地域研究
area studies, regional studies
1.地域研究は、第二次大戦後の、冷戦期における自由主義陣営側の、戦 略情報把握と諜報活動から出発した。 |
2.有力なパトロンの存在、すなわち、地域研究には、国家、諜報機関、 財団、経済開発団体などの支援が欠かせなかった。 |
3.その主要なリーディング・ディシプリンとしての政治学と経済学の2 つの領域がメインであり、歴史学、社会学、ジェンダー研究、文化人類学はつねに、その周辺の落ち穂拾い研究が中心である。 |
4.地域研究の華は、事例研究である。また、多くの地域研究者は、その ような「代表的」な研究を読んでから、フィールドに赴く。 |
5.地域研究には、その来歴(=自由主義陣営側の、戦略情報把握と諜報 活動をルーツとする)からかず多くの批判に晒されてきた。ただし、その批判が、地域研究そのものを活性化しているという主張もある。 |
6.西暦2000年以降、インターネットによる情報爆発のために地域研 究の現状は、非常に多様化を深めている。そのため地域研究とグローバル研究の間の垣根は撤廃されつつある。 |
解説:池田光穂
地域研究 (area studies/regional studies)
【地域研究の定義】
地域研究(regional studies)とは地球上の地域に関するさまざまな情報を整理、統合する学際研究のことである。地域の研究・エリ アスタディーズ (area studies)という用語がある。地域研究とは、地球上の表面を大きな諸地域(アジア、アフリカ、北米、中南米、ヨーロッパ、オセアニア等々の 大区分あるいは、北アジア、東アジア、中米、南米、ミクロネシア等々のより細かい地域の小区分)にわけておこなう研究分野がある。
Area stidies is "interdisciplinary research (as in the social sciences) in a distinct geographic, sociocultural, or political area aimed at a scientific understanding of the area as an entity and at relating it to other areas" - Merriam-Webster.)
"Area studies (also regional studies) are interdisciplinary fields
of research and scholarship pertaining to particular geographical, national/federal, or cultural
regions.
The term exists primarily as a general description for what are, in the
practice of scholarship, many heterogeneous fields of research,
encompassing both the social sciences and the humanities. Typical area
study programs involve international relations, strategic studies,
history, political science, political economy, cultural studies,
languages, geography, literature, and other related disciplines. In
contrast to cultural studies, area studies often include diaspora and
emigration from the area." - Area studies.
これらは、文化人類学、地理学、政治学、経済学など の「地域を研究対象にする経験的あるいは実証的な諸学問分野が集合した総合科学」である。地 域研究をおこなっている機関は、大学の研究所や国立あるいは私立のシンクタンクなどにある。(→「地域科学・地域研究・国 別研究」)
これは、地域研究をおこなうことに具体的な目的 があるから である。世界の諸地域の動向を知るということは、政治ならびに経済に大きな支配力を行使することができるからである。地域研究が第二次大戦後にアメリカ合 州国で大きく発展したのもこのことによる。(→戦 略情報の 項目を参照してください)
●地域研究の6つの重要なテーゼ("Area studies"より、池 田が整理しなおした)
1.地域研究は、第二次大戦後の、冷戦期における自由主義陣営側の、戦 略情報把握と諜報活動から出発した。 |
2.有力なパトロンの存在、すなわち、地域研究には、国家、諜報機関、 財団、経済開発団体などの支援が欠かせなかった。 |
3.その主要なリーディング・ディシプリンとしての政治学と経済学の2 つの領域がメインであり、歴史学、社会学、ジェンダー研究、文化人類学はつねに、その周辺の落ち穂拾い研究が中心である。 |
4.地域研究の華は、事例研究である。また、多くの地域研究者は、その ような「代表的」な研究を読んでから、フィールドに赴く。 |
5.地域研究には、その来歴(=自由主義陣営側の、戦略情報把握と諜報 活動をルーツとする)からかず多くの批判に晒されてきた。ただし、その批判が、地域研究そのものを活性化しているという主張もある。 |
6.西暦2000年以降、インターネットによる情報爆発のために地域研 究の現状は、非常に多様化を深めている。そのため地域研究とグローバル研究の間の垣根は撤廃されつつある。 |
1.地域研究は、第二次大戦後の、冷戦期における自由主義陣営側の、戦略情報把握と諜報活動から出発した。
その前史としての、軍事作戦行動に不可欠な地理情報、索敵活動、敵の軍事行動予測、諜報活動を可能にする文化社会情報。
鉄のカーテンの向こうにおける情報把握のための、学際的共同作業の必要性。地域に関する功利主義的な情報。
米国では、モンロー主義により、中南米に関する情報以外のものは僅少。
2.有力なパトロンの存在、すなわち、地域研究には、国家、諜報機関、財団、経済開発団体などの支援が欠かせなかった。
フォード財団(Ford
Foundation)、ロックフェラー財団(Rockefeller
Foundation)、ニューヨーク・カーネギー基金(Carnegie
Corporation of New York)。
3.その主要なリーディング・ディシプリンとしての政治学と経済学の2つの領域がメインであり、歴史学、社会学、ジェンダー研究、文化人類学は つねに、その周辺の落ち穂拾い研究が中心である。
その理由:ナショナル・プライオリティが高い。
主要なパラダイム:マクロヒストリー的観点と地理学的情報
目的:近代化論(modernization theory)
4.地域研究の華は、事例研究である。また、多くの地域研究者は、そのような「代表的」な研究を読んでから、フィールドに赴く
フォード財団:Foreign Area Fellowship Program (FAFP):From 1953 to 1966 it contributed $270 million to 34 universities for area and language studies
the Social Science Research Council (1923年創設)and the American Council of Learned Societies(1919年創設), SSRC-ACLS
法律的裏付け:"[T]he National Defense Education Act of 1957, renamed the Higher Education Act in 1965, allocated funding for some 125 university-based area-studies units known as National Resource Center programs at U.S. universities, as well as for Foreign Language and Area Studies fellowships for graduate students."
同時期に、ソビエト・スターリン体制のもとでも、同様に発展。
5.地域研究には、その来歴(=自由主義陣営側の、戦略情報把握と諜報活動をルーツとする)からかず多くの批判に晒されてきた。ただし、その批 判が、地域研究そのものを活性化しているという主張もある。
軍事的インテリジェンスによるものへの批判
エスノセントリズムの温床化(「文化相対主義」を掲げながらも米国の国益優先があるのではないか?)
合理的選択論(Rational choice theory)の理論家からの「地域研究をおこなう必然性の欠如」の指摘、つまり、合理的選択論ですべてわかってしまえばわざわ ざ、研究対象をフィールドワークする必要がなくなる(国際政治学者チャルマーズ・ジョンソン(Chalmers Johnson, 1931-2010)の皮肉:「もし合理的選択論で日本の政治家と官僚が行うことが分かってしまえば、なぜわざわざ日本の歴史や文化を知る必要があるのか ね?」)
6.西暦2000年以降、インターネットによる情報爆発のために地域研究の現状は、非常に多様化を深めている。そのため地域研究とグローバル研 究の間の垣根は撤廃されつつある。
冷戦の終焉により、多くの財団の研究費拠出が減少し、若い研究者向けの研修が激減する(→大学教育の場に)。
例:Bruce Cuming, Boundary Displacement: Area Studies and
International Studies during and after the Cold War.
Bulletin of Concerned Asian Scholars.1993-1996.
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