カール・マンハイム
Karl Mannheim, 1873-1947
カール・マンハイム(Karl Mannheim, 1893-1947)の主要な業績は次の点にまとめられる。
(1)存在被拘束性(Seinsverbundenheit)
マルクスのイデオロギー論から、あらゆる知識には歴史的・社会的な文脈により条件付けられているという議論。議論や理論の絶対性を回避する ための相対主義ではあるが、相対主義の地獄からの回避方法として相関主義(Relationismus)という、それぞれの視座の拘束性を相互に観察する という方法をとる。
この存在被拘束性の議論は、マックス・シェーラー(Max Scheler, 1874-1928)とともに築き上げたのマンハイムが築いた知識社会学(Wissensoziologie)[ただしシェーラーは「文化社会学」とい い、その文化概念は社会哲学あるいが神学的なハイカルチャーに属するものである]であり、その代表的な著作は『イデオロギーとユートピア』(1929)で ある。
このアイディアを受け継ぎ北米での社会学理論を展開したのが、ご存じロバート・キング・マートン(Robert King Merton, 1910-2003)——中範囲理論や予言の自己実現の概念でお馴染み——である。
(2)時代の診断学
現代がどのような状況におかれているのかについての現代学(Gegenwartskunde)を提唱。これには、ハンガリー生まれの亡命ユ ダヤ人としての「境界人」経験(=マージナル・マン[ママ])が生かされているという。
マージナルという意識は、ベルリン大学時代に学んだゲオルグ・ジンメル(Georg Simmmel, 1858-1918)からの強い影響もうかがわれる。
マンハイムは、第一次世界大戦後のハンガリー革命[〜1919]に、ルカーチや バラージュ[Balazs Bela, 18884-1949;脚本家・作家、詩人。映画評論『視覚的人間』1924が有名]とともに参加する。
(3)大衆社会論への注目
のちに大衆社会論——原語では mass society ——と呼ばれる領域研究のジャンルをつくりだした。マンハイムの影響を受けている後の社会学者には、ディビッド・リースマン(David Riesman, 1909-2002)——伝統指向・内部指向・他人指向という人間類型論が有名、エーリッヒ・フロム(Erich Fromm, 1900-1980)——ネオ・フロイト派でファシズム社会心理の分析『自由からの逃走』(1941)が著名、チャールズ・ライト・ミルズ (Charles Wright Mills, 1916-62)——デューイ・プラグマチズムとウェーバーを総合した批判的社会学の創設者——などがあげられる。これらの連中は大衆社会論に関しては、 マンハイム以上のオリジナリティのある研究領域を開拓したが、その着想を切り開いたマンハイムの業績は忘れてはならない。
(4)知識社会学の構想
(1)の存在の被拘束性の議論の延長上にあり、彼の知識社会学の構想と切り分けて考えることができないことに、まず注意すること。
【虚偽意識】
・「マルクスとエンゲルスは、イデオロギーに軽蔑的な意味合いを付与した。なぜなら、彼らは、すべてのイデオロギー的思考を論理の不 誠実な使用、支配階級の立場を正当化するために行われる意識的ないしは無意識的な事実の歪曲であると見なしたからである。イデオロギ ーとはエンゲルスの特筆すべき言葉によれば「虚偽意識」を意味する。虚偽意識は行動に根拠を与えるという主張は、……観念とイデオロ ギーある程度の自律を享受するという認識、すなわち、観念の経済的システムへの依存に関するマルクスの初期の所説とは両立しない認識 を提起する」(Mustafa Rejai, イデオロギー, 『西洋思想大事典』1巻, p.133)。
・「マンハイムのアプローチは、重要な点でマルクスのアプローチとは違っている。(マンハイムは)イデオロギーを全体的な社会構造、 とくに政治党派の上に基礎づけた。……さらにマンハイムは、マルクスのアプローチは不当にも2つの異なったタイプのイデオロギーを混 同している、と主張する」。つまり部分的イデオロギー概念と全体的イデオロギー的概念である。「部分的イデオロギー概念とは、「イデ オロギーという言葉によって、たんに敵対者の特定の〈理念〉や特定の〈考え〉が信じられないという程度のことを意味する場合である」 『イデオロギーとユートピア』pp.55-56, 邦訳166頁)。これが部分的なのは、この批判が全体への批判に展開しないからだとマンハイム は主張する。他方「人は、ある時代のイデオロギー、ないし時代や社会によって具体的に規定されたある集団——例えば階級——のイデオ ロギーについて語ることができる。この場合には、イデオロギーという言葉によって、その時代なり集団なりの、全体としての意味構造の 特徴や性格が考えられている」『イデオロギーとユートピア』p.56, 邦訳166頁)(Mustafa Rejai, イデオロギー, 『西洋思想大事典』1 巻, p.134)。[→サイト内リン ク]
Sociology of Knowledge
“…The nature of knowledge has been a central problem of philosophy
at least since GraecoRoman times. Plato, for example, in Thextetus
adopts a scientific approach to knowledge and cognition. The
recognition, however, that knowledge in the broadest senses is
contextdependent and somehow constrained by social factors is of more
recent origin, as is sociology itself…”
“…The modern sociology of knowledge, by contrast, investigates the
interconnections between categories of thought, knowledge claims and
social reality – the Seinsverbundenheit
(existential connectedness) of thought (Karl Mannheim)…”
《文献》