はじめによんでください
学生を被験者にしたテスト(原著:25)
Tests on Students
学生を被験者にしたテスト(原著:25)
心理学の博士論文のプロジェクトとして、優馬は記憶を強めるための新しい手法について研究している。この手法は、対話方式のWeb を基礎にした教育用モジュールをつくりあげることに応用できるかもしれない。彼は、自分が教育助手をしている一般心理学コースの学生を使って、このモ ジュールをテストするという計画を立てた。ボランティアとして参加してこのモジュールを使った学生が、その後に行われる試験でほかの学生よりよい成績をと るだろうと期待しているのだ。彼は、博士号取得後に研究機関の職に応募する計画を立てていて、テストの結果を「学習に関する研究会」の報告書で発表しよう と考えている。
1.優馬は、人間が参加する研究プロジェクトとしてIRB[施設内委員会=倫理委員 会]の承認を得る必要があるだろうか?
2.優馬は、このプロジェクトについて学生にどう説明すべきか? また、彼らに正式なインフォームド・コンセントを与える必要があるだろうか?
Tests on Students
For his dissertation project in psychology, Antonio is studying new approaches to strengthen memory. He can apply these techniques to create interactive Web-based instructional modules. He plans to test these modules with students in a general psychology course for which he is a teaching assistant. He expects that student volunteers who use the modules will subsequently perform better on examinations than other students. He hopes to publish the results in a conference proceedings on research in learning, because he plans to apply for an academic position after he completes the doctorate.
1.Should Antonio seek IRB approval for his research project with human participants?
2.What do students need to be told about Antonio’s project? Do they need to give formal informed consent?
[コメント]
1.優馬は、人間が参加する研究プロジェクトとしてIRBの承認を得る必要があるだろうか?
人間を被験者にする実験には、施設内委員会=IRB=倫理委員会への申請と承 認が不可欠です。
2.優馬は、このプロジェクトについて学生にどう説明すべきか? また、彼らに正式なインフォームド・コンセントを与える必要があるだろうか?
「このモジュールを使った学生が、その後に行われる試験でほかの学生よりよい成績をとるだろうと期待」という優馬の予断には、彼自身 注意しなければならないだろう。被験者に効用を説いては、実験条件に影響を与えるので、客観的手続きについて、優馬はもうすこし真剣になる必要があ る。もちろん、実験が負の効果を与える危険性(=リスク)も説明しておかねばならない。
そもそも、試験でよい成績をとるプログラムと、記憶力増強と、そして、自分の授業でのボランティアの募集は、「利益相反」がおこる可能性がある——つまり、プログラムが有効性を持つ持たないに関わらず授業の 中で応募することで成績があがるのではないかというボランティアの期待や行為は、応募しない学生との間の客観的な成績判定に差が出ないという客観的な証拠 を提出しないかぎりプログラムの利用に利益の相反がおこる危険性があるからだ。学生からの徴募には、倫理的に問題含みの点があり、このことは優馬 が、ある程度の計画を練っても、メンターに倫理面での起こりうる問題について承認しなければならないし、またそのメンターは倫理委員会への事前の研究倫理 申請をおこなうよう勧めるだろう。
現代社会には、試験の合格のように記憶の強化が求められる面と、トラウマの治療のように、記憶を管理し、組み直し、適度に忘却するために は、つよい記憶の保持にはマイナスの機能がある。優馬はそのことについての配慮が欠けているように思われる。
● 出典:(教科書)
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、東京:化学同人、2010年
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition Committee on Science, Engineering, and Public Policy, National Academy of Sciences, National Academy of Engineering, and Institute of Medicine ISBN: 0-309-11971-5, 82 pages, 6 x 9, (2009) This free PDF was downloaded from:
http://www.nap.edu/catalog/12192.html
レクチャー
教科書
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、化学同人、2010年(原著はインターネットで講読できます:下記のリンク参 照)
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition
Copyright Mitzub'ixi Quq Chi'j, 2010-2011