臨床とは?(2)
What is the Human Care in Practice ?
今日の授業もグループワークをやります。
先週には次のような宿題を出しました。
臨床・臨床的という語彙を集めてきてください。辞書検索やネット検索などを通して「臨床」という語彙リストがどれくらいできるでしょうか。そのリス トの中で、みなさんが一番ひっかかる(気になる、知りたい、異様と思うなど)用語あげて、それに関して、なぜひっかかるのかという理由を含めた短いエッ セーを書いてきてください。
さて、今日はこのことについて、皆さんと一緒に議論しましょう。
まず宿題を用意してきても、きてこなくても、以下のワークシートを埋めてみましょう。宿題の内容を整理するためにワークシートに記載された論点にしたがって記載してください。皆さんが思っている論点がより論理的に整理できるはずです。
——臨床・臨床的という〈形容詞〉に結びつく、語彙をなるべく多くあげてください。
____ |
——その中でもっとも〈気になる語彙〉を1つあげてください。そして、なぜ、その用語が気になるのかについて、他の人に分かるように簡単に説明してください。
[私にとって気になる〈臨床〉なになに語] . [その理由] ____ |
——本日の課題は、このことと前週のワークをふまえて、【1】みなさんたちが〈臨床〉と呼ばれているものについて「臨床とは〜のことである」とい
う定義を与え、【2】そのような定義にふさわしい事例を3つ挙げ、かつ、そのような事例をより深く理解するためには【3】どのような手法(方法論)を用い
たらよいか考えてください。
——以下はワークで使います ・メンバーの名前を記入しましょう[あわせて所属と簡単な自己紹介をしましょう] ・司会とレポーターの決めましょう ・前回、司会役を務めた人は今日はお休み |
このワークを10分間おこないます。
ワークが終了したら、次にグループ討論に入ります。今回の授業でとりあげるルールについては前回の授業で説明しました。[→前回の授業記録を読む]
見にくい場合は画像をクリックしてください。面積比で約2.8倍に拡大します。
グループ議論は以下のようなステップを踏んで進みます。【文字が小さい青色の部分は再掲です】
このようにして制限時間が来た時点で議論を切り上げるようにします。
その次は、授業(教室)全体で各グループの発表をレポーターにより発表してもらいます。これをおこなう理由は、グループのすべてを聞いて回るとすべての議論について聞くための時間と労力が膨大になるためです。
主宰者は最終的に論評を加えることができますが、あまり講評てな感じで価値判断を全員のメンバーに押しつけるものは禁じ手です。
さあ、それでは2つの教室[21番教室と32番教室]に分かれて指 定されたグループで討論をおこなってください。時間は45分間しかありません。時間内に終わるのも司会者のテクニックです[ただし慣れるまでは失敗するも のですからまずはリラックスをこころがけます]。32番教室に派遣?された学生と教員は所定の時間に戻ってきてください。
[終わった時]移動時間5分を含めて、この時点で60分たっています。
この日の授業では、この後にレポーターの方[約6名からなる6グループ作りました]の発表が続きます。
下記にレポーターの報告文を掲載します。報告は匿名性を守るための加工以外は原文のママです。
【レポーター1:工学研究科ビジネスエンジニア専攻さん】
1.臨床の定義
医学的な意味を付加し、また、主体的な取り組みという意味を付加する。
2.定義に沿った事例
a. 臨地[ママ]検査と臨床
b. 学問領域(臨床をつけることで、実際に、という目的を持たせる)
c. 臨床検査技師と検査技師
3.より深い理解をするための手法(方法論)
同一の言葉で、臨床がついている言葉とついていない言葉について、比較研究(アンケートなど)を行う。
【レポーター2:Aさん】
(課題1:臨床の定義)
・臨床とは、人と接せる場において双方向のコミュニケーショ ン(これは1対1に限らず集団的なコミュニケーションも含む) が成立し、その一方が専門的で,もう一方がその対象となりう る状況
(課題2:定義に沿う具体的事例)
・先生と生徒
・医師と患者
・カウンセラーとクライアント
(課題3:事例を深く理解する手法)
・一方的なコミュニケーションを図るのではなく相手の考えや 意見を聞き入れることで、より深い双方向のコミュニケーショ ンが実現できる
・リラックスできる環境を作り出すことで、より深いコミュニ ケーションを実現(例:小さくて殺風景な部屋でゴツゴツした 鉄の椅子に座ってコミュニケーションを図るよりは、開放的で 光が差し込む部屋でBGMをバックに、ふっかふかのソファに座 ってお菓子なんかをつまみながらのほうが、より深いコミュニ ケーションが実現できる)
【レポーター3:NTさん】
臨床コミュニケーションIの第2講の授業にて,
「NT」のグループメンバー
工学N,生命機能C,医学系M,人間科学・K+N先生の6人でディスカッションを行いました。
その結果のまとめを報告いたします。
(1)臨床とは?
これまでの治療・医学・病気などの狭義で使われてきたコトバが, コミュニケーション・相談・教育・共有共感などの広義で使われるようになった, 狭義から広義への動き(拡大方向)そのもののことを,「臨床」と定義する。
(2)(1)の定義に至った具体例
・今までは,治療の現場だと思っていた → 人とのコミュケーションにも使わ れる
・病気というイメージがあった → エリクソンは死に床の相手といっ しょにいるだけを臨床とした
・臨床は治療→ 臨床教育という人がケアし・され合う場の学びとして実施
(3)(1)をより深く理解する手法・方法
・箱庭療法(河合隼雄)・・患者自身が繰り返し自分の世界を構築し,自覚を通 じて自ら治療していく
・自分のアドバイスばかりではなく,相手の話を親身になってひたすら聞く(傾 聴)
・自分の様々な行動・経験する行為自体
・相手と心を通わせる,思っていた感情を聞き自分の似た感情と照らし合わせる (共感)
【レポーター4:保健学専攻Yさん】
司会:Mさん レポーター:Yさん
(1)臨床の定義
時代によって流動し、更新するものであり、二人以上の関係の中でおこることである。
医療の枠からはみだしている。
(2)定義にふさわしい事例
1、「臨床美術」という言葉の意味が、「認知症の改善を目的とした創作的活動」から「脳の老化をふせぐための取り組み」というふうに変化している。
2、「臨床理性批判」という言葉は、「臨床」という何かを治すというイメージの言葉と、「批判」という逆のイメージの言葉から成り立っている。
3、「教育臨床」という言葉では、臨床=現場という意味合いで使用されている。
(3)方法論
1、 それぞれが思う臨床〇〇の現場に行ったり、実際にそれをやってみたりすることで、臨床だと感じられるかどうかを検討する。
2、 臨床〇〇に取り組んでいる人の意見を聞く。
【レポーター5:医学系研究科Hさん】
〔1〕臨床の定義
・患者と向き合うこと
・目的を持って相手と向き合う
・人と人が同じ空間で交わる
・人と人がいて何かACTIONをする
・ 顔を見せる
〔2〕臨床の事例
・外国の人とのコミュニケーション
・患者と医者とのコミュニケーション
・すきな人と目が合った
(言葉が通じなくても、難しいことが分からなくても伝わるものがある)
・小さい子同士が話をしているのを見て「何か」が伝わっている
〔3〕方法
・観察(ビデオで撮影する、距離を測る)
・感情などをインタビューする
・自分自身が体験する
【レポーター6:保健学専攻Y2さん】
1、臨床の定義
人が2人以上存在していて、相手に向かう意志が働いている場。
2、定義にふさわしい事例
・病棟で看護師から患者への声かけで「天気がいいですね」という言葉が患者を慰めるために使われた場合(その言葉そのものの意味はあまり無くても、言葉の向きは看護師から患者に向いている)。
・ユニバーサルデザイン(単に物を作るのではなく、全ての人に対して使いやすいようにという意志が働いている)
・PC会社へクレームの電話が来た場合(問題を抱えた人が電話の向こうにいて、その人の問題を解決しようという意志が相手に向いている)
3、より深く理解するためには
・どのような思いを持っているか議論する
・実際に体験すること
【来週までの宿題】
担当者[西村さん]から説明があるかも知れません。
もし、それでも時間が余っていれば、蘊蓄話になりますが以下に関する説明をおこないます。
臨床という用語の概念や、日本語における医療・医学などの用語について。
臨床コミュニケーション
臨床コミュニケーションとは、人間が社会生活をおこなうかぎり続いてゆく、ある具体的な結果を引き出すためにおこなう対人コミュニケーションのこと を言います。ここで言う臨床とは、狭い専門領域としての臨床(clinic)ではなく、その現場における実践状況(human care in practice)のことをさします。臨床コミュニケーション研究において、このような脱専門領域の意識を共有することは重要です。なぜなら臨床コミュニ ケーションとは、専門家どうしの対話のみならず、専門家と普通の人(例えば患者など)、そして日常経験の中に生きる普通のひとどうしの対話などから成り 立っているからです。
ディスコミュニケーション
コミュニケーションの不在や失敗を、私たちはディスコミュニケーションと呼びます。ディスコミュニケーションは良好ではないという点で、いちはやく 「問題の発見」や「改善や治療」の必要性が叫ばれます。しかし、劣悪な関係性であれば、コミュニケーションを遮断することが最善の選択になることだってあ るはずです。我々はコミュニケーションとディスコミュニケーションの様式を深く学び、それらを上手に操ることも必要なのです。良好なコミュニケーションを 目指す人は、ディスコミュニケーションについての深い理解が不可欠です。
本講座では
このような「知」のあり方を自覚するために、様々な専門領域の大学院生どうしの討論をおこないます。各自が専門領域以外の者と円滑にコミュニケー ションを図る能力、プレゼンテーション能力、および社会的判断力を身につけることを通して、ディスコミュニケーションを解消するための具体的なスキル学習 を目指しています。
具体的には
異文化間、医療現場、紛争の現場における臨床コミュニケーションの特徴と課題を理解するとともに、参加者が自分たちの生活の場面からディスコミュニ ケーション事例を持ち寄り、そのプレゼンテーションと解決のための討論を通して、各領域におけるコミュニケーションの可能性と限界を明らかにします。そし て、この臨床コミュニケーションの将来の課題を皆さんとともに模索してゆきます。
さらに学びたい人は
第1学期に開講されている「ディスコミュニケーションの理論と実践」、第2学期に開講する「臨床コミュニケーション II」「現場力と実践知」があります。また夏期集中講義「医療対人関係論」では、この授業のより具体的でかつ先進的なかたちで受講することができるでしょう。より少人数で、テーマを絞ったグループ討論で、学びを深めることができます。
これらの一連の授業の関連性について示したものが以下の図です。上下の軸は受講者が指向するレベルの局面を、左右の軸は受講者の解決したい問題の質を表現しているものです。受講者は、本人の関心に応じてどのような授業から入門されてもかまいません。
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