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ダーウィンの犬、あるいは野蛮人の有用性の天秤について

On Useful Dogs of Tierra del Fuego comparing with their old women

カメレオン

池田光穂

チャールズ・ダーウィンの『種の起源』の第1章は、「飼育下での変異」からはじまる。 ダーウィンの進化論のアイディアは、種というものは人為的に淘汰(Man's power of Selection)が僅かの世代で形質が変化すること ができるのだから、これは自然界でも「自然選択/自然淘汰(natural selection)」として起こるのではないかということを説得的に読者に説明する、興味深い章である。

人間と犬の相互進化について興味を持ち狗類学(こうるいがく, canisology)を提唱している私などは、そのなか で、好ましい生き物の形質が、さまざまな困難を乗り越えて保存されていくのだということを説明するチャールズ・ダーウィンが、奇妙なことあげをしている箇所に気がついた。その記述は、 「野蛮人」――今日では先住民族を示すこの用語の使用には慎重でなければならないがここでは歴史的用語として今後はカッコなしに使用する――であるティエラ・デル・フエゴの人たちにおいても、犬の命――具体的には遺伝子なのだが――のほ うが重要で、食糧が枯渇したときには、人間のほうを食べることを優先することすらあるのだという。このことを、ダーウィンが直接観察した歴史的事実はない のだが、彼の修辞には検討する価値があるように思われる。

こんなくだりである。

「飼育動物の子孫の遺伝的形質をかつて考えたことの ないほど野蛮な未開人がいたとしても、特殊な目的のために彼らにとって特に有用な動物は、彼らが受け易い飢餓やその他の災難の間にも注意して保存されるで あろう。そしてこのような選ばれた動物は一般に劣った動物よりも多くの子孫を残すに違いない。従ってこの場合にも一種の無意識的淘汰が進行していることに なる。フエゴ諸島(Tierra del Fuego)の未開人でさえ動物に価値を認め、食料欠乏のときに、犬よりも価値のないものとして彼らの老婦を殺して食うのである」(ダーウィン 2009:28)。

"If there exist savages so barbarous as never to think of the inherited character of the offspring of their domestic animals, yet any one animal particularly useful to them, for any special purpose, would be carefully preserved during famines and other accidents, to which savages are so liable, and such choice animals would thus generally leave more offspring than the inferior ones; so that in this case there would be a kind of unconscious selection going on. We see the value set on animals even by the barbarians of Tierra del Fuego, by their killing and devouring their old women, in times of dearth, as of less value than their dogs. " Darwin, The Origin of Species, 6th ed., 1872.

http://www.talkorigins.org/faqs/origin/chapter1.html

さて、ここからこのようなことは、人間の老婆が犬よ りも価値がないということではなく、犬の遺伝的形質は、ときにはそれくらい優先されるのだという「程度」で理解しておいたほうがいいかもしれない。みなさ んのまわりにも、人間中心主義派のダーウィン・ファイル(ダーウィン愛好者)がいるかもしれないからだ。

有益なリンク集

文献


ポンペイ遺跡のモザイクから

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