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儀礼のなかの実践

講釈師:池田光穂

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■コミュニティの再生産様式(pp.151-)

・「師の霊」というカリスマ

「霊媒カルトはクライアントを獲得するために他のカルトと競合するが、他方でそのコミュニティ特有の再生産の様式をそなえている。それは新たな霊媒という人格そのものの創造であり、それによって霊媒カルトは師弟関係によるネットワークを形成する」。151頁

・救済のイデオロギー:「自分の身体に憑依する守護霊は、衆生を救済するために降臨する」(p.150)。

師の霊(ピー・クー)=カリスマ(charisma、ギリシャ語由来のラテン語:恩寵、賜(<grace)):「「師の霊」とはそれら(=霊媒に 憑依する複数の)守護霊を指すのではなく、その憑依の仕方、技法を可能にするような超自然的な力である。……「師の霊」という力は彼らの憑依の技法や憑依 した守護霊の行為や言葉に正統性をあたえる根拠であり、それをなくして霊媒たちは権威をもって患者やクライアントに対応することはできない」 (p.152)。

高坏(カン・クー)151:師弟関係のシンボル(記号

・したがって、それ(=師の霊)は、カリスマ(M・ウェーバー)であり、象徴資本(P・ブルデュ)である。[→用語解説]152

■カリスマを共有する関係のネットワーク153-

・師弟関係のネットワーク→「奉納ダンス」により強化154

奉納ダンス」154-

・その実例としての「師の霊の崇拝」(ヨック・クー)pp.154-。

■カリスマの継承によるネットワーク形成(p.155)には、レイブ&ウェンガーのような「相互参与」よりもダンスのような身体所作が重要になる。155

3.霊媒となる身体技法156-

■霊媒の身体技法(pp.156-)

・「人を癒す」(ヤー・ヨン)

・占い=原因追及(p.158)=守護霊の怒りを引き起こした侵犯行為

・守護霊を招く高坏(カン・チューン)

・供物や現金を入れて霊媒に差し出す高坏(カン・タン)156

※即興的な変身とダンスが重要157

■癒しの過程――占いと治療157-

・クライアントにアイデンティティの混乱を引き起こしながら、自己から守護霊へのアイデンティティ転換のセッションを繰り返しながら、守護霊にふさわしい心と体をつくりあげる(=構築する)。

・「癒しの過程は憑依をコントロールする身体技法を学習することに強く関係している。そこでは霊媒の治療行為と患者の学習は一体となり、アイデンティティ危機をのりきる憑依の技法を体得していくことによって癒しが実現するのである」(p.160)。

◎「未知の精霊を求めて」159-

■連続した憑依の身体技法(p.161)

【1】守護霊を自らの身体に降臨させるための準備――(具体的行為:   )

【2】憑依状態に入る身体動作――(具体的行為:   )

【3】憑依状態から脱する身体動作――(具体的行為:   )

【4】憑依状態における身体動作とパフォーマンス――(具体的行為:   )

・「すべての実践知の場合と同じように、これらの行為は言葉などによる概念表象よりも身体動作を中心とするある種の模倣によって習得される。霊媒はこれらの一連の行為について言葉で説明し教示することはほとんどない」(p.162)。

◎「型をなぞる」162−

アーキタイパル・アクション(原型行為)とトークン(代用型行為)

・K・ハンフリーとJ・レイドローのジャイナ教の礼拝儀礼による。

原型行為(archetypal action)は「歴史的に形成されてきた特徴ある手本となるような行為の型」(p.162)。

・トークン:原型行為にならって自分自身の身体をもちいて実践される行為。

・原型行為は、一連の理想化された行為とされているが、個別の行為として区分することもできる。上述の【1】から【4】のように。

・「憑依を構成するそれぞれの身体動作は、多くの人びとによって歴史的に再生産されてきた原型行為をなぞりつつ、多少ともそこから差異化した代用型を生みだすことである。代用型行為とは実践の積み重ねによるミクロの差異の生産である」(p.163)。

◎「手本と差異」164-

・それ(=憑依の行為)は、自動的に無限に生みだされる実践(P・ブルデュ)とは異なる(p.164)。

4.レパートリーと権力ゲーム165-

■説明モデル(A・クラインマン)の解釈

説明モデル】 「A・クラインマンが『文化の文脈における患者と治療者』(1980) の中で提唱した、人々が病気になった時に、どのように考え、どのように対処するのかついて、人々が考え行動する病気対処行動の形式的描写のことを、説明モ デルという。この説明モデルは医療者側(=専門家モデル、ないしは専門家型)にも患者とその家族の側(=民俗モデル、フォークモデル)にも病気を説明する 際にいくつかの共通点がある。例えば、......」- 説明モデル.

・「治療者と患者の間では、病気という出来事と治療のやり方について個別の解釈や選択があることを指摘」した。それを「説明モデル」と呼んで「治療者と患 者の間で病気の原因やその治療法などについて衝突したり、反抗したり、折り合いをつけるなどの相互行為がくりひろげられると言う」(p.166)。

・説明モデルは、集合表象ではなく、個別の偶発的な出来事を説明する解釈や選択のことを指している(=「それはあくまで治療者と患者という個別的で具体的な臨床現場における解釈や選択を問題にしている」p.166)。

■占いにおける託宣の問題

活動の資源としての行為のレパートリー:「実践コミュニティにおけるレパートリーとはその内部における人びとの実践を組織し、相互行為の流れを作ってゆ くコミュニティ特有の資源である。霊媒カルトでは霊媒による占いと託宣がコミュニティの主要なレパートリーとなっている」(p.167)。

・それは、発語がもちうる〈力〉なのか?:言語行為論→「行為遂行的発話と事実確認的発話

・「これらの託宣は結果的にそこに集まる人びとの行為に影響を与える。つまり、それは霊媒のカリスマ(象徴資本)に支えられて威力を発揮する。……オース ティンの〈言語行為論〉は託宣のような儀礼的言語を発すること自体が行為であり、そこに人びとの思考や行為に影響をおよぼす力、すなわち〈発話内力〉が発 生すると考える。しかし、その発せられた言葉自体に力が内在しているのではなく、社会的な行為のなかではじめてその力が発揮されることに注意しなければな らない」(p.168)。

・解釈のピンポンゲーム:「重要なのは、霊媒から発せられた託宣がそこに集まる患者やクライアントとの対話をとおして彼らの間でその解釈についての了解が成立してゆくことである」(p.168)。

■5つの事例(2つのセクションにまたがる)(→「ライフヒ ストリー分析」)


【1】チェンマイの空軍連隊の元将校:→男女の相性占い:169

【2】デパートに勤めている30代の女性:母系祖霊信仰を軸にした供犠169-170

【3】HIVに感染している30代の青年:家の祖霊の供養:171

【4】80歳の眼病を患った霊媒:盲目になることの効用を説く:172

【5】重い心身障害を訴える20代の女性:剣舞の教授:172

※【1】〜【3】はレパートリー問題をとく応用として、後者【4】と【5】は、物語としてのレパートリーを解釈する実例として考える。つまり、霊媒カルト は、占いの図式を機械的に適用するのではなく、レパートリー自身をその資源として、治癒=癒しの物語(語りの力と、それを発揮させる社会的文脈を認識させ る)を実現させることができる。

複線径路・等至性モデル(Trajectory Equifinality Model, TEM)】の紹介

「サ トウ・安田・木戸・田・ヴァルシナー (2006)が提唱した、限られた事例から一般化したモデルをつくるときに、非可逆時間の経緯のなかで、分岐点(=その時点での経路が変わるポイント)と 等至点(とうしてん:=異なった経路だが結果的に同じオプションに帰着する事後的な合致点)の組み合わせで、(実際におこったものと/起こりえたかもしれ ない)現象を同等に取り扱う方法である。」



◎「物語というレパートリー」173-

■モードゥス・オペランディとしてのレパートリー:174-

・「霊媒カルトは霊媒とクライアントとの対話による物語の作り方において特色があり、それがレパートリーというそれぞれのカルト独自の資源となっている。 霊媒カルトのレパートリーは、病や悩みを解決し、幸福を導きだす物語の作り方、すなわちそれぞれの霊媒カルト独自の〈modus operandi〉である」(p.174)。

modus operandi(やり方, operational mode?)は「作業の手順やスタイルに関わる様式であり、完成された作品(opus operatum, operated works?)を生みだすまでにとられる方法の集合」(p.45)

◎「権力関係」174-

■権力の問題176-

・霊媒カルトにおける〈権力〉とは?――経済的財力、政治的権力、法権力とは異なる。

・実践コミュニティ・モデルでは、権力関係は中心と周辺の人間関係の矛盾や葛藤としてしか捉えていない(=田辺の批判の骨子)。

・霊媒は中心に存在し[→池田の作図をもう一度参照]、そこには中心から周辺に拡がる〈ヒエラルキー〉が存在している。しかし、霊媒はクライアントに支配―従属関係を押しつけるのではなく、クライアントの相談にのる〈コンサルタント〉として機能する。

「自由の余地をもつ、開かれた可変的な権力関係の形成」(フーコーよりの引用)※フーコーの権力論

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