関与することの対立(原著:45)
A Conflict of Commitment
関与することの対立(原著:45)
春 奈(はるな)は、自分が専攻する分野の指導的学者である越本(こしもと)博士のバイオインフォマティクス研究室の大学院生として受け入れられたことを喜び、割り当てられたプロ ジェクトに熱心に取り組んだ。しかし数ヶ月後、彼女は不安を感じ始めた。越本博士の仕事の一部は政府資金の援助を受けているけれど彼女が担当しているプロ ジェクトはある一つの会社からの資金によって全面的に援助されていたからだ。彼女は研究室に入る前、越本博士にこのことについて尋ね、会社の援助は彼女の 教育と矛盾しないとの確約を得ていた。しかし春奈がプロジェクトの仕事を進めれば進めるほど、ますます会社にとって大事なことばかりさせられると感じるよ うになった。たとえば、会社の研究のため彼女は非常に数多く実験を行う必要があったので、自分の仕事から生まれた興味深い基礎的な問題を調べたり、自分の アイデアをほかの分野へ展開させたりすることができないのである。彼女は、多くのことを学んではいるものの、自分の仕事を発表する能力が制限され、筋の 通った学位論文が書けないのではないかと心配になっている。そのうえ、彼女は、会社から資金をもらって仕事をしているほかの大学院生から、その仕事につい て他人と議論しないという契約にサインしたので助言を受けられないという話を聞かされた。越本博士と会社の研究者は彼女の研究結果に大満足なのだが、彼女 はこの状況が自分にとって最善であるのかどうか疑問に思っている。
1.春奈にこのような研究課題を与えた越本博士の行為は、悪いことなのだろうか?
2.春奈がこの研究を続けていくなかで、データの収集、データの解釈、結果の発表などに関して、どのような衝突が起こりうるだろうか?
春 奈(はるな)の主張 | 越本(こしもと)の主張 |
・会社の援助と政府からの資金援助を受けている自分の研究は矛盾しているのではいか?(→利益相反) |
・会社の援助は彼女の 教育と矛盾しないと主張 |
・会社に有利な研究がすすんでいるのではないか? |
(ウィン=ウィンの関係で進んでいる) |
・会社の方の実験ばかりさせられていて、自分の研究ができない |
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・自分の自由な研究ができない |
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・多くのことは学んでいる |
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・自分の発表する能力が制限されている |
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・筋の通った学位論文がかけないのではないか? |
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・他の大学院生も会社から資金を得ているので「他人と議論しないという契約にサインしたので助言を受けられない」という返事を聞かされた |
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・研究することは満足だが、やはり会社からの制約を受けているのではないかと危惧する。 |
・彼女の研究成果に満足している(ように春奈からは感じられる) |
A Conflict of Commitment
Haruna was excited about being accepted as a graduate student in the laboratory of Dr. Koshimoto, a leading bioinformatics scholar in her field, and she embarked on her assigned research project eagerly. But after a few months she began to have misgivings. Though part of Dr. Koshimoto’s work was supported by governmental grants, the project on which she was working was totally supported by a grant from a single company. She had asked Dr. Koshimoto about this before coming to his lab, and he had assured her that he did not think that the company’s support would conflict with her education. But the more Haruna worked on the project, the more it seemed skewed toward questions important to the company. For instance, there were so many experiments she needed to carry out for the company’s research that she was unable to explore some of the interesting basic questions raised by her work or to develop her own ideas in other areas. Although she was learning a lot, she worried that her ability to publish her work would be limited and that she would not have a coherent dissertation. Also, she had heard from some of the other graduate students doing company-sponsored work that they had signed confidentiality statements agreeing not to discuss their work with others, which made it difficult to get advice. Dr. Koshimoto and the company’s researchers were very excited about her results, but she wondered whether the situation was the best for her.
1.Has Dr. Koshimoto done anything wrong in giving Haruna this assignment?
2.What potential conflicts in terms of data collection, data interpretation, and publishing might Haruna encounter as she continues with her research?
● 出典:(教科書)
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、東京:化学同人、2010年
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition Committee on Science, Engineering, and Public Policy, National Academy of Sciences, National Academy of Engineering, and Institute of Medicine ISBN: 0-309-11971-5, 82 pages, 6 x 9, (2009) This free PDF was downloaded from:
http://www.nap.edu/catalog/12192.html
● ︎研究倫理
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レクチャー
教科書
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、化学同人、2010年(原著はインターネットで講読できます:下記のリンク参 照)
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1997-2099