薬物利用者と社会統制:日本での新しい研究動向
Recent Research Trend on Drug User and Social Cntrol in Japan
日本における薬物利用者の社会学研究は、古くは社会 病理論として研究されてきたが、これは使われる当事者の民族誌データですら彼/彼女らをとりまく司法的管理に供するものとして使われてきた、応用社会学の 範疇に位置づけられてきた。他方、薬物利用者側の観点を汲んだ社会学研究のメインストリーム化したのが、シカゴ学派の影響をうけた社会統制論 (social control)という観点が主流になった。後者の研究は、社会学研究の王道に戻り、比較的価値自由な点から、社会が逸脱者をどのように処遇し、また逸脱 者は自身のアイデンティティの構築を含めて、行動と行動規範をつくりあげ、社会的な適応をなすに至っているのかについての描写に心をくだいている。逸脱者 と言えども、社会を構成する立派なメンバーであり、逸脱者の輩出と社会による統制というダイナミズムは、多数派の非逸脱者がおりなす生活とは一見無縁なも のの、そのなかにさまざま社会的行動パターンや規範がみられ、逸脱と統制という現象のなかで、それらの共通点と相違点があきらかになる。このようなアプ ローチは、構造論的な前提をもとに逸脱や統制を社会的機能を形成するものとみる。
このようなラインの研究を尊重しながらも、薬物利用 者の主観的体験やアイデンティティ構築を、社会の構造や機能よりも、より個人に焦点化する研究があらわれつつある。また、社会統制論も古典的な機能論的アプローチから、ミッシェル・フーコー による「統治性(governmentality)」の問題系により焦点をあてて、社会が薬物利用者の《身体》を経由してどのようにして、薬物利用者とい う主体を形成しているのか、についての関心をもつものが出てきた。また、アクター・ネットワーク・セオリー(ANT)を援用して、薬物にも「パーソナリ ティ」を与えてアクターとしての薬物の社会的働きを描き出そうという関心も登場してくる。
これらの動向を、文献リストのかたちで紹介する。
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