はじめによんでください 

文化猫類学入門

ぶんかびょうるいがく(Introduction to Felisology

解説:垂水源之猫

猫と人間の関係は、非常に複雑ですが、犬と違って、 猫は人間と共進化するほど、人間とコミットしていません。にもかかわらず猫のコンパニオン・アニマルとしての機能は今日では高まる一方です。猫に関する文 化人類学的考察と、猫からみた人間様との関係を描写する、文化猫類学(ぶんかびょうるいがく: Cultural Felisology)の必要性があるようにおもわれま す。

下手の猫好き(へたのねこずき)—— Loving cat but being very bad at it

01「ぶんかびょうるいがくことはじめ」とな! な んて小難しく奇天烈なタイトルなんじゃ! わしの専門は文化人類学、詳しくは人類の病気や健康と文化との関わりについて調べる医療人類学である。だから猫 類(びょうるい)のほうではなく、人類が罹患する病類学の研究のほうでご依頼がくるのじゃと思っていた。

02 さて、なんで猫類なのかというと、我が猫類界 の大恩人である映像作家の岩合光昭氏の劇映画の作品『ねことじいちゃん』が、今般めでたく人類界で公開されることになり、それが本誌の特集に組み込まれる ことに相成ったわけ。そこで、本誌の編集子が、ググったところ、わしの「文化猫類学入門」のページが引っかかり、候補者のリストに載り、その後、わしに メールが届いたというわけじゃ。

03 実は、わしは猫類の専門家でもなく、冒頭に述 べたように医療人類学入門というホームページでネットでの人気を博している。が、その余技として、犬類の研究のページも提供している。狗類は、狗肉の狗= 「ク」を「コウ」とも読ませることから狗類学(こうるいがく)という。題して文化狗類学ページのページも造っておる。近々、若い研究仲間との共著『イヌ革 命宣言』も出版準備中だ! さて、わしは、インターネット黎明期からホームページをつくり続け、現在ではなんと七五〇〇ページほどの分量にまで至った。 「犬」という単語検索をすると、約百六十ページ(2パーセント——これは全体の二割にも及ぶ「医療」の十分の一に相当)が引っかかる。ちなみに「猫」は約 六十ページ、犬の分量の三分の一に過ぎない。このようにわしのレアな関心のネタに本誌編集子はひっかかったわけ。その点で、わしは読者のみなさまに大変申 し訳ないことを致した。

04 猫類のページよりも狗類のページが多く、人類 医療の文化研究の専門家であるわしが、今般『ユリイカ』でデビューさせていただくのは名誉なことではあるが、実は、岩合さんとは、映像を通してではあるが 氏の作品との付き合いの歴史は長い。わしは、某地方大学の理学部の生物学科の出身で、現在は休刊になっている大手の書肆から出ていた動物写真誌(その名も 『アニマ』=魂)や、ちょっと堅苦しい生物科学の啓蒙雑誌(『自然』)の当時は熱心な読者であったからじゃ。

05 岩合さんのお名前は、わしにとっては一九八〇 年代初頭のタンザニアのセレンゲティ国立公園の写真集などで知り、しばし図書館でその作品を食い入るように見ていたものだ。その念願のタンザニアの国立野 生公園にも今から三年前に訪問することができた。その時にわし自身が撮影した野生動物写真を拙論「子殺しと棄老:『動物殺し』としての殺人の解釈と理解に ついて」(奥野・シンジルト編『動物殺しの民族誌』昭和堂)に使ったことがある。

06 岩合さんのお父上・徳光さんは戦前から満州で 活躍されていた写真家であり、彼には動物写真集『交尾』(一九七〇)なんていう素敵な書物がある。ちなみに今日わしが落掌したものは、進化行動生態学者た ちによる『交尾行動の新しい理解』(海游舎)というタイトルの本である。動物のエッチもそれまで人類のそれを想像させるために、好事家の関心を呼び起こす ことから関心や議論が始まった。しかし、今日ではそれを真面目に研究する学者たちのおかげで、性淘汰や進化ゲームなど、極めて洗練した学術的議論のテーマ になっている。

07 光昭さんをはじめ動物映像作家たちが提供する 映像は、人類中心主義の弊を、動物たちの感動的なショットや動画を通して気づかせてくれることにあるが、それはまた同時に学術的な反省をももたらす。著名 なテレビ番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」の中のコーナー「猫識」(ねこしき)は、あたらしい猫類と人類を架橋するコミュニケーション研究への発展の可能性 を秘めた画期的な教育豆知識を提供している。猫類を識ることは、自然と共生することの意義、人間もまた自然の一部であり、自然を破壊し調和を乱すことを、 押しとどめてくれる効用につながる。猫類学は、人類と猫類そしてあらゆる動物との共存、宇宙的秩序との共存をめざす実践運動の別名なのである。

垂水源之猫こと池田光穂による「文化猫類学事始め」 より、出典『ユリイカ』2019 年3月号、Pp.172-179, 2019年

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文献

その他の情報

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歌川国芳「鼠よけの猫」(ca. 1830)

Desmond Moris, Cat in Art の章立て

1.聖なる猫

2.都市の猫

3.修道院の猫

4.悪魔の猫

5.古典巨匠の猫

6.幸福の猫

7.新しい芸術運動の猫

8.アヴァンギャルドな猫

9.伝統主義派の猫

10.ナイーブ・リアリストの猫

11.ナイーブ・プリミティブの猫

12.部族社会の猫

13.東洋の猫

14.漫画の猫

15.ストリート・アートの猫

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にゃおんの恐怖

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Fernando Botero's  cat box, mascot of our class, "Qualitative Study and Ethnography: An introduction"