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カルチャー・ショック

Culture shock, Choque cultural

池田光穂

カルチャー・ショック(Culture shock) とは、自分の属していない文化的環境におかれた人が感じる心理的—生物学的—社会的ショック(Psycho-Bio-Social shock)のことである。そのショックには、一時的には不安、驚き、違和感(違所感)、混乱などがある。また持続するものとしては、抑鬱、不快、そして 文化的偏見(=文化的ステレオタイプ)などがある。

カルチャー・ショックの臨床症状についての、発生メ カニズムや過程、あるいは心理あるいは生物医学的対処法については、それほど深く研究されているわけではない。カルチャー・ショックは、個人の心理経験と して焦点化されることが多いので、それに対処するためには、心理的なコーピングが必要とされる。しかし、事前に、異文化への適応や環境変化への予測を、事 前に知らしめておいて、一種の「精神的免疫(psychological "immunity")」が可能であることは、多くの臨床心理学者や文化人類学者が、経験的に知るところである。

しかし、理念としてのこのような「精神的免疫」を事 前につけたとしても、現場での暑さ/寒さ、不快な匂い、湿気/極度な乾燥、不潔で醜悪な視覚刺激など、身体感覚の五感に直接的に働きかけるものについて は、その当事者にカルチャー・ショックが生じるか否かは、ほとんど予測不可能である。

ショックには、これまた比喩的表現になるが「不顕 性」——ふけんせい、本来の意味は感染しても症状が現れないことを意味する——つまり、通常は自分がカルチャー・ショックを自覚しておらず、元気に過ごし ているのだが、発熱や発汗、いらいらや激高などの身体症状(=身体化, somatization)などに苛まれることがある。このような人には、カウン センリングなどを通して、文化相対主義や、自民族中心主義について説明し、少しづつ自覚していくことが、結果的に、そのような不顕性のカルチャー・ショッ クを和らげることがある——ただし、深刻な症状については、必ず専門医との相談が不可欠である。

先に述べたようにカルチャー・ショックが、どのよう な心理的メカニズムによって生じるのかは、よくわかっていない。また個人差も大きくて、幼年期の異文化体験の影響、ジェンダー差もある(通文化的には男性 よりも女性のほうがカルチャー・ショックに陥りやすいと言われる)。それぞれの文化で、カルチャー・ショックに強い文化とそうでない文化があると主張する 人もいるが、多くの場合、同一文化の中でも個人差つまり個人的感受性の多様性が大きいために、そのような一般化には無理がある。

したがって、異文化経験が豊かな人でも、その人の心 理的—生物学的—社会的経験(Psycho-Bio-Social shock experience)次第で、カルチャーショックに陥ることもあるの で、早計な判断はできない。その意味では、カルチャー・ショックは、異文化経験がもたらす、マイルドなトラウマ経験と言うこともできる。

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