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リネージ と クラン

英]lineage[仏]lignée[独]Linie, and Clan

池田光穂

リネージ(lineage)は、リニッジとも表記し たり発音したりしますが、同じ意味を持ちます。リネージは、始祖を含む成員の構成が具体的にたどれる出自集団(=多くは父系か母系だが現在ではその両方あ るいは任意の親族集団)のことをさします。出自(しゅつじ)とは「自分はなになに一族、なになに家の出身だ」という、親族の出身の出所を示す用語です。主 に名前のうちファミリーネーム=苗字などが日本では使われますが、同じ苗字でも異なる出自集団がありますので、「〜地区、〜ムラのなになに家」と、居住地 域や出身集団の地名などを充ててそれらの間を区別することが行われます。現代の日本語ではシンルイがそれに対応します。

他方、クラン(clan)は出自が具体的にたどれな くても共通認識のある集団でこれと区別する。先のように出身村から遠く離れて何代も暮らし、そのシンルイ関係が具体的に辿れなくても御先祖様が「〜県〜ム ラのなになに家」だと共通認識があれば、その2人あるいは集団の間は、同一のクランに属していると判断します。これらの集団における最大の関心は、出自集 団の同一性の確保なのですが、リネージの近さ/遠さで、婚姻関係を認める規則がある社会がある一方で、クランが同じで結婚したら「近親相姦」に値するほど のタブーだと見なす社会もあります。したがって、ある社会集団がリネージとクランの範囲と婚姻規則をどのように考えているのかは当事者にとり重要なテーマ ですが、同時に、そのことを分析する文化人類学者にとっても重要な仕事になります。

国家や政府が存在しない社会では、リネージとクラン の構成原理が、婚姻規則、統治原理、権力規範、秩序理念、宗教崇拝と関連づけられるために人類史研究の基本理念となり、数多くの蓄積があります。近代社会 では核家族化によりリネージ原理は衰退していくと思われたが、生殖技術の発達が従来のリネージ概念を解体したり組み直したり多様化する現象がみられます。 リネージ概念の隠喩(メタファー)——ある事物を全く異なる別の事物で表現すること——である「同族会社」や、クランのような擬制的親族の隠喩を多用する マフィア組織など、リネージとクランの現代的概念の再検討は急務でもあります。

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文献


医療人類学辞典
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