ベーコンの4つのイドラとベーコン主義
Cuatro idolas de Francisco Becon y Baconismo
講師:池田光穂
イドラ(idola)とは、イドルム(idolum)すなわち偶像やこころに現れる心像の複数形である。フランシス・ベーコン(Francis Bacon, 1561-
1626)が『ノヴムオルガヌム(NOVUM ORGANUM)』というラテン語の著作において、人間が陥りやすい4つの誤りについて述べたものが特に有名である。- Ipsa scientia potestas est.
ベーコンは、スコラ哲学的な演繹による論証ではなく、帰納法による論証の重要性を主張したので、イギリス経験論の元祖的存在として認められ ている。もちろん、イドラ論で人間が陥りやすい経験について批判した当の本人が、思弁的になりがちな演繹論ではなく、経験論の偉大なパトロンになったとい う逆説がおもしろいが、翻訳もあるし(ラテン語で読んでいる人は少ない)ぜひとも『ノヴムオルガヌム(新機関)』を読んでみることをおすすめします。
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「彼(フランシス・ベーコン)の思想が近代的なのは、その当時の文化の最も進歩的な運動を彼が支持したというよりはむしろ、ベイコンが学問 にこれまでとは異なった役割を割り当てたためである。彼は知識を所与の現実の観照や認識としてではなく、狩猟(venatio)、見知らぬ土地の発見とし て理解している。……彼は革命的な科学上の仮説をつくり出さなかったし、近代科学の地平を大きく変えることになる発明にも貢献しなかった。」(パオロ・ ロッシ「ベイコン主義」『西洋思想大事典』4巻, p.253)。
・ベイコン[主義]の意義「科学は、たとえ内的にみれば没価値的であるとしても、実際は倫理的価値や政治的社会的生活の射程と無縁ではな い。科学は友愛や進歩などの価値を実現するために人間が構築した手段である。こうした価値は、協同、自然に対する謙虚さ、明晰であろうとする意志などを規 則とする科学そのものによって、強化され、増強されなければならない。説得のために構築された人文主義者の論理学は、学者の論争のためよりは、作品の制作 に役立つ発明と発見の論理学にとって代わられるべきである。自然に対する人間の能力の拡張は自らの成果を秘密にする唯ひとりの探求者の仕事ではなく、国家 や公的団体の資金で組織された科学者の集団の賜物である。歴史の領域では、科学は常に明確な実践的役割を有志、学問の改革はいかなるものであれ常に文化的 制度と大学の改革でもある」(パオロ・ロッシ「ベイコン主義」『西洋思想大事典』4巻, p.253)。
「ベイコンが構想していたように、科学(学問)は偶然や気まぐれ、そして性急な総合などを放棄し、人間の類似(analogia hominis)によってではなく、宇宙の類似(analogia universi)によって構築された実験主義を基礎として前進しなければならない」(パオロ・ロッシ「ベイコン主義」『西洋思想大事典』4巻, p.254)。
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