私の教育について
My Experience as University both
teacher and mentor
私の教育について
私(池田光穂)の属する大学では教育目標として教養・デザイン力・国際性の3つを揚げています。私の属するセンターでは、私は大学と一般市民の
あいだに壁と不信感があるという現状を打破し、それを改善すること、利害や立場の異なる人々との間をつなぐコミュニケーションの方法を考え、設計するとい
うことを理念としています。私の大学への教育方針は、学生・院生への教育・指導(メンタリング)の一言につきます。私が考える教育・指導(メンタリング)
とは、(順不同ですが)1)元気付ける、2)指導する、3)時間管理する、4)計画を考える、5)ともに遊ぶ、6)診断する、7)助言する、8)始動す
る、9)エネチャージする、10)情報の在り処を示唆する、そして、11)分析・評価するからなっています(→「日本の教育に物申す!」)。
私の教育経験について
私の文化人類学教育は、1981年の医学研究科の大学院博士課程在学中に関西の私立大学ではじめた「医療人類学」(2単位)が最初のものです。
当時は所属していた指導教員(メンター)が海外の医療人類学の動向を紹介はじめた頃で、その紹介で短期大学を含むいくつかの私立大学で「医療人類学」「医
学史」「医学概論」の教鞭をとりました。1984-1987年の海外活動経験から帰国し、医療人類学関係の論文を書き始め、かつ国立民族学博物館にポスド
ク研究員になるころには、これに館員の先生方から紹介されて関西の大規模な大学で一般教養の「文化人類学」も教え始めました。中米で青年海外協力隊で保健
省勤務で勉強した医療人類学や文化人類学のほとんどは北米のものでしたので、スペイン語に翻訳し簡単な教科書をつくり同僚にも教えていました。従って私の
文化人類学教育のスタイルはアメリカの総合人類学(general
anthropology)のそれです。医療人類学は自然科学である生物医学と文化人類学を架橋する学問でしたので、一見普遍化してみえる近代医学も西洋
社会の文化的構成物であることを、実例をもって教示できました。逆に、当時の日本語の文化人類学の教科書が日本での先行学問の民族学やフォークロアの影響
を多く受けていることは私にとっては新奇な発見であり、学生には、その違いと理由——文化人類学という学問も当該文化の中でリシェイプされる——を説明で
きることは刺激的でした。
1994年の熊本大学文学部文化人類学教室への赴任は、それまでの教養教育に加え、学部の専門教育、調査実習、卒論指導など、当時の文化人類学 の最新の理論紹介とともに、その頃から陸続と翻訳公刊され始めた民族誌や理論書を学生たちと、長い時間読み込む訓練もできましたので、私にとって貴重な経 験でした。同大学在任中の後半には社会文化科学研究科の文化政策論担当にもなりましたので、隣接分野(地理学、社会学、歴史学、言語学、比較文学)専攻の 院生とともに、文化人類学の思考法や批判的アプローチを実際に使ってみて議論するという修練を行いました。また当時、九州人類学会の会長に就任したために 九州管内の他大学の文化人類学専攻の学部生ならびに院生と毎年、夏期研修合宿を企画、開催し、他大学のとの交流の意義について思いを新たにしました。
大阪大学赴任後は、コミュニケーションデザインセンターならびに現在のCOデザインセンターでは、臨床コミュニケーション、対人コミュニケー ション、コミュニケーションデザインなどの対話型授業を大学院生に教えるとともに、人間科学研究科人類学教室の併任になり、ひきつづき文化人類学の理論 (人類学史、政治人類学、先住民研究)を教えるとともに、前者の授業科目の教育で会得したプレゼンテーション技法を、後者の科目群にも導入し、勉強したこ とを適確に他者に伝える方法や、調査技法(質的調査研究)も過去5年間にわたり教授してきました。現所属機関は、研究科の垣根を超えてすべての大学院生に 高度教養教育科目を教授する組織ですので、授業も単独で行うものと、複数のTAを使ってアクティブラーニングなど多様なプログラムを運営しています。私は 研究推進担当の副センター長ですので、時に同僚の授業に参加してお互いに教え合う機会を設けています。
そして、垂水源之介こ と池田光穂は、2022年3月末をもって大阪大学COデザインセンターを定年退職することになりました。4月からの称号は大阪大学名誉教授です。また、日 本学術振興会の科学研究費補助金を受給しているために当面は、大阪大学大阪大学COデザインセンター招へい教員の肩書きでも研究活動に従事することになり ます。
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歴史的資料:「教務委員長経験者からすべての学習者へのメッセージ(2009)」
御注意:このメッセージはコミュニケーション教育を主眼にするあるセンターの教務委員長を務めている私から大学生・大学院生全般に対する私信と も言えるメッセージです。このメッセージは私が所属している組織の公的見解を表現するものでなく、また示されている内容は、私の個人的な経験よるより一般 的な内容であることをお断りしておきます。私がこのメッセージを通して皆さんにお伝えしたいことは、臨床コミュニケーション教育に携わった経験から、学習 者一般の皆さんに熱いメッセージを送り、日々の学習を元気づける(エンパワー)するもので、ここで記載されているいかなる組織・団体を中傷するものではあ りません。
.【私信】 私の属する大学では教育目標として教養・デザイン力・国際性の3つを揚げています。 私の属するセンターでは、専門家や行政と一般市民のあいだに壁と不信感がある現状を改善すること、利害や立場の異なる人々との 間をつなぐコミュニケーションの回路を考え、設計するということを理念としています。 このセンターはコミュニケーション能力の育成を目的としたユニークなプログラムを、「大学院生の共通教育」として全学の大学院 生を対象に開講してきました。平成18年から開始しており、平成20年からスタートした高度副プログラムも履修修了書も他部局に先行して交付することがで きました。 このセンターの高度副プログラムは、異なる専門性の間の相互理解、自分の専門性の特質の理解、社会とのコミュニケーションの必 要性の理解の獲得を目標にしています。講義は、演習、ワークショップ形式を組み込み、従来の座学による知識の習得とは異なるアプローチを取っており、議論 や調査などで学生が自ら身体を動かして講義に参加する企画など、多様な内容となっています。 今や社会活動のあらゆる場面において具体的な結果を引き出すためには、対人コミュニケーションが不可欠です。私達は対話に基づ いて現場の臨場感を反映させるような教育、文理融合、学際、領域横断型の共同研究を続けています。このような現場は身の回りに無数にあり、自分自身やその 場にいる人々と一緒に考え、現場への関わりのあり方に変化を与えることを目標としています。私達の科目は必修科目でないこともあり、学生は柔軟な発想で新 しい形式の授業を楽しんでいます。 対話型の実践教育を進めていく中で、学生からの新しい視点に驚かされたりすることもしばしばあり、これまでの理論の枠組みにと らわれていて変わらなければならないのは、実は学生の側ではなく教師や大学管理者なのかも知れないと感じました。また教師が学生に対してよかれと思い必修 化することが、逆に受講学生の学習動機やモラルの低下を生み授業全体の弊害になるという現象も、特にある特定の専門領域の学生を観察した結果、しばしば見 られることを発見しました。 これからの課題としては、医師と法律家というコミュニケーションデザインが最も現場で求められている専門家を養成する機関であ る医学研究科(医学専攻)や高等司法研究科の受講機会や可能性を増やすことなどがあげられます。このセンターのプログラムは、これまで文系・理系を問わ ず、多様なバックグラウンドを持つ学生の受講実績がありますので、こういった研究科に所属する学生にもふるって登録し、体験して頂くことを期待していま す。
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