かならずよんで ね!

フィールドとフィールドワーク

What is your Field and Field work?

池田光穂

九州大学学部共通教育「フィールドに学ぶB (Issues in fieldwork B : An introduction to fieldwork )」1単位(担当:瀬口典子先生)講義室イースト2号館1階 D-106(伊都地区)

シラバス概要より「私たちをとりまく情報環境は大き く変わってきており、現場・フィールドに行かなくても情報を手に入れることが簡単になってきました。しかし、現在でも現場に立って物事をみることの大切さ は変わっていません。フィールドでの姿勢を学ぶことは、分野を問わず学問の基礎として、また、人生における様々な選択や決断をより適切に行うスキルを身に つけることになります。この講義は一定の学問分野を足場としながらできるだけ一般的な形で、フィールドへの入り方、歩き方、学び方、およびそこで必要な倫 理・安全性への配慮について学びます。それをふまえて生涯役立つフィールド感覚を養います。今回は自然人類学を足場にした講義を行います。多角的なフィー ルド感覚を養うために「フィールドに学ぶ A」を合わせて履修することが望まれます。」

Outline of syllabus : "Since the availability of information has changed greatly in the past few decades, we have come to be able to obtain information without going to field sites. However, fieldwork remains important in both the social and natural sciences (and in various other disciplines). Fieldwork requires skills at observation, skill at integrating information, and skills in holistic thinking. Learning via field work can enable us to hone decision-making skills in various aspects of our life. This course will explore the following key issues: what fieldwork is; how to engage in and with fieldwork; they ways to learn from fieldwork; and the ethical issues and safety considerations that present themselves in the field in biological anthropology./ It is recommended that you register for “Issues in fieldwork A“ in order to learn perspectives on fieldwork."

フィールドでの喜びと悲しみ——垂水源之介のレク チャー05(22min)

この授業の内容はすべてイケペディアIkepedia 5.1)によってサイト内検索によりデータ収集されたものです。

●フィールドとフィールドワーク

フィールドワークの外延的定義は次のとおりです。ま ずフィールドとは「現場」のことです。フィールドワーク(field work)とは、「研究対象となっている人びとと共に生活をしたり、そのような人びと[インフォーマント] と対話したり、インタビューをしたりする社会調査活動のこと」です。フィールドワーカーとは、フィールドワークをするすべての人のことをさします。フィー ルドは多くは野外ですので、野外で作業すること(考古学で現場を測量したり発掘したりすること)をフィールドワーク、そして野外で作業する専門家(考古学 者や人類学者)をフィールドワーカーと言います。でも不思議なことに、現地で採用されて測量や発掘に従事する人たちは、労働者やワーカーと言われて、野外 労働者(フィールドワーカー)と言われることはありません。したがって、学生を含めて学問をやる目的のために野外にでることを(狭い意味での)フィールド ワークと言うのかもしれません。孤児諧謔的な皮肉な言い方をする専門家と非専門家をわける「偉そうな表現」と言えないこともありません。プラトン『パイド ロス』にこんな言葉があります:「私は学ぶことを愛する人間なのだ。…… とは言え、どうやら君は私を外へ連れだす薬物を発見したようだね!(dokein moi tes emes exodou to pharmakon eurekenai)」そのことについては後でよく考えてみましょう。

さて文化人類学者(私の専門ですが)は、フィールド ワークにもとづいて、人びとの生活に関する記述であり同時にその 人類学的考察である記録(主に書物の形で表現される)であるエスノグラフィー(民族誌)を著します。エスノグラフィーは、 フィールドワークの記録を基礎にした書物=論文[さらに映像・ウェブページなどの類するもの]である。民族誌(エスノグラフィー)は、今世紀初頭(具体的 には1922年)に定式化されたいくつかのものが英語で公刊されて以来、さまざまなスタイルの変化はあるものの、人類学者に書かれ読みつがれてきた。民族 誌=エスノグラフィーの狭義の意味は、対象の民族(エトノス)の記録(グラフィー)であるが、現在では、民族誌は人間の社会や文化について考えるた めの、文字記述を中心とした、人間ないしは人間集団を対象にした実地調査にもとづく記録ということができよう。

●専門家としての人類学者の生態を晒してみましょ う!

「フィールドワークで得た資料があり、さまざまな フィールドワークにもとづく論文・著作を読んだ経験があっても、エスノグラフィーを書かねばただの調査ディレッタント(好事家や素人)である。自分が心酔 している著者のスタイルをまねても、オリジナルの苦労仕事でも何でもいいから、エスノグラフィーを書かねば文化人類学者とは言えない。しかし、民族誌学に もとづく論文や著作は、フィールドを知れば知るほど逆に「書けなくなる」という逆説が、研究者のあいだではよく言われる。調べれば調べるほど、新たに調べ る項目やテーマがどんどん増殖していくからである。このため、欧米の研究者のあいだでは、調査期間が終わった博士課程の研究者は、すみやかに隠遁して比較 的に集中して博士論文を書き上げるこ とと助言する先達の人類学者も多いと言われている。そして、この助言は日本でも通用すると思われる。エスノグラフィーは論文でも著作でも、結局はアイディ アが固まったら、どんどん書いてゆき、ある程度まとまったら、小出しに独立した論文にするか、同業 者の集まる研究会や学会で発表したり、先達の人類学者に読んでもらって批判や助言を受けることである。以上のような知的生産のプロセスは、フィールドワー クで得たデータを実験室で得たデータだと考えれば、いわゆる実験系の研究者と同じプロセ スをたどって、論文生産にこぎつけていることになる。だから、文化人類学の論文生産は、外側をなぞれ ば実験系の科学者とおなじことをやっていることになる。ただし、実験とフィールドワークが根本的に異なることがある。それは、 フィールドワークの研究対象は、生身の人間であり、情報の質やその加工には倫理的な関係が生じるということである。もっとも、自然系の実験でも、人間を相 手にする医学研究における人体実験は当然のことながら、動物実験でも倫理要綱が定められており、なんでもありというわけではないことは当然である。」

●フィールドワークの図像学

︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎

●フィールドワークを通して何を「調べに」いくのだ ろうか?——フィールドのトポス

︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎

●フィールドワークの倫理について

「文化人類学に研究倫理など ないというのは、2020年以降で平気な顔で主張するのは、暴論でありナンセンスでありとして非常識な見解です。しかし、他方で、文化人類学者は、その方 法論的な 基盤として、認識論的な文化相対主義と いう、ある固有の文化における倫理的態度すら相対化して考えるという不思議な習慣をもっていますので、普遍的な研究 倫理を、自分自身の理解なくして受容することに頑なな職業的性格をもつことも事実です。/ここでは、倫理的存在者として研究者の研究倫理を、文化人類学と 文化人類学がもっとも得意とする異文化の社会を中心としたフィールドワークにおいて、どのような倫理項目について考えないとならないのか、その学問の成り 立ちにまで、遡って考えて見たいと思います。」

最近のトレンド:「フィールドワーク系の分野で科学 研究費補助金を申請する方は、所属する学会ならびに関 連する学会の各種「倫理要綱」「倫理コード」「倫理規範」などのURLなどを記載し、まず、自分の属する学協会領域での倫理規範に準拠して調査をおこなう 旨をのべ、科学研究費補助金が採択された場合には、代表者あるいは研究協力者の属する所属期間での「研究倫理申請」ないしは「研究倫理審査」を受ける予定 である旨の言及を必ずおこなってください。またe-APRINなどの研究倫理に関するe-learningなどの講習を受けた/受ける予定である旨も忘れ ずに記載しましょう。それが無き場合は、研究の実現可能性(フィージビリティ)を評価をしても、研究倫理に関する配慮が足らないという評価を、研究計画書 全体に受ける可能性があります。ご自身が倫理的に高潔であることも重要ですが、それよりもなお、フィールド調査は、社会的な空間(公共圏)で行われるため に、自分たちの研究における研究公正(=倫理規範をまもり正しく調査研究をおこなうこと)について、構造的な配慮が、研究計画書の中に示されていることが 重要です。」(「フィールドワーク研究の倫理」より)

●インフォーマントとの倫理的関係の確立

人類学におけるインフォーマントは、調査のプロセス で接触するすべての人々のことと考えてもらってもよいでしょう。現地の人と出会い、 話し 合うことを通した自分の活動を内省的にみれば、人類学者自身もまた相手にとってインフォーマントとなりうる資格をもっています。したがって、人類学の調査 では、あらゆる人がインフォーマントのことになります。人類学では同時にインフォーマントを[今度は逆に]狭く厳密に捉えることがあります。この場合のイ ンフォーマントは、人類学者の調査 の趣旨を理解してくれ、人類学者の対話の相手になる、同僚または先生のことでもあります。この狭義のインフォーマントは、人類学の著名な調査には人類学者 の有能な助手となるだけでなく、人類学者の導きの糸たる先生にもなり、人類学者の名声と共に人類学の歴史に名を残す人もいます(→上掲のヨーダ師匠の格言 ”you must unlearn what you have learned” に注意)。

「『わたしたちが学び知って獲得してきた特権は、そ れらが 人種、階級、ナシヨナリティ、ジェンダー等々、どのような分野についてのものであれ、わたしたちが別の知 識を獲得するのをさまたげてきたのかもしれない』ことに注意をうながしたうえで、『人が自分で学んで得た 特権を自分にとっての損失であると見なすことによって忘れ去ってみることには二つの意義がある。……わた したちの特権を忘れ去ってみることは、一方では、わたしたちの宿題をはたすこと、わたしたちの特権化され た眼差しにはもっとも問ざされた場所を占めている他者たちについてのなんらかの知識を獲得するために懸命 になって勉強することを意味している。また他方では、それはそれらの他者たちにかれらがわたしたちをまじ めに受けとることができるようなしかたで、そしてなによりも大切なことには、答えを返すことができるよう なしかたで、語りかけるよう試みるということを意味している』とするとともに、このようにして遂行される 〈学び知ったことを忘れ去ってみる〉ことの試みは、そのままにまた〈他者とのあいだに倫理的関係性をとり むすぶ〉ことの開始を告げるものであると指摘している。しかも、それは断じて他者に代わって語ることであ ったり、他者をして自分で語らせることではあってはならないのだと」(上村 1998:140)[『_』内がスピバックからの引用]

映画『スターウォーズ』のなかで、ジェダイの騎士に なるべくヨーダ師のもとに赴いたルーク・スカイウォーカーは、師からこのように忠告される:You must unlearn what you have learned. これは、フィールドワークを通して、なんでも記録し なければならないと強迫的に仕事をする民族誌家(フィールドワーカー/エスノグラファー)にとっては、なかなか難しい課題だろう。なぜなら、フィールド ワークのデータを忘れまい、忘れまいと思って、ノートをとり、また(スマホの)カメラやビデオを操作するからである。おまけに、フィールドワークを終え て、時間がある時には、ひたすらノートを整理する。James Clifford and George Marcuseds, Writing Culture, 1986, 2010の表紙の写真(上掲)を思い出してほしい。

インタビューとは、対話や問答を通して人にものを聴 く・聞くことである。人類学的インタビューとは、人類学者や人類学を勉強する人たちが、インフォーマントとよばれる調査協力者に対して、人類学調査に関わ る さま ざまなものを聞くことである。したがって、調査者は、その研究の目的のためにさまざまなインタビューをおこなうが、その方法は多様なものがある。また、友 人との日常 の会 話から行政や司法の場面における査問まで、それらの行為には調査者の倫理性が伴うことも忘れてはならない。また、通常、インタビューは対面調査でおこなう ものをさすが、コミュニケーション技術の発達などにより、電話や電子メールなどでインタ ビューに準じたものが行われることがある。これらの手続きや倫理に関する事象も、対面調査で行われるものに準拠した扱いでおこなわれるべきである。そし て、人間を対象にする調査研究は、根元的に人体実験的性質をまぬがれえない。そのために、調査研究において、調査する人間が調査される人間の尊厳を傷つけ たり、される側の資源(人体の一部あるいはその隠喩[例: 知 識])をする側が搾取するという事態がおこりうる。このような事態は、研究者じしんが道徳的であるか、よい人間であるかというとは関係なしに、行為が社会 的にどのように意味づけられるかに よって、構造的に決定される性質のものである。調査者の倫理は、その人の内面を規定するものではなく、その人がどのような手続きをふんで調査をおこなおう とするのか、おこなっているのか、おこなったのか、という観点からきめられる。したがって、調査者は調査をはじめる前に、その調査が、人間の倫理にかなっ ているか、調査をおこなう正当性をもちうるか、研究がもたら す社 会的影響力等について責任を負うであろうことに、十分な配慮をもたなければならない。反倫理行為は構造的に決定されるために、倫理の学習は、さまざまな ケースを通して学ばれる必要がある。(→「調査研究の倫理について学ぶ」)。

●グループワーク(問題)

(状況説明)

皆さんは、これからチームを組んでハナモゲラ共和国 のランゲルハンス諸島の住民に対してフィードワークをおこなおうとしてます。この住民の なかに成人後に常染色体〈異常〉により「未来の予知能力」を得ることができる人たちが含まれることが明らかになったからです。この予知能力遺伝子のDNA サンプルは口腔内の粘膜を取ることで分かりますが、正確に同定するためには、資料をすべて日本に持ち帰る必要があります。ハナモゲラ国立大学の研究チーム も、どうもこのことに気付き我々の研究に大いなる関心をもっているようです。もちろんこの遺伝子異常は 軍事 技術にも応用可能ですので、世界の国防省や軍事産業も関心をもっています。

(質問)

あなたは、日本を出発する前から帰国するまでに、ど のような倫理上の課題を抱えることになるでしょう。1.出発前、2.出発後 現地 到着後、3.住民への調査中、4.調査終了後の出国前、5.帰国後、という5つの研究のフェーズにわけて、課題を列挙し、それに対する適切な対処法を創案 してください。

研 究倫理上の課題:この研究に関連する学問分野は「_____________」「_____________」「_____________」「_____________」などです
1.出発前



2.出発後現地到着後



3.住民への調査中



4.調査終了後の出国前



5.帰国後




リンク

文献

その他の情報

Maya_Abeja

Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 2019

池田蛙  授業蛙 電脳蛙 医人蛙 子供蛙