文化の異所性について
On Heterotopia of Culture, or Heterotopic/Heterotopical Culture[s]
植民者は先住民の伝統文化を賛美する.先住民自身もその中に埋没してほしいからだ.植民者が本当に怖いのは自分たちと同じようになりたいと希求する先住民である.先住民社会を近代化する連中だ.——民族学博物館が植民国家に存続する理由
異所性(heterotopia, heterotopy)とは分析的診断用語である。もともとこの用語は、医学の分野で「内臓が本来の場所とは異なる所にある異常」のことである。異所性 の概念は、生命体の個体発生過程において臓器が配置する本来の場所は決まっているという前提にもとづくものである。これをヒントにして、事物の系列(〜 S)が本来置かれるべき社会的文脈の系列(S)と含意関係をもつ場合と矛盾項の関係をもつ場合について考察してみよう。
文化遺産(cultural heritage)とは、過去の世代から受け継いできた集団や社会に受け継がれた有形(つまり触れることができる)や無形(民族舞踊のように直接触れるとことはできない)の伝統(legacy)のことをさす。
1.文化遺産としての遺跡という社会的文脈に置かれ ている考古学遺物の組み合わせがある(s1と‾s2の関係)。この典型的な例として、 遺跡から発掘されつつ彩色土器について考えてみよう。ここでは学問的鑑識眼によって遺物の価値が決定されると同時に出土品の内容如何では遺跡の学問的位置 づけ、すなわち学問的価値そのものをも変えてしまうこともある。発掘された遺物の偉大さによって、出土した遺跡そのものの価値が格上げされるような場合で ある。
2.遺跡から発掘された考古学遺物が研究室に持ち込 まれ分析の対象になったり、また学問上の評価が確立され考古学の博物館に収蔵、展示さ れるような関係(‾s2とs2の関係)がある。これは、考古学遺物が本来あるべき場所(埋蔵されていたオリジナルの場所)から離れて存在している異所性 (矛盾項の関係)である。この異所性には、そのオリジナルの場所との関係において強度の違いがある。つまり考古学博物館は異所性が弱いが、現代美術館には 異所性がより強くなるという具合である。本来の場所である考古学博物館にあるべきような彩色土器が、脱コンテクスト化された状況である政府の迎賓館や現代 美術のギャラリーに存在することを想定すれば、この事態は容易に推測できる(これはs2と‾s1の関係にあたる)。異所性の強度が強いということは、遺物 にとっては疎外状態にあるということである。
3.考古学遺物(‾s2)と「文化遺産としての遺跡 に矛盾し、かつ遺物ではないもの」(‾s1)の関係は意味の四角形によると相反項の関 係にあるため、この例として現代の宝飾品を先に挙げた。しかし、これは考古学遺物が異所性の性質をもち、別の価値が付与されたときには、遺物そのものの属 性が変わりうるということを指している。この代表が芸術品としての考古学上の盗掘品である。なお盗掘品の定義は相対的に決定される。ロゼッタストーンのよ うに歴史的に組織的な盗掘結果掘り起こされたと場合でも、事物の異所性よりも固有の価値に力点がおかれることもある(これはs2と‾s1の関係がs2と ‾s2の関係に移行することを意味する)。
4.文化遺産でもなく、遺跡を含意するものでもない
社会的文脈に置かれた物の例は、観光客が記念に買い求める彩色土器の複製品や模倣とし
てのフォークアートである(s1と‾s1の関係)。おみやげ品は、そこにしか売っていないという理由で購入されることがあるが、それはおみやげ品が遺跡と
いう空間領域(s1)に属していることを証明する。しかし、結果として観光客によって自宅に持ち帰えられるわけ(=異所性を増す)であるから、これらの項
目の関係は図式のどおり矛盾項の関係にある。おみやげ品は本来あったところ(制作された工房や売店の店頭)から矛盾した場所を見いだす。これは見方を変え
ればコレクションの一員として新しい場所を見いだすことにほかならない。複製品が遺跡との関
連性を失い、脱コンテクスト化された彩色土器の複製品が装飾という機能だけになるような場合もある(‾s2と‾s1の関係)。例えば、観光案内所や旅行代
理店に置かれている複製品は脱コンテクスト化された状況にあるが、遺跡観光を演出するだけに機能している(=異所性という概念が意味をもたなくなる)。極
端な例は遺跡にも考古学遺物にも属さなくなった意匠や商標である。
リンク先
文献
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 2017-2019