、そのような申し出をうけるセレブ研究者もいるという理由で、実際にこのようなことは存在します。しかし、名誉 オーサーシップへの申し出がきっかけに後に共同研究者になることもあります。ただし、論文執筆や論文ための基礎データ収集時に、論文に貢献しておらず、必 要がありどうしても掲載したい場合は、謝辞に掲載すべきです。その際には、何をどのように貢献したかを明確にし、また、出版の前に本人に了承をとることが 必要です。
【サラミ出版・サラミ・スライス化】
salami
slicing:1本でまとめられるような研究を、複数の発表論文に小分けして出版・発表する方法です。サラミないしは金太郎飴のように、どの断面も類似
のもので、共著者が順繰りに筆頭著者にするというものがあります。恐ろしいことですが、私の知る旧・帝国大学の医学部のある研究室は、小さな学会発表の時
に、そのような類似の発表を延々をおこなっていたことを目撃したことがあります。このようなサラミ発表やサラミ出版は、論文の中身とは関係なしに、出版点
数を安易にあげるための方法で、学問や研究の真理探究とは何の関係もありません。本当に重要な研究は、必要不可欠なこと冗漫にならない範囲で適格にまとめ
たもののはずです。
【その他】
● 出典:(教科書)
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、東京:化学同人、2010年
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition Committee on Science, Engineering, and Public Policy, National Academy of Sciences, National Academy of Engineering, and Institute of Medicine ISBN: 0-309-11971-5, 82 pages, 6 x 9, (2009) This free PDF was downloaded from:
http://www.nap.edu/catalog/12192.html
レクチャー
教科書
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、化学同人、2010年(原著はインターネットで講読できます:下記のリンク参 照)
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j,2010-2019