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フィールドワーカーたちの精神分析

On anthropological fieldwork, under construction

池田光穂

フィールドワークする人たち(persons doing fieldwork)が、フィールドワーカー (fieldworkers)たちである。

フィールドワークとは、「研究 対象となっている人びとと共に生活をしたり、そのような人びと[インフォーマント] と対話したり、インタビューをしたりする社会調査活動のこと」である。フィードワークにおけるフィールドワーカーの認識論については「フィールドワークの現象学」で、私は書いた。

フォールドワークという知識生産の方法というものを実践することはそれほど難しくないが——でな いとこれだけ「手放しのフィールドワーク万歳論」が大衆に膾炙するわけはないのだ——フィールドワークが何であるかを教室の中で説明するのは容易ではない と、多くの大学教師は考えているようだ。「手放しのフィールドワーク万歳論」を私も戒めるの は研究倫理というジャンルの一部を形成する「フィールドワークの研究倫理」が、必須であり、それを教えないことには、学生たち、フィールドワークに誘うわけにはいかない、専門家の倫理も働いている。また、フィールドワークで出会う危険性(事故、盗難、暴力事件、 調査妨害、抑うつ、適応障害、あるいは過剰適応など)などのヘルスケアを含むリスクマネジメントも必要になるだろう。

そして、他者を相手にするフィールドワーカーたちの、倫理を含む、心の動きについて知ることが重 要であると思う。フロイト派でもフロイト-ラカン派でも、他者を相手にするフィールドワーカーには、なんらかの不調が生じた時には、精神分析が必要になる だろうと、考える次第である。なぜ精神分析なのか?それは「無意識領域に抑圧された葛藤などの内容を自覚し、表面化させて、本人が意識することによって、 症状が解消しうるという治療仮説」に立ち、「人間の心や精神を理解する包括的な心理学として台頭し、様々な近接学問や人文学思想に影響を与え」ており、こ こで考えることは文化人類学の発展にとって決して無駄ではないと考えるからである(→ウィキの「精神分析Psychoanalysis)」)。

捉 え難い真理への探求と、人類学の研究倫理

「他の人々がわれわれを見るようにわれわれ自身を見ることは、目を開かせるものとなろう。他の人 々にもわれわれ自身と共有するところがあるとして見ることは、最低限の心得である。しかし、われわれ自身を他の人々のさなかに見る、すなわちわれわれ自身 を、人間の生がある地でとったかたちの固有(ローカル)の実例として、諸事例の中の一事例、諸世界の中の一世界として見るというはるかに大きな困難を達成 して初めて、それなくしては客観性は自己賛美となり寛容性は偽善となる類いの心の広さが得られるのである。もし解釈人類学が果たす一般的役割というものが あるとすれば、この捉え難い真理を教え続けることである」(ギアーツ 1991:24):ローカル・ノレッジ : 解釈人類学論集 / クリフォード・ギアーツ [著] ; 梶 原景昭 [ほか] 訳、東京 : 岩波書店, 1999.9

"To see ourselves as others see us can be eye-opening. To see others as sharing a nature with ourselves is the merest decency. But it is from the far more difficult achievement of seeing ourselves amongst others, as a local example of the forms human life has locally taken, a case among cases, a world among worlds, that the largeness of mind, without which objectivity is self-congratulation and tolerance a sham, comes. If interpretive anthropology has any general office in the world it is to keep reteaching this fugitive truth." (Geertz 1983:16): Local knowledge : further essays in interpretive anthropology / by Cli fford Geertz. New York : Basic Books, c1983

リンク(文化人類学関係)

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フィールドノートをとるスティーヴン・タイラー[画面をクリックすると拡大します]