ゆきゆきてベトコン!*
Charlie ?!, the name is a kind of Vietnamese Rose!
あるいは、「戦争表象論」
あるいは、池田光穂
* ベトコン(Viet Cong)は1960年にゴ・ディン・ジェムが命名したヴェトナム・コン・サン(ベトナム共産主義者)に由来する「自由主義陣営」から常用された蔑称に由 来していますが、本授業では敗北者の傲慢を皮肉る用語として講義題目に用いています。
**また越南(Viet Nam)をどのようにカタカナ表記するかで、ヴェトナムとベトナム、ヴェトコンとベトコンの2種類の表音方法があります。したがってインターネットなどで 日本語検索する際には、この2つの表記法で試してみることをおすすめします。
まずつぎの2つの発話を見ていただきたい。
「おそらくこの戦争は結局のところベトコンの勝ちで、インドシナ半島はコミュニストの手 に落ちるだろうと思う。おれはいいことだと思わぬが、どうしようもない」
開高健(『ベトナム戦記』朝日新聞社、1965 年)が聞いたアメリカ軍人の話(この引用は後述する武田[2003:113]から引用しました)
「この戦争がいかように終わろうとも、おまえたちとの戦いは我々の勝ちだ。生き延びて証 言を持ち帰るものはないだろうし、万が一だれか逃げ出しても、だれも言うことなど信じないだろう。おそらく疑惑が残り、論争が巻き起こり、歴史家の調査も なされるが、証拠はないだろう。なぜなら我々はおまえたちとともに、証拠も抹殺するからだ。……ラゲール(強制収容所)の歴史は我々の手で書かれるの だ」。
(ナチス親衛隊の兵士)→この発話は特定の個人に よるというよりも、ユダヤ人絶滅のための収容所においてユダヤ人「囚人」に対してドイツ親衛隊の兵士が異口同音に語っていたものであるという[レーヴィ 200:314]レーヴィ、P 2000,『溺れるものと救われるもの』竹山博英訳、東京:朝日新聞社
おそらくクリオ(歴史をつくったギリシャ神話の神)というやつは、人間の浅はかな憶測をうち 砕くとことん皮肉なやつだろう。実際は、前者のベトナムはコミュニストの手に本当に落ち後に、今度は逆方向にドイモイという資本主義的近代化路線を爆走し ている。ナチスの兵士の傲慢は暴かれ、何百万にもおよぶ口を封じたが、おびただしい虐殺の歴史がかなりの確度をもって——これは人々の努力の積み重ねとは 言え「奇跡的復活」と言っても過言ではない——再現されるようになった。
私が君たちに学んでほしいことは、歴史(クリオ)というもののとらえどころのなさ。常に我々 の忘却を嘲笑し、とんでもないことを提示する偶然の神であるということだ。そこでは「科学的な歴史学(Scientific History)」というものは茶番にすぎないし、ヤヌス面をひとつの面でつくった偶像のご開帳のカーテンの裾を引く「民主的な歴史家 (Democratic Historicist)」が出る幕はない。つねに流動する価値観の中で、くりかえし自分のもつ真理を吟味し続けるど素人の人間こそが、皮肉屋で気まぐれ なクリオとつきあうことができるのだ。
【授業の形式】演習
【授業の目標】
ベトナム戦争について、以下の4つの点に着目して学びま す。
(1)その歴史的経緯に関する事実
(2)その成因と当時の世界の動き
(3)当時の戦争理論
(4)以後の世界秩序の形成プロセス
したがって、これらの4つの項目について授業が終わった時 点で理解していることが、この授業の目標になります。
【授業の内容】
ベトナム戦争(1954[1961]-[1973] 1975)について、徹底的(!)に学びたい人のための授業です。この目標のために受講する学生は、平和主義者、反戦論者、戦争・軍事オタク、右翼/左翼 など政治の思想信条を問わず——言わずもがな——どなたでも受け入れます。みなさんは、与えられる課題書を自力で探し出し、読解をし、参考図書を使って分 析し、そして授業に積極的かつ戦闘的に参入し、そこで繰り広げられる議論に貢献しなければなりません。予備知識はいりません。勉強をやる意欲とど根性を持 参して教室においでください。
なお、ベトコン(Viet Cong)は1960年にゴ・ディン・ジェムが命名したヴェトナム・コン・サン(ベトナム共産主義者)に由来する「自由主義陣営」から常用された蔑称に由 来していますが、本授業では敗北者の傲慢を皮肉る用語として講義題目に用いています。
【読書リスト】
【キーワード】
ベトナム戦争、ベトナム社会主義共和国、アメリカ合州国、 南ベトナム国民解放戦線、戦争と平和、軍事理論、戦争表象、ベトコン(蔑称)
【テキスト】
参加予定者の学習目標に応じて、各自1冊づつ割当ます。そ れ以外に、配布される印刷物などがテキストになります。
【参考書】
私のネタ本は、Gabriel Kolko, Anatomy of a War. London: Phoenix Press. 1994[1985]です(定価15ポンド)。この本の翻訳は社会思想社から出版されましたが、会社は倒産しました。しかし、直接メールを書くと入手方法 を教えてくれますが1万円以上の高額です。
【成績評価】
与えられた課題の発表、レポート、試験による総合評価
【履修指導】
大学の授業だから毎回出席するのは当たり前です。
受講登録の前によくこのシラバスを読んでください。ウェブ ページあるいはメーリングリストなどで情報提供しますので参照してください。
【事前・事後学習】
ウェブページあるいはメーリングリストなどで情報提供しま すので参照してください。
「ゆきゆきてベトコン!」用テーマ別
読書カタログ
* ベトコン(Viet Cong)は1960年にゴ・ディン・ジェムが命名したヴェトナム・コン・サン(ベトナム共産主義者)に由来する「自由主義陣営」から常用された蔑称に由 来していますが、本授業では敗北者の傲慢を皮肉る用語として講義題目に用いています。
**また越南(Viet Nam)をどのようにカタカナ表記するかで、ヴェトナムとベトナム、ヴェトコンとベトコンの2種類の表音方法があります。したがってインターネットなどで 日本語検索する際には、この2つの表記法で試してみることをおすすめします。
回数、日程 | テーマ | 内容・とりあげる作品 |
1 | ベトナムの表象とはなにか? | トリン・ミン・ハ『姓はヴェト、名はナム』
マーティン・スコセッシ『タクシードライバー』 マイケル・チミノ『ディアハンター』 『ランボー』 大友克洋『気分はもう戦争』 樹村みのり「星に住む人びと」『星に住む人びと』 秋田書店 ボニータコミックス > 1982年10月10日発行 筒井康隆『ベトナム観光公社』 澤田教一・酒井淑夫『戦場——二人のピュリツァー賞カメラマン』共同通信社、2002年 武田徹「第2章 ベトナム戦争の報道」『戦争報道』ちくま新書、pp.73-144, 東京;筑摩書房、2003年 |
2 | ベトナム戦争クロニクル | 生井英考『ジャングルクルーズにうってつけの日』ちくま文庫、1993年[★原著は1987年を増補したもの。この本は私のベトナム戦争への関心を確固としたものとし、{医療人類学を専攻する}私の研究
そのものにもさまざまな影響を与えた本でした]
朴根好「ヴェトナム戦争と「東アジアの奇跡」」山之内靖・酒井直樹編『総力戦体制からグ ローバリゼーションへ』所収、Pp.80-120、東京:平凡社、2003年。 |
3 | 国民解放の思想 | ファノン『地に呪われた者』
チャールズ・フェン『ホー・チ・ミン伝(上・下)』(岩波新書) 陸井三郎訳、岩波書店 |
4 | 植民地暴力 | コンラッド『闇の奥』
コッポラ、F.F.監督『地獄の黙示録』 ◆『地獄の黙示録』(仮 想授業用シラバス) キャサリン・ベステマン編『暴力論集(Violence, A Reader)』[リンク] |
5 | 「残虐な『日本』兵」の表象 | ヴァン・デル・ポスト『影の獄にて』
思索社(→大島渚監督『戦場のメリークリスマス』)[影の獄他のヴァン・デル・ポスト評は、山口昌男(「本の神話学」?)にある]
J・G・バラード(Ballard, James. Graham., 1930-)『太陽の帝国』高橋和久訳、東京:国書刊行会。(→スピルバーグ監督『太陽の帝国』)[→Guardian Unlimited によるバラードの紹介はこち ら] |
6 | 戦争の記憶 | 原一男『ゆきゆきて神軍』
山田洋次監督 『馬鹿がタンクでやってくる』 |
7 | 天皇のポートレイト、あるいは御真影の威光 | 若桑みどり『皇后の肖像』筑摩書房
原武史『可視化された帝国』みすず書房 田中丸勝彦『さまよえる英霊たち』柏書房 ———— 筒井康隆『ベトナム観光公社』 |
8 | 核戦争の脅威 | ディビッド・ハルバースタム(Halberstam,
David)『ベスト&ブライテスト(上・中・下)』浅野輔訳、朝日文庫、東京:朝日新聞社、1999年[原著は定冠詞がついてThe
Best and the Brightest で、1972年に出版されています]
マクナマラ、R.S.『マクナマラ回顧録 : ベトナムの悲劇と教訓』仲晃訳、 東京 共同通信社、1997年 |
9 | べ平連 | ヘイブ ンズ、トーマス R.H.『海の向こうの火事
: ベトナム戦争と日本1965-1975』 吉川勇一訳、東京:筑摩書房、1990年
鶴見良行『べ平連』(鶴見良行著作集2)東京 : みすず書房、2002年 小熊英二「第16章 死者の越境」(鶴見俊輔と小田実、と吉川勇一[少しだけ]について の記述があります)『<民主>と<愛国>』Pp.717-792、東京:新曜社 |
10 | 全共闘 | 全共闘白書編集委員会編『全共闘』東京 : 新潮社、1994年 |
11 | 「優しい侵略」:右翼の修辞学 | 小林よしのり『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL台湾論』小学館、2000年
東アジア文史哲ネットワーク編『<小林よしのり『台湾論』>を超えて』作品社、2001 年 矢内原忠雄『帝国主義下の台湾』岩波書店、1988年(オリジナルは1929年) |
12 | 兵士の実践共同体 | チェ・ゲバラ『ゲリラ戦争』
毛沢東『実践論』 『マッシュ』 『フルメタル・ジャケット』『ブラック・ホーク・ダウン』 ◆ マクドナルド化する社会 |
13 | 水俣からみるベトナム戦争 | 環境汚染:枯葉剤(→残留DDT、ダイオキシン)
人災・過失:カネミ油症 レイチェル・カーソン『沈黙の春』青樹簗一訳、新潮文庫、東京:新潮社、2001年 岡村昭彦,1972「ベトナム戦争と水俣病——「新」植民地主義者の二つの顔」『国労文 化』7号、ページ不詳。(→この文章は岡村昭彦集(筑摩書房)には収載されていません) 社会問題をどのように表象するか? 石牟礼道子、森崎和江、姜信子 |
14 | 総合討論 | 総合討論 |
15 | 試験 | 筆記試験 |
■ 関連リンク
愛の新世界(池田光穂)
樹村みのり「星に住む人びと」関連の情報には、島田菜穂子さんに教えていただきました。 ありがとう!
草思社の本(ベトナム関係)
C・D・B・ブライアン 常盤新平訳 鈴木主税訳 *友軍の砲撃(上・下) ベトナム戦争での息子の「非戦闘」の死に不審を抱いた夫妻が、真相を究明する中で生じた国家との葛藤を克明に描いた秀作。シュワルツコフが大隊長として登 場する。 (上)4-7942-0131-1 (下)4-7942-0132-x 四六判上製 上下各288頁 各1600円 1981年
ドン・オーバードーファー 鈴木主税訳 *テト攻勢 テト攻勢の全貌を計画から歴史的影響に至るまで、戦線の両側から明らかにし、戦争・政治・報道・世論の相互作用のケーススタディとして見事に成功した書。 4-7942-0019-6 四六判上製 390頁 1200円 1973年
ダニエル・ラング 内山 敏訳 *戦争の犠牲者たち ベトナム一九二高地虐殺事件 ベトナム娘を強姦虐殺した仲間を告発した一米兵の内面の葛藤と、その後の裁判の模様を克明に描き、戦争と個人の倫理のかかわりを抉り出した記録文学の秀 作。 4-7942-0369-1 B6判変上製 168頁 971円 1970年
タウンゼント・フープス 丸山静雄訳 *アメリカの挫折 インドシナへの軍事介入とその限界 1968年3月の米軍の北爆停止はいかにしてもたらされたか。当時のアメリカ空軍次官がこの劇的な政策転換過程を具体的に明らかにした貴重な回想録であ る。 4-7942-0005-6 四六判並製 336頁 880円 1970年
セイムア・ハーシュ 小田 実訳 *ソンミ ミライ第四地区における虐殺とその波紋 ベトナム戦争のひとつの象徴、ソンミ村大量虐殺事件の全貌を、虐殺に参加した兵士たちとのインタビューをもとに再現した歴史的報告書。ピュリッツァー賞受 賞。 4-7942-0003-x 四六判上製 248頁 1200円 1970年
2003年4月18日の課題
ベトナム戦争に関するどんな本・パンフレットでもよいから、来週の授業までに用意すること。
年月日 | テーマ | 授業内容 |
2003年4月18日 | はじめの授業 | この授業の目的、学習目標、全体の紹介 |
4月25日 | 図書を探す | 必要な文献を探す |
5月2日 | 図書の紹介 | |
5月9日 | 読書報告会 | |
5月10日 | 読書報告会 | |
5月16日 | 読書報告会 | |
5月23日 | 読書報告会 | |
5月30日 | 読書報告会 | |
6月6日 | 読書報告会 | |
6月13日 | 読書報告会 | |
6月20日 | 読書報告会 | |
6月27日 | 読書報告会 | |
7月4日
7月11日 |
ベトナム戦争から何を学ぶのか? | |
7月18日 | まとめ | まとめの授業です |
私たちはこんな本を探してきました
2003年5月2日
小倉貞男『ベトナム戦争全史』 | 『我々はなぜ戦争をしてきたのか』 | ||
『ベトナム秘密報告』 | 小倉貞男『ベトナム戦争全史』 | ||
『地球の歩き方——ベトナム』 | 陸井三郎『インドシナ戦争』 | ||
本多勝一『ベトナム戦争』 | 谷川栄彦『ベトナム戦争の起源』1971 | ||
本多勝一『戦場の村』 | 井川『このインドシナ』1980 | ||
陸井三郎編訳『ベトナム帰還兵の証言』 | 坪井善明『ベトナム:豊かさへの夜明け』 | ||
福浦 | 竹内正右『モンの悲劇』 | 楊 | 『世界の教科書:ベトナム』 |