かならずよんで ね!

「血に混濁した潮が解き放たれ」スラヴォイ・ジジェクの暴力論:03

Andante ma non troppo e molto cantable, 'A Blood-dimmed tide is loosed'

池田光穂

パラグラフ番号(垂水源之介式)
ページ
原著



ノート(イェイツの詩「再臨」

Surely some revelation is at hand;
Surely the Second Coming is at hand.
The Second Coming! Hardly are those words out
When a vast image out of Spiritus Mundi
Troubles my sight: somewhere in sands of the desert
A shape with lion body and the head of a man,
A gaze blank and pitiless as the sun,
Is moving its slow thighs, while all about it
Reel shadows of the indignant desert birds.
The darkness drops again; but now I know
That twenty centuries of stony sleep
Were vexed to nightmare by a rocking cradle,
And what rough beast, its hour come round at last,
Slouches towards Bethlehem to be born?


しだいに広がりゆく渦に乗って鷹は
旋回を繰り返す。鷹匠の声はもう届かない。
全てが解体し、中心は自らを保つことができず、
全くの無秩序が解き放たれて世界を襲う。
血に混濁した潮(うしお)が解き放たれ、いたるところで
無垢の典礼が水に呑まれる。
最良の者たちがあらゆる信念を見失い、最悪の者らは
強烈な情熱に満ち満ちている。

たしかに何かの啓示が迫っている。
たしかに<再臨>が近づいている。
<再臨>!その言葉が口を洩れるや
≪世界霊魂≫から出現した強大な像が
私の視界を掻き乱す。どこかの砂漠の砂の中で
ライオンの胴体と、人間の頭と、
空ろな、太陽のように無慈悲な目をしたものが
のっそりと太腿を動かしている。まわりに
怒り狂う沙漠の鳥どものかげがよろめく。
ふたたび暗黒がすべてを閉ざす。だが、今、私は知った、
二千年つづいた石の眠りが
揺り籠にゆすられて眠りを乱され、悪夢にうなされたのを。
やっとおのれの生まれるべき時が来て、ベツレヘムへ向い
のっそりと歩みはじめたのはどんな野獣だ?
訳者名不詳

1


〈交感的コミュニケーションの奇妙な例〉
・2005年秋のパリ郊外暴動(2005 French riots, Émeutes de 2005 dans les banlieues françaises.)
・2005年8月29日ハリケーン・カトリーナの略奪事件(→パラグラフ36以降)
2


2005年秋のパリ郊外暴動と、1968年5月事件との対比
3
99-100

パリ郊外暴動の無根拠さ、無意味さの説明がつづく
4


暴動の無意味さ
5
101

パリ郊外暴動はイスラム原理主義とは無関係
6
101

フィンケルクロートの理解の失敗
7
102

パリ郊外暴動=フランスの政策の危機
8
102

手押し車の窃盗犯の意味
9
103

ローマン・ヤコブソンの、言語の「交感的」機能概念
10


ドロシー・パーカーの作品の引用
11
103

パリ郊外暴動は「ハロー、聞こえますか?」と(形式的に?)同じだ。
12
104

アラン・バディウAlain Badiou, 1937- )による、社会空間の秩序の崩壊
13
104

・フランスの暴力は特異的である。保守派もリベラル派も誤っている
14
105

パリ郊外の暴動は、別のタイプの暴力であり、自爆テロの暴力と比較して考える必要あり。
15


・ジョン・グレイ(John Gray, 1948- )の引用。traw Dogs: Thoughts on Humans and Other Animals, (Granta Books, 2002).池央耿訳『わらの犬――地球に君臨する人間』(みすず書房, 2009年)
16
106

・科学がいかに、社会的な力として、イデオロギー制度として機能するか?
17


「資本主義の「世界を欠いた」性質は、近代における科学的言説のヘゲモニーと関連がある」(107)
18
107

ヨーロッパにおける時間をかけた近代化
19


原理主義による「テロリズム」解釈の難しさ。すくなくとも、ドナルド・デイビッドソン(合理性と信念による)の説明は受け入れない。
・合理的説明は、テロリストという〈他者〉をわれわれと同じものとして、奇妙な解釈に陥ってしまう。
20


カン・ホーユンの詩(朝鮮戦争中の北朝鮮の宣伝ビラ)
21


カン・ホーユンの詩の批判の続き
22


〈テロリストのルサンチマン〉
イェイツの詩「再臨」
23
110

宗教的原理主義者の特徴は、無宗教の人への無関心、ねたみとルサンチマン(怨嗟)がないこと。これらは真の原理主義者ではないという(110-111)
24
111

イスラム原理主義者のテロは、ヨーロッパ人がムスリムを見下すことではなく、自らが劣ったものと認識しているからだという、説明は、問題含みだ(111)
原理主義者に欠けているのは、自己の優越性というレイシスト的信念だという(111)
自己愛に対立するものは、ねたみやルサンチマンだ。
25
112

人間の欲望の問題とは、〈他者〉の欲望である。アウグスチヌスの幼児の年下の乳を含む赤ん坊への嫉妬
26
113

ジャン=ピエール・デュピュイ(Jean-Pierre Dupuy, 1941- )のロールズ批判。[邦訳多数:例『犠牲と羨望 : 自由主義社会における正義の問題』米山親能, 泉谷安規訳、2003年]
27
113

ロールズのモデルは、ヒエラルヒーが自然のもとで正当化されることを、すでに!、受け入れている。
ゴア・ヴィダルEugene Luther Gore Vidal, 1925-2012)。ねたみ(妬み)=ルサンチマン
28
114

不平等は非人格的な力(ちから)からうまれる。ハイエクはこのことをわかっており、人々はそれを受け入れる。資本主義は公正ではないことを受け入れているから、逆に資主義に怒りを感じない。
29
115

平等という正義の基盤は、ねたみである。妬みとは「われわれのもたないものをもち、それを楽しんでいる〈他者〉に対する」劣情のこと?
30
115

妬みとはなんであるのか? 対象を享楽する他者の能力を破壊すること(116)
31


ルソーが説く、妬みの過剰性について
32


ルソーの引用文「原始的情熱は……」
33
117

邪悪なものは、自分の利益だけを考える奴ではない。他人を不幸に陥れる者のことだ。
34
118

平等主義を額面通りにとってはならない
35


「略奪とレイプすると想定された主体」の題字
ムハンマド・サイード・アル=サハフ(Muhammed Said Kazim al-Sahhaf, 1940- )のレトリック
36


アポカリプス
37


ルイジアナに対するステレオタイプと、悲劇の悲惨さ
38
120

カタストロフィー=「遅れた反応という べき奇妙な時間性」
39
121

保守派の人たちのカトリーナ暴動の主張
40
121

ニューオーリンズの人口の68%は黒 人。これが白人と報道の nervers system (Michael Taussig, 1940- )を作動させる
"Published in 1992, The Nervous System comprises nine essays. Michael Taussig sets out on a journey to explore and describe various forces that shape and mold our present society. He tries to explore the process through which we commodify the state and in that way transfer the power to it. Taussig attempts to show how the state uses forces such as violence or media control to consolidate its power over the people. He argues that we live in a state of emergency, citing Walter Benjamin, that is not ‘an exception but the rule.’ To show the universality of the nervous system he takes his reader through the heights of Machu Picchu, the world of Cuna shamans, and the pale world of New York’s hospital system." - Michael Taussig.
41
121

カトリーナ後におこったのは、「個人主 義的競争の論理」と「無慈悲な自己主張の論理」の衝突。
42
122
カントの「崇高(das Erhabene, Sublime - philosophy)」の理論。自然の力に魅了されたとき、自然に対する精神の優位を「消極的に」示すと、カントは主張。
43
122

「魚の迷信」。ニューオーリンズ暴動に おける「負の想像」の跋扈。我々はしばしば他者を、原理主義者にしてしまう。
44
123

偽の自己、アバターがもつ、変身能力の 大きさ。未開社会の人とそれを報告する学者への当てこすりが、ここ以外にもしばしば登場する。
45


ハリケーン・カトリーナ後に跋扈する「略奪しレイプすると想定された主体」(124)
46
125

恐怖の(流言)ために、消防署や警察は 出動しなくなる
47
125

ラ カンは、患者の妻が実際に浮気していたとしても「患者である夫の嫉妬は病的状態」と扱うべきと主張。なぜなら、嫉妬はリビドー供給の原因だから。仮に、う わさが事実であっても、うわさは、人種主義的であり、病的であるという主張。《真理の仮面をかぶったうそ》は、嫌悪しなくてはならぬと主張。「わたし(=ジジェク)の言っていることがたとえ事実であっても、わたしがそれをいう動機はよこ しまである」(126)
48
126

「黒人が犯罪を犯す」という事実が政治 的公正性により、抑圧されたり、嘘をつくことはやめなければならない。「事実を語ることが主体の発語のポジションにおけるうそをともなわないように、主体 のポジションを変えること」(126)
49
127

ネ オコン、ウィリアム・ベネット『徳の本』のアポファシス(「黒人を流産させれば犯罪率の流産がさがる。もちろんはそうはしませんが」)と、ホワイト・ハウ スの反応(ベネットの発言は「不適切である」と考える)。公的な言説は、不適切な言説により支えられている。ただし、それは検閲を通してはじめて、認めら れるものになる(127)。
50


グローバル・リベラルが「勝った」幸福 の1990年代。それの終焉を締めくくるのが9.11だ。
51


「全欧国境警察」創設の虚実。
ヨーロッパの自己中心主義:1)西洋先進国は本来的に(=自然主義的に)優位である。2)文化主義=我々西洋人も文化的アイデンティティを保護したい、あ るいは保護すべき権利がある。3)臆面もない経済的自己中心主義だ!  ジジェクによると、それは3)に他ならない。
52


ハリケーン・カトリーナ後の流言報道の 原因は「アメリカ社会の根深い階級分割を物語」る(p.129)
53
129
88
Melilla, is a Spanish autonomous city located on the north coast of Africa, sharing a border with Morocco, with an area of 12.3 km2 (4.7 sq mi). における壁の建設という課題。この政策を指導したのは、移民にもっとも寛容だったホセ・サパテロ(José Luis Rodríguez Zapatero, 1960- )政権である。これをジジェクは、寛容な多文化主義政策の限界と表現。
「ひとびとが自分自身の世界から必死に逃げようとしなくなるように、社会を変えることである」(p.130)[→Feuerbach1945Trilingual.htm
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〈追加の文章〉

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