猫にジェンダー
Cats understand geder
equality
To carry out a
dangerous or impractical plan - Netherlandish
Proverbs
01 昨年(2018)末に九四歳で大中恩(おおなか・めぐみ)さんが亡くなられた。大中さんは、佐藤義美の作詞の童謡「犬のおまわりさん」 に曲をつけた作曲家だ。デビューは、わしらが子供の時に、児童向けの月刊誌『チャイルドブック』——現在まで続く長い雑誌だ——で販売されたソノシート (レコードプレヤーで再生する薄いビニール製音源)らしい。この名曲はやがてNHKの番組『うたのえほん』や『おかあさんといっしょ』で全国の子供たちに 爆発的ブームをもたらした。二〇〇六年に文化庁などの団体により選定された『日本の歌百選』——ただし収載数は百一——にも入っている。
02 しかしながら「犬のおまわりさん」の最初のフレーズに登場する動物は犬ではなく迷子になった子猫ちゃんである。犬のおまわりさんは、子猫 の家の所在地を聞き、その名前を聞くけど、にゃんにゃん、にゃにゃん、としか返事ができない。おまわりさんは、それと対句のように、わんわん、わわんと困 惑して嘆く。歌詞の二番では、おまわりさんは、カラスとスズメに聞くがやはり子猫の素性がわからずに、やはり困惑する。物語性というものがほとんどなく、 猫と犬の嘆きの定型句のみが頭にのこる曲である。だからこそ名曲であり、詩歌に完全にマッチしている。
03 大流行した名曲ゆえ、当時のテレビ画面では、現在のカラオケよろしくイメージ映像が流れる。また、初出雑誌以降、数々のヴァージョンの絵 本が描かれている。そこでは制服を着た大柄の犬と、スカートを履いた女児猫がいる。例外的に、着衣のないリアルな子猫(ただし二本足で立ち前足で泣く仕草 をする擬人化がされている)と、警帽をつあけ長靴を履くこれもまた擬人化された犬という図像もあった。
04 わしは、何が言いたいのか。それは、動物の擬人化において、猫は小さくて、かわいくて、無垢な性格を与えられ、そして女性の社会的性別 (ジェンダー)を与えられるという特徴に着目してほしいということだ。それに対して大柄の犬は男性のジェンダーを与えられている。遺伝子の発現の関係で、 三毛猫のほとんどは雌猫らしいが、それとは無関係に、人類が犬と猫を擬人化する際には、それぞれ男性と女性に割り当てられている。これは、人類の男女の対 称性を、犬と猫にそのまま移し替えたものだろう。擬人化(anthropomorphism)とは、人間以外の事物・動物に対して、人間の性質・性格を与 えたり、「人間語」を発話させたりして、人間以外の事物・動物に人間的性格を与える方法である。よく知られている方法が、修辞としての擬人化である。この 変種の技巧として、眼の前にいない人に対して、あたかも人格をもった対象のように呼びかける方法がある。これを頓呼法(とんこほう)という。「ああロメ オ、ロメオ、あなたはどうしてロメオなの!」と虚空に呼びかけるジュリエットは、空疎な空間に擬人化し、その人が不在であるのにあたかもいるかのように呼 びかける手法である。
04 このようなすばらしい擬人化の想像力は、人類が言語能力を操れる能力から派生しているものと思われる。なぜなら、擬人化がおこるところで は、言語による描写や、当事者に人間語を話させることをおこなっているからである。飼い主が、犬や猫に対して「さあ、きれいきれいしましょうね」と呼びか けて足を拭いたり、風呂に入れたりするのは、擬人化を前提にする頓呼法である。他方で、犬や猫が、飼い主が見えないところで「飼い主を探しているかのごと く」(擬人的表現)鳴き声をあげるのは、その猫や犬が、人間に対して、擬猫化/擬犬化を前提にする頓呼法であると言える。この場合は猫類も狗類も、そこに は見えない人類に対して「呼びかけている」からである。
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