婚姻・家族・親族
Introduction to Kinship Studies
解説:池田光穂
目次(もくじ)
◆ 婚姻形態
● 複婚制
・一夫多妻制 715/862社会 (83%)
出生比(男女)は105/100であり、性比の不均衡を主要因にはできない
社会の一部の階層(例、首長の家系)にのみ可能
ウガンダのバガンダ人(農耕民)
男児嬰児殺害(infanticide)により首長男子を調整
・一妻多夫制 3/863社会のみ
伝統的チベット人社会:兄弟同士で妻を共有(財産分散の防止、労働力の集中)
トーダ人(南インド):兄弟で一人の妻を共有、女児嬰児殺しが関係?
マーケサス島民(ポリネシア):首長と妻、妻の恋人ペキオ(第二の夫)
◆婚姻後の居住形態による分類(8タイプ)
では、どれくらいの比率なのでしょうか?——ジョージ・ピーター・マードックの分析(たぶん)によると……
1.夫方居住婚:virilocal marriage 588/858社会 (68.5%)
2.妻方居住婚:uxorilocal m. 112/858社会 (13.1%)
3.独立居住婚:neolocal m. 40/858社会 (4.7%)
4.選択居住婚:bilocal m. 73/858社会 (8.5%)
5.オジ方居住婚:avunculocal m. 8/858社会 (0.9%)
※母方のオジまたは近隣
6.妻訪婚:duolocal marriage 数例(ナヤール社会のみ)
※別居のまま夫が妻の家を訪問する。50年代に衰退「インドのナヤール(Nayar)社会では夫と妻は同居しておらず、夫は妻の部屋を夜間 訪問するだけであった。また夫は妻や子供に対して扶養の義務をまったくもっておらず、経済的な相互の協力関係もなかった。他の社会では婚後夫に期待される であろう権利や義務の多くが、ナヤール社会では妻の兄弟に課せられていたのである」(渡邊・杉島『文化人類学事典』p.247/ガフ「ナヤール族と婚姻の 定義」村武編『家族と親族』未来社所収pp.24-52)
7.妻方・夫方居住婚:uxori-virilocal m. アリュート人、シルック人
※初めの一定期間、妻方で過ごし、後に夫方居住(ドブ島民は1年交互)
8.妻訪・夫方居住婚:duo-virilocal 中部アフリカの母系社会
※最初妻訪の形態をとるが、後に夫方へ移る 家族形態の分類
核家族(nuclear family);夫婦とその子供:G.P.Murdockによる命名
大家族;複数の夫婦単位からなる
直系家族(stem f.);大家族のうちで、一世代に一つの家族単位だけを含むもの
定位家族(family of orientation);自分が生まれ育てられた家族
生殖[または出生]家族(family of procreation);自分が配偶者と共に子供を生み育てる家族
◆文化人類学における婚姻の意味
1.安定した性生活の保障
チンパンジーと同様、人間は受精のチャンス以上に性行為をおこない。また性行為のパターンも受精を目的としないものが含まれる(ただし チンパンジーには明確な発情期があるが人間にはそれがない)。
婚姻は、それ以外では不安定になりがちな安定した性行動を社会的に保障する。([日本社会においては]それゆえに民法上、夫や妻が社会 的通念を逸脱しない範囲で性関係を受け入れない場合は離婚を成立させる条件になる——また性関係は両性の合意にもとづくという常識があるために、夫婦間で も強姦が成立する)。
2.社会的に公認された生殖単位
合法的な(両性による)性行為は、その帰結として次の世代の子どもを生産する社会的機能をもつ(それゆえ生殖は「再生産 [reproduction, リプロダクション]と呼ばれる)。
にも関わらず性行為と受精だけが、子どもをもつ手段ではない。婚外交渉(既婚者との性行動でふつう「不倫」と呼ばれる)や養子、近年で は人工授精や代理母などの手段により子どもをもつことができる。
生物学的両親と社会的両親
△ 生物学的父親(genitor):ジェニター
▲ 社会的父親(pater):ペーター、ないしはパテル
○ 生物学的母親(genitrix):ジェニトリックス
● 社会的母親(mater):メーター、ないしはマーテル
【余計な蘊蓄】
「ジェニーターの語源はキンタマ(金玉)。人類学的な生物学上の父のようにpaterと区別したのは、OEDによると、エヴァンズ=プリチャードが
初出らしい:1949 E. E. Evans-Pritchard in M. Fortes Social Structure 86 When,
as often happens among the Nuer, the physiological father, the genitor,
is a different man from the sociological father, the pater, his sons
will not marry into his minimal lineage.」
■ 出自の分類
出自(descent)とは、父母のうち自己がどの親族集団に所属し、財産や地位の相続継承を決める際の論理である。出自には大きく、単 系出自と多系出自に分類できる。
I.単系出自(unilineal descent)
1.父系出自(patrilineal descent)
2.母系出自(matrilineal descent)
3.双系出自(bilineal descent)/二重出自(double descent)
4.平行出自(parallel descent)
5.選系出自(ambilineal descent)
II.多系出自(multilineal descent)/双方的bilateral/共系的cognatic
I.単系出自(unilineal descent)
1.父系出自(patrilineal descent):全体の44%を占める(めやす)
2.母系出自(matrilineal descent): 15%
3.双系出自(bilineal descent)/二重出自(double descent)
母系[牛の相続]と父系[土地の相続]の帰属や継承が同時に存在する
4.平行出自(parallel descent);男は父系、女は母系
5.選系出自(ambilineal descent);各自が父系・母系を選択可能
II.多系出自(multilineal descent)/双方的bilateral/共系的cognatic
自己より上の代にあるすべての個人を通じて出自をたどる
■ 系譜図による手法(genealogical method)【→説明(実例)】
■ リネージとクラン(p.137)
lineage:単系集団で各メンバーのあいだの系譜関係が具体的にたどれるもの
clan:単系集団が巨大化し、メンバーが互いに系譜関係をたどることができず、ただ漠然とお互いが単系で結びつき、同じ祖先から出ている らしいという意識をもっている。
[リネージやクランに共通に見られる特徴]
・トーテミズム(totemism)
ある集団では、祖先崇拝がおこなわれ、祖先に対する神話を共有する。その祖先が動物であり、その動物を殺したり食べたりすることへのタ ブーがある場合
■ 外婚制(exogamy)
[復習]集団内部での婚姻が禁止され、外部との婚姻が義務づけられる
再婚の様式:レヴィレート婚とソロレート婚(P.146)
レヴィレート婚(levirate)=兄弟逆縁婚 levir 兄弟(ラテン語)
夫が死んだ後に、その妻が夫の兄弟と再婚する[ことが優先あるいは義務づけ]
ソロレート婚(sororate)=姉妹逆縁婚 soror 姉妹(ラテン語)
妻が死んだ後に、その夫が妻の姉妹と再婚する[ことが優先あるいは義務づけ]
冥婚・幽霊婚・位牌婚(婚姻関係の拡張/見えない結婚相手?)
位牌婚(解放前の中国伝統社会・台湾)
未婚のまま亡くなった女性と生きている男性を結婚させ、後に男性は生きている女性と結婚し、できた息子のうちの一人が位牌婚の妻の「子 供」として、亡き女性を祭る。
冥婚/幽霊婚(ghost marriage)
ヌエル族(ナイル河上流):未婚のまま亡くなった男性のために、生きている女性と正式に結婚する。女性は、別の生きている男性 (genitor)と生活するが、できた子供は亡き男を法的父親(pater)とする。
※婚姻ないしは結婚(marriage)とは性的な結びつきに由来する関係であり、出自 (discent)は出生に由来する関係のことである。ただし、これらは必ずしも生物的な結びつきに一致するとは限らない。社会はさまざまなルールをもう けて、これらの間を選択可能な要素間の関係としていることに注意する。生物学の関係と一致しないからといって、このような制度を運用してる人びとが経験的 な生物学的知識に無知なのではない。また、DNAに還元される遺伝子にもとづいた親子関係を中心にする出自の考え方は、人類の長く、広い守備範囲をもつ文 化的多様性の観点からいえば、狭量な一つの考え方にすぎない。
※※親族とは、ギアーツとギアーツ(1975)によれば、多様な社会的イディオムで、社会生活のある面について語ったり、理解したり、それを 形成する、ひとつの方法であるということになる。[→『バリの親族』]
ロドニー・ニーダムに言わせると、親族研究をすることは、「あらゆる種類の権利・義務であり、協力方法であり、象徴の原理であり、感情の起因で
あり、権力の分割であり、形而上学的概念であり、その他こまごまとしたものすべて」の社会的事実と関連する(→ニーダム、R.『人類学的随想』江河徹訳、
p.28、岩波書店、1986年)
■親族研究の文化人類学(社会人類学)上の先人たち
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リンク
文献