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医療化とスティグマ化の関係

Meicalization with Stigmatization in Health Sociology

解説:池田光穂

医療化(medicalization)の概念は、観察さ れた現象に対する記述概念である。しかし、医療化論そのものがが近代医療における社会 統制機能について論じられることが長かったし、またそのような研究が豊富にあるので、医療化というプロセスは、医療に統制される人民にとって害悪のように 見られる傾向があった。あるいは医療化論の理論的バックボーンは、政治経済学にあるという使われ方もされて、医療化論は近代社会における一種の政治経済現 象だというふうに理解されることも多い。

しかし、医療化論の大御所ピーター・コンラッドが医療化論 に関する社会学的議論について回顧した時に述べたように、今日における医療化の推進力 は、権力や医療専門職集団ではなく、コンシューマーとしての人民や、マスメディアによって支えられているという指摘すらある。

このような皮肉な自体は、しかし、21世 紀における医療化論に関して議論する際には、むしろ福音になる。医療化とそれとは逆行するプロセスであ る脱医療化の議論が、政治的な議論になった時にしばしば見られるような性急な価値判断ないしは知らないうちに価値判断を忍ばせるようなものとは、異なった 展開を遂げる可能性があるからである。

他方で、医療——とくに精神医学——が深 く関わるもうひとつの不適切な濫用として、医療の診断が、その患者本人にスティグマ(stiguma, 烙印)を張り付けることで、社会的差別を生むという議論、すなわちスティグマ化の議論がある。反精神医学がもたらした近代医療批判は、一方で社会統制とし ての医療化批判を、他方で、専門家が貼り付ける病気のレッテルを社会構成的なものとみなさず専門家による決定的な烙印(スティグマ)であるという問題構成 で捉えることで、近代医療が福音をもたらすという見方に歯止めをかけ、近代医療がもつ制度的ならびに象徴的な強制力に注目するように仕向けた。

反精神医学のすべてがおしなべて、医療化 はスティグマ化をもたらすという単純な命題を主張したわけではない。しかしながら、その大衆的イメージ としては、医療化と[近代的]スティグマ化を現代医療がもたらすのだという単純化された議論をしばしば見かけることがある。

このような混乱から逃れるために、医療化 とスティグマ化には、相互に絡む複雑な関係がある/なしに関わらず、形式的にこの2つの社会機能を区別 して、それぞれの逆のコース——脱医療化ならびに脱スティグマ化——との組み合わせからできる4分類の関係について考察してみよう。

この図の解釈をめぐって、そのような医療 化やスティグマ化の弁別特徴や分析するための科学的根拠を明らかにせよという注文が入るかもしれない。

あるいは、この分析は客観的を装った別の 意味での政治的言説であるという批判を受けるかもしれない。

確かに、以上の批判は当然導き出される帰 結かもしれない。それは今後の改訂によって明らかにしていきたい。

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