真摯な高校生の質問にお答えします
大学の先生になるには、どうすれ ばよいか?:進路講座(26分)(YouTube)
【前口上】大阪府立春日丘高等学校で の「理科系高校2年生のための進路選択の指針」関連の出前講義(2007年2月7日)に先立ち、高校生の諸君からいただいた質問に事前にお答えしました。 講演そのものと現場でのよりディープな議論の展開のために、その質疑応答に関する情報をインターネット上でも利用できるようにここに公開しました。ここで の内容は、しばしばネットユーザー利用者から質問される内容のものもありますので、関心をもつ他の高校生のためにもお役に立てるものと信じています。改善 へのご意見は におねがいします。
【質問、以下Qとします】高校での勉強と、大学での勉強の違いは何ですか。
【源】人間の知識習得という観点から言えば同じです。しかし大学ないしは社会 では、勉強に関してより自発性が要求されます。もちろん駅前留学といわれる社会人向けの大学の外での私塾のように、高校教育のような標準化・規格化された 教育システムは存在します。高校で勉強しない連中がいますが、大学生にもちょっと悲しいことですが、存在します[勉強しない人間がだめという意味ではな く、勉強するために大学があるのに授業料払った分、損しているぞっ!という意味での「悲しさ」です]。他方、小学生にも、大学生以上に自発性にもとづいて 勉強する人もいますので、小中高大そして大学院という教育水準の高い低いの違いによる「勉強のやり方」に違いがあるとは、私は考えません。
以下のページをごらんください。
【Q】大学の仕組みや、授業の様子などを知りたいです。
【源】大学の仕組みは、大学の公式ホームページなどにアクセスすれば詳しい情 報が入ります。ウィキペディアなどその大学を外部から紹介するものがあります。受験参考書などで大学の先生が紹介するものは時に面白おかしく書いてありま すが、実態をなかなかうまく反映しないようです(私も2誌に執筆しており、その内容について把握していますが、学問の内容を限られた誌面において表現する ことは意外と難しいことは経験的にそういえます)。
さて、大学の内部の側からの提示と、第三者からの紹介という比較してみましょう。例えば、大阪大学では次の公式ページと外部からの紹介があ ります。
また、大学の授業や公開講座は、一部のものについてはiTune などのポッドキャストで無料放送されているようです。我々の組織もそのような対応について構想中ですが、まだ放送していません。
【Q】大学ではどのような仕組みで研究をするのですか。
【源】大学には、学部や研究科という、会社でいうところの支店があり、学部や 研究科の下に、学科というものがあります(現在さまざまな呼び方があります)。これは会社でいうなら営業部や総務部などに相当する、大きな単位で、ふつう の学部や研究科の下には、数種類の学科があります。そして学科の下に研究室という単位があります。研究室は、営業課、人事課や庶務課に相当します。研究室 (教室という名称で呼ばれることもある)には、教授ひとりで構成される「大講座制」という制度と、教授・准教授・助教・助手などからできている大所帯の教 室—これを「小講座制」といいます。用語法としては、大小が逆のようですが、学部や学科を大きくまとめるので「大講座」、数多く小さくまとめるので「小講 座」といいます。
大学を経営する時には、以上のような組織の成り立ちについて知ることは有用ですが、それぞれの研究室に属して研究することに対しては、この ような知識はそれほど役立ちません。受験生にとって役立つ情報は、自分が将来進学する大学・学部・研究科・研究室の研究内容とレベルについてよく知ってい ることです。宇宙工学を勉強するのに、ダムの設計の分野の研究に進むことがナンセンスであるように。
【Q】研究でどんなことが一番楽しいあるいはおもしろいですか。また、どんな所が難しいです か。
【源】私は、勉強おたく研究おたくは、一種の知的「変態」であると言いまし た。変態は、本人は嬉々として楽しくやっているが、まわりからみると「なんで楽しいの?」と思われる人です。以下のページをごらんください。
【Q】教授になったときにどんな目標を持ちましたか。
【源】そうですね「ああやっと肩書きからスケ[助]という字がとれる」という 感慨だけですね(2007年4月からは多くの大学で准教授などと呼ばれるようになりますが、それまでは助教授と呼ばれました)。私よりも「愚かな(失 礼!)」な連中が先に昇進していましたからね。しかし、昇進というものがもたらす精神的な余裕というものは、恐るべき効果をもっていますね。あれほど周り の連中を愚かな連中と思っていたのが、今度は逆に「自分が一番愚か者である」という気づきですね。あるいは人を愚か者にしたつけは最後に自分に回ってくる ということでしょうか。関西にはデルフォイの神殿の言葉に匹敵するよい言い方(見方を変えれば呪詛=じゅそとも言いますが)があります。「あほ言うもん が、あほや〜」です。愚か者としての自覚。これが最大の福音でした。したがって教授になった時の目標は「今日からはまじめに勉強しよう」ということでし た。
【Q】大学で研究するとき自分の知りたいことを何でも研究できるのでしょうか。
【源】含蓄のあるとてもよい質問です。
基本的には「何でも」ですが、大学教員もふつうの人間ですから、社会が倫理的・道徳的であるとみなされた行為のなかで「何でも探究する」こ とが許されているのです。
大学という環境のなかで、考えられうるあらゆる可能性を試みることができるのが大学教員の特権であり、また使命でもあるのですが、最近は社 会がどうもそれを許さないようで「大学の先生は勝手なことをやりすぎる!」とお叱りをうけ、ちょっと萎縮気味です。ぜひ、みなさんの新鮮な興味と探求心で 未来の大学の創造力を取り戻してください。
【Q】大学院で、研究費は出るのでしょうか。
【源】よい研究、社会的によい研究と認められたものには、研究費や奨学金を出 すシステムがまがりなりにも整備されています。つまり優秀な大学院生は研究に関してはリッチになり、優秀ではない院生はプアになり、大学院をドロップアウ トすることになります(ただし逆は言えないつまり、ドロップアウトした学生は優秀ではないからだ、とは絶対に言えません。)。この部分はシビアな競争原理 が働いて、端から見ても結構厳しいです。もちろん、不幸なことに、優秀だが社会に認められない逆境に抗って研究している研究者も多くおられます。研究を第 三者が評価するのはとても難しいことなのです。
【Q】勤務時間(出勤時刻、講義や研究のスケジュール)を教えてください。
【源】出勤時間は週5日いちにち8時間働いています。 現在の私は平均すると週3つの授業(2時間)をこなしています。ひとつの授業の用意のために5−6時間、[次回以降の授業をよくするための]復習のために 2−3時間ぐらい使います。えんま帳もつけたりするので、3つの授業をおこなうだけで、週27時間から33時間かかります。週の労働時間は8時間×5日= 40時間ですから、週のほとんど授業のために使っています。のこりの時間は研究ですが、授業の内容には研究の成果も反映されますので、33時間が研究とは 無関係ではありません。週末は学会の活動や研究会などを主宰していますので、結構忙しい部類に入るでしょう。
【Q】どうやったら教授になれるのですか。
【源】「先輩の教授に毒を盛る」・・・・というのはジョークです(真に受けな いで!) 正直に申しますと、(1)勉強や研究という精進、(2)よい先生や研究テーマに巡り会えるという運命、(3)挫折にめげない精神力でしょうか。 先にも書きましたが、自分よりも優秀な人でも教授になれないひとがいっぱいいるので、運の要素は大きいです——これは現在の制度的問題なので改善が進んで います。逆に言えば、かずかずの就職のチャンスにめぐまれずに、最終的に優秀な大学に雇用される人もいるので、教授になるための最大の資質はあり体ですが 「ど根性」ということでしょうか。(すみません精神論になってしまって)
【Q】高校2年生の今の段階で、何をすべきなのでしょうか
【源】これはベリー・シンプル!! 次の3つのステップを火急的速やかに実行 することです。(1)夢をもつ、(2)夢を実現するための具体的な進路を想定する、(3)理想的な進路を達成するための準備をいますぐに開始する。
大学卒業生の就職率を上げるためにそれぞれの大学の進路指導課が試行錯誤して編み出した秘策は次のようなものでした。大学入学時に「4年修 了後の自分の姿を想像し、それを具体的なかたちで文章などにまとめ、第三者の前でマニュフェストしてもらう[〜させる]」。こんな単純なことで自分に催眠 をかけ、本当にパフォーマンスがあがるのですから、人間って意外と単純にできているのですよ。
Ver. 1.0, 2007年1月31日