かならずよんで ね!

社会的連累について

On  Social Implications

池田光穂

オーストラリアへの移民であるテッサ・モリス=スズ キさんは、先住民アボリジニへの過去の収奪や虐殺と彼女自身の関係を、「罪」の概念ではなく「連累 (implication)」であると結論づけました。つまり、過去の不正義に対しての責任がオーストラリアに住む自分自身にあると主張します。それは法 律用語である事後共犯(an accessory after the fact)の現実を認知するという意味があるそうです。彼女による連累の感覚を以下の文章は的確に表しているので引用します。

わたしは直接に土地を収奪しなかったかもしれないが、その盗まれた土地に住む。わたしは虐殺を 実際に行わなかったかもしれないが、虐殺の記憶を抹殺する プロセスに関与する。わたしは『他者』を迫害しなかったかもしれないが、正当な対応がなされていない過去の迫害によって受益した社会に生きている」 (2013:65-66)。

また責任と連累の関係を次のように言います;「『責 任』は、わたしたちが作った。しかし、『連累』は、わたしたちを作った」と。つまり連累は、私たちの未来における社会関係性を形作ることを要請する命令語 法(imperative)であるということです。

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さて、その連累を使った用語に、エルシー(ELSI)というものがあります。エルシー(ELSI)とは、倫理的・法的・社会的 連 累(=含意、インプリケーション)/ 事象=イシューの頭文字表現(アクロニム)です。これは、従来の研究倫理の枠組みを拡張して、理工系・医歯薬保健系、人文社会系を問わず、あらゆる研究 者がエルシーに関わっていることを自覚を促す社会的試みのひとつです。この言葉と概念の起源は古く、1988年にヒューマン・ゲノム・プロジェクト(HGP)が始まったときに、遺伝学 者でHGPのジェームズ・ワトソンJames Watson, 1928- )がプレスコンファレンスで突如として述べたものです。そのため、HGPを扱うNIH——現在はその下位部局である国立 ヒューマンゲノム研究所(NHGRI)が管轄——は急遽そのような体制を 整備したと言われています(Cook-Deegan, 1995)。エルシー(ELSI)の重要性は、この用語を乱暴に振り回して研究費や活動経費を取得するということにあるのではなく、そのような破廉恥な行 為そのものが、エルシー(ELSI)という理念に反するものであることを自覚することにあります。日本では、エルシー(ELSI)は、倫理的・法的・ 社会的連累(=社会的含意)の米国流の概念を輸入したために、そう呼ばれるが、ヨーロッパでは、エルサ=倫理的・法的・社会的諸相(Ethical, Legal and Social Aspects, ELSA)と呼ばれているようです(この、つづきは「倫理的・法的・社会的連累(ELSI)」で!!)。

事後共犯(an accessory after the fact)

事後従犯者(または事後共犯)とは、1)犯罪を犯し た人を、2)その人が犯罪を犯した後に、3)その人が犯罪を犯したことを知りながら、4)その人が逮捕や処罰を免れるのを助ける意図を持って援助する人の ことを言う。事後従犯者は、特に、司法妨害の責任を問われることがある。

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