若者と労働
youth and "slavery" ?
解説:池田光穂
みなしゃん! 政府がいくらニート(就労意欲があるものをフリーターと呼びますが、雇用者にとっ ては未熟練非常勤潜在労働力のレッテルなんだから同じよ〜)対策やっているからといって、「う〜ん、俺たちの政府も真剣に考えているんだ!」なんて小林よ しのり風にナイーブに受け取ってはいけましぇん。
"Employment is a relationship between two parties, usually based on a contract where work is paid for, where one party, which may be a corporation, for profit, not-for-profit organization, co-operative or other entity is the employer and the other is the employee." - Employment.
WORK, EMPLOYMENT, OCCUPATION, CALLING,
PURSUIT, MÉTIER, BUSINESS mean a specific sustained activity engaged in
especially in earning one's living. Merriam-Webster.
だいたい、ニートちゅう言葉の語源を尋ねればわかるはず。Not in Education, Emploiment or Training, NEET つまり、その時点で教育を受けているわけでも、雇用されているわけでも、なにか[職業]訓練を受けているわけでもないちゅう人間の数をカウントするために 創られた、英国の労働政策のための分類ラベル(カテゴリーと言います)なんだもん。
もちろん、良心的と言われる経済学者ですらニートを「仕事の中核として働く世代に人的資本の蓄積 が進まない」というふうに、ニート現象を[社会]経済問題化している始末なのだから(竹田 2007:47)。
産業社会は一定の働き手を必要とするけど、社会が経済成長しない(=端的に言うと社会を回して働 いても儲からない状態)時には、労働者のくび切って会社はぎりぎりの水準で生き延び、成長している時には、[サービス部門も含めて]生産性をあげればあげ るほど儲かるので、じゃんじゃん人手を必要とする。つまり雇用が生まれるからよ。前者では、景気がいいと言い、後者は景気が悪いという。
若者は、仕事の憶えも速いし、なにせ生命力に満ちているから、雇用した時に多少段取り悪くても鍛 えれば将来良質な労働力なるし、社会の人口はいずれ更新されねばならないので、どんな産業社会も若者を雇用する。そんな社会に、労働予備軍とも言える学校 に通わず、またその訓練も受けていない。おまけに、一時的でもバイトもしていない連中——つまりニートがいる、ちゅうのは、人々の社会経済的活動から得ら れる税金で回している政府にとっては脅威になる——つまり「こまったちゃん」な——わけよ。
こういう風な仕組みで動いている社会が生み出す道徳とは、まっとーに働いていない人(金持ちも貧 乏人)に対する嫌悪である。どこかの地方自治体の首長が、ホームレスを嫌い、政権政党の議員さんたちが[不労所得を濡れ手に粟のように得ていると偏見の眼 でみられたかつての]ホリエモンやムラカミ・ファンドを嫌ったのも、ここから来ています。
ところがこういう道徳は、差別する人たちだけでなく、将来差別される潜在力のある人たちにも共有 されます。学校をドロップアウトした非行少年・少女たちがホームレスを嫌悪しながら、ホームレスに喝上げして、あげくの果てはホームレスに暴行を加える事 件が我々にとって極めて残酷で悲惨に見えるのは、彼ら[非行少年・少女]が将来待ち受けている自分たちの未来像に向かって八つ当たりしているように[世の 中を管理している人たちからはそのように]見ることができるからです。
従って、行政的手続きによりホームレスの生きる権利を侵害しようとする首長のやり方、自分とは全 く異なる労働生活があるということが想像できない政権政党の議員さん、そして非行少年・少女たち以外の人たちは、この問題を解消するための正気な方法がな いかと考えます。その残された最後の方法というのが、社会福祉という方法です。
ニートという概念の創出と、そのような概念によってくくられた人々に対して、より有用かつ迅速に 労働市場に送り込むのかというのが労働政策だとすると、それをサポートしつつ、別の側面から市民が抱えるこの問題の最悪な被害者にならないようにするのが 福祉政策というわけです。これらは、別々の政策というわけではなく、労働市場において若者をどのように取り扱うのかということを「真剣」に考えているとい う点では共通の利害をもっています。
さあ、若者と労働というテーマで勉強をすすめてまいりましょう。
※ちなみに、表題のyouth and "slavery" ?は皮肉ですよ。よく考えてみましょう。
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スチュアート・タノック(Tannock, Stuart 2001)による若者と労働に関する先行研究は次の4派に分かれるという。
1.若年労働市場派 youth-labor market school
2.学校から職場への就業機会派 school-to work school
3.学生労働派 student-worker school
4.社会的再生産派 social reproduction school
これらの学派をかいつまんで紹介すると次のようになる(邦訳は大石徹2006)。
1.若年労働市場派 youth-labor market school
この学派は、若者が労働市場に入ってくるまでに未熟練のもたついた状態があることに着目す る。つまり、若者は、労働市場に入っていきなり大人と互角に張り合うのではなく、もたつきながら仕事を覚えていくというのだ。これは、仕事をしない若者を さほど問題視しない学派である。なぜなら、問題は若者を十分に雇用できない市場の側にあったり、高賃金の「大人」の仕事を正当化できるからである。
2.学校から職場への就業機会派 school-to work school
若者が上手に労働市場に適応できないのは、若者に対して十分な就業機会が与えられていないか らだと、この学派は考える。この学派からみると、若年労働市場派は、若者が十分に仕事をやることができない理由を若者じしんの責任していると見るのであ る。従って、若者がやりがいのある仕事に就こうとしないのは、「大人」の側が若者にチャンス(つまり就業機会)を与えたり、学校教育の中で、若者に十分な 就業移行のための教育や機会を与えていないということになる。にもかかわらず、若者の中に就業後に職場に定着しなかったり、就業そのものに積極的に取り組 むことができない社会現象について、この学派は十分に説明を与えることができない。
3.学生=労働者派 student-worker school
学生=労働者派は、産業化された社会のなかで多くの学生が労働現場を担っているという現実に より多く眼をむける学派である。ただし、この現象がそれ以降の若者の労働意識などにどのような影響を与えるかということについては多様な意見があり、若者 を労働者と取り扱う社会が、どのような方向性に向かうのかについては種々の意見の対立があるらしい。労働市場と学生による労働力供給に関する政治的な分析 力が足りないというのが、タノックのこの学派に対する批判のひとつである。
4.社会的再生産派 social reproduction school
言わずと知れた、ポー ル・ウィリス(Paul E. Willis, 1950- )やピエール・ブルデュなどの研究である。学生の労働に対す る気質は、学校制度を通して形成されるエートスであり、若者のさまざまな労働に対するイメージは、自分たちの属す社会階層や、彼らが育つ学校教育などを通 して複合的に形成されるという見解をとる学派である。
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