呪術師たちの道徳哲学あるいは売春の終焉の社 会美学について
On Prosti[tution]Motion
「どちらを余計に責めるべきでしょう?/金のために罪を犯す女ですか、それとも/罪を犯すために金を払う男ですか」——ソル・ファナ・イネス・
デ・ラ・クルス「92番」(2007:28)
「今日の売春では商品と価格がつり合わないので、身売りするものも、買春するものも、道徳的堕落している」売春覚え書き(1892)のなかのジ ンメル)——だからと言って価格メカニズムに訴えることをジンメルはしない——は、悲惨な売春の現状が消滅するためには「男女のあいだの完全な平等」が可 能になると、それは起こりえると、全くに(今日においても実現されていないという逆説を伴って)正しくジンメルは予言している。言い方を変えると(この場 合は女性の)売春現象をインデックスにして、男女の平等を測定できると言うのだ。自由の國オランダはどうか?という反論には、僕はアムステルダムの飾り窓 からみられる女性や客との会話を聞くと、多くの顧客も労働者の多くは不定期就労の移民労働者のように思えたと言っておこう。さて、ジンメルのこの予言のす ばらしい点は、たんなる何もせずに得られるというような占いの予測ではなく、いわゆる何々すれば成就できるというカントの仮言命法(hypothetical imperative)——もちろんカント以前の呪術師たちの道徳哲学でもあった——をきわめて平易な形で主張していることである。言い換える と、ジンメルこそは「啓蒙哲学における強力な呪術師」であったのだ。
●定言命法:君の意志の格率が、常に同時に、普遍的立法の原理として妥当しうるように行為せよ
カントは、啓蒙主義から受け 取った「自覚してかつ行動し前よりもよりよく成長する」人間観をもっていますので、その法則に人間を従わせる規則——道徳法則——を与えます。それが「君 が意志し自分自身で決めている規則や規約(=格率・格律[かくりつ]という)が、すべての人に妥当する普遍的法則になることを願うようなものになるように行 動しなさい」(=君の意志の格率が、常に同時に、普遍的立法の原理として妥当しうるように行為せよ——『実践理性批判』) というものです。格率・格律(かくりつ)とはドイツ語のMaxime の訳語のことで、主観的=あなただけにのみ使える実践的な原則や規則(=例:寝る前に必ず歯を磨く人のその習慣)。これはあることを促していますが実際に は命令文に近いので、カントの「定言命法(ていげん・めいほう)」と呼ばれます(→「西洋倫理学の3つの伝統」)。
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文献
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099