人は社会との関わりあいのなかで学ぶ
People learn by interacting with society
社会的実践がくりひろげられる場を実践コミュニティないしは実践共同体(と もに community of practice)という。学校や職場など。人びとは実践コミュニティ [実践共同体とも言 う]において、さまざまな役割を担い、行為することで、実践共同体を維持することに貢献する。実践共同体あるいは実践コミュニティ(community of practice)とは、参与者(参加者)が、ある集団への具体的な参加を通 して知識と技巧の修得が可能になる場のことである。また、そのような参加者の社会的実践がくりひろげられる場も総称して、実践共同体あるいは実践コミュニ ティ(community of practice)という。
人間の社会集団にとって、なぜ実践コミュニティが重要になるかというと、私は「(人間の認識にお ける)文脈における理解とは、身体性を必要とするからである」と思う。(→「現場力」「ZDP」)
実践コミュニティ概念の提唱は、(1)学習の場における知識の伝達過程に関する再検討の必要性、 (2)学習における参与という活動がもたらす社会的意味を状況という観点から考え直す、(3)現場に身体を置くことの身体論および認知論的意義、などにつ いて、これまでの人間科学のあり方について再考をもたらしつつある。
治療や不幸の解消のための礼拝の信徒集団(カルト)は、最初は患者(クライアント)として関わ り、次第に先輩=先達、師匠をアシストする常連のコアグループに接近してゆく。その中で、憑依したり、霊能力を発揮したり、あるいは、霊能者の活動を幹部 として支えるメンバーに成長してゆく。これが、霊媒カルトが永続するための必須条件である。すなわち、霊媒カルト集団には、実践コミュニティとしての性格 がさまざまな箇所でみられる。
したがって、参加(participation)と は、学習者が実践を生成する過程であると同時に実践共同体に関わる環境の変化についての過程のことになる。参加 は、学習者の技能と知識の変化、周りの外部環境との学習者との関係の変化、学習者自身の自己理解(内部環境)の変化から分析される。——池田光穂 (1999)出典:「実践共同体・基礎用語・定義集」
実践コミュニティ概念にとって、重要な補完的概念は「最近接発達領域(ZPD)」である。さいき んせつはったつりょういき, Zone of Proximal Developmentとよばれる、この概念とは、ロシアの心理学者レフ・ヴィゴツキー(L.S. Vygotsky, 1896-1934[写真])が提唱した、他者(=なかま)との関係において「ある ことができる(=わかる)」という行為の水準ないしは領域のことである。これは、学習過程では理解できる児童の「理解構造」がなんらかの形でスピルオー バーして、他の児童に影響を与えている可能性があることを示唆する(またその検証が必要である→「『学習する社会を創造する』を読む」)。 あるいは、学習者の間に良好なコミュニケーションが確立している場合には、能力別クラス編成よりも、さまざまな学習能力者が混在している「非競争的なごた まぜ状況」のほうが、学習者の効率向上が見込まれるだけでなく、集団全体の学習習得の総成果(マクロ経済でいうところのGDPに相当)も増大する可能性が ある(→「パレート最適」状態)。
電脳人類大学附属・電脳人類学研究 所が提供する「異能の人を発掘する(訪問術B)2019」授業