はじめによんでください
論文公表のやりかた(原著:32)
Publication Practices
論文公表のやりかた(原著:32)
若い助教の安西(あんざい)と二人の大学院生は、この数年、一連の実験を行ってきた。今や、実験結果をまとめて論文として発表する時期となった が、学生と安西はここで初めて重要な決定をしなければならなくなった。かれらは実験を過不足なくすべて一つの論文にまとめることもできるが、その 場合の筆頭著者は一人だけとなってしまう。ところが、それほど完全ではない短い論文を二つ書けば、二人の学生それぞれが筆頭著者になれる可能性がある。
安西は、前者のほうがよいと考えた。一つのしっかりした論文を、 より著名な学術雑誌に出版するほうがかれらの目的に合致しているからだ。安西は2年以内に終身職(テニュアー)が得られるかどうか決まるため、そのほうが自分の プラスになるということもあった。一方、学生たちは、二つの論文を書くほうを強く主張した。かれらは、すべての結果を網羅した一つの論文では、長くて複雑 になりすぎると考えたのだ。かれらも、自分が筆頭著者となった論文でなければ就職の際に損をするかもしれないと主張した。
1.安西はこの問題をどう予期できただろうか? そして、彼は研究室のメンバーに対して、どのような種類の一般的なガイドラインを提示できるだろうか?
2.もし安西の研究室や研究機関が、一つの研究に対して複数の著作や複数の論文を公表することに関する公的な方針をもたない場合、この 問題はいかに解決されるべきだろうか?
3.安西と二人の大学院生は、かれらの教室内でどのような原則(discipline)を採用すればこの問題を解決できるだろうか?
4.もし学生たちが、自分たちの心配が無視されたと感じたとき、誰に相談すればいいだろうか?
5.このような論争が起こらないために、実験室や研究機関ではどのような種類の方針をもつべきだろうか?
6.もし一本しか論文が発表されなかった場合、著者たちは審査委員会や研究資金援助機関に対し、かれらが果たした役割や論文の重要性をいかにす れば明らかにできるだろうか?
Publication Practices
Andre, a young assistant professor, and two graduate students have been working on a series of related experiments for the past several years. Now it is time to write up the experiments for publication, but the students and Andre must first make an important decision. They could write a single paper with one first author that would describe the experiments in a comprehensive manner, or they could write two shorter, less-complete papers so that each student could be a first author.
Andre favors the first option, arguing that a single publication in a more visible journal would better suit all of their purposes. This alternative also would help Andre, who faces a tenure decision in two years. Andre’s students, on the other hand, strongly suggest that two papers be prepared. They argue that one paper encompassing all the results would be too long and complex. They also say that a single paper might damage their career opportunities because they would not be able to point to a paper on which they were first authors.
1. How could Andre have anticipated this problem? And what sort of general guidelines could he have established for lab members?
2.If Andre’s laboratory or institution has no official policies covering multiple authorship and multiple papers from a single study, how should this issue be resolved?
3.How could Andre and the students draw on practices within their discipline to resolve this dispute?
4.If the students feel that their concerns are not being addressed, to whom should they turn?
5.What kind of laboratory or institutional policies could keep disputes like this from occurring?
6.If a single paper is published, how can the authors make clear to review committees and funding agencies their various roles and the importance of the paper?
コメント
1.この議論は、オーサーシップ[著者性]とはなにか?、オーサーシップの領域の定義、オーサーシップの帰属の範囲、オーサーシップの決定権、そしてオー サーシップの社会的責任について考える課題に相当します。
Definition of authorship; 1)the profession of writing, 2)the
source (such as the author) of a piece of writing, music, or art, 3)
the state or act of writing, creating, or causing. - Merriam-Webster
2.学問的手続きからみると、安西助教の判断はきわめて妥当に思える。他方、2人の大学院生は、やはり自分の業績がファーストオーサー(筆 頭執筆者)として出版することが至上目的となり、2本の論文にすることが、まったく理にかなっていると思っている。
3.そのため、安西助教は2人の説得しなければならないが、その時に重要なことは、自分が大学院生の立場だったら、どう考えるのかを基準に して、説得の戦略を練らなければならない。
4.また、助教は、自分の考える正攻法のみならず、両当事者間のあいだの中間策あるいは妥協点を探る必要もある。これが、2人の大学院 生を指導する安西の責務でもあることは、十分に認識されてよい。
5.助教がおこなう挑戦は、2人の大学院生に対して正しいオーサーシップの実践であることを再度認識しなければならない。
6.研究室によるオーサーシップは、研究室の責任者が何らかのかたちで教えるべきものであるし、特別の講義や研修を仮に行わないものであって も、OJT(その現場で訓練する)で教育する必要が出てくるかもしれない。
7.日本では、共著論文の分担範囲について、それを文章によって明らかにする習慣はあまりないが、自分の就職面接において、きちんと説明できる ような文書を準備しておくことも重要である。
●関連リンク
● 出典:(教科書)
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、東京:化学同人、2010年
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition Committee on Science, Engineering, and Public Policy, National Academy of Sciences, National Academy of Engineering, and Institute of Medicine ISBN: 0-309-11971-5, 82 pages, 6 x 9, (2009) This free PDF was downloaded from:
http://www.nap.edu/catalog/12192.html
レクチャー
教科書
米国科学アカデミー編『科学者をめざす君たちへ』池内了訳、化学同人、2010年(原著はインターネットで講読できます:下記のリンク参 照)
On Being a Scientist: A Guide to Responsible Conduct in Research: Third Edition
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099