リスク
risk, Risko, riesgo,危険
■リスクの定義:(医療人類学辞典)
ある事象に関する未来の不確実性のうち、現時点で想定している否定的な効果を、リスク(危険あるいは危険性)と呼ぶ。ISOでは(後述するように)リスクの定義「不確実性が目的に与える効果(effect of uncertainty on objectives)」としている。さて、実際に起こ りえる/起こってしまった否定的な意味の事象はハザード(災厄あるいは危険性)と読んで区別する。
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リスクとハザードの違いは、前者(リスク)がハザードと それがもちうる可能性(生起する確率)を内包する概念であると便宜的に区別したほうがよい。これにより、例えば「バイオ・ハザードのリスクが高い/低い」 (=生物・生命体あるいはその派生物がもたらす災厄の危険性が高い/低い)その生起する確率を内包した未来の事象の可能性について説明することができるよ うになる。
この意味に添うOEDの定義は名詞のriskのうち2.aThe chance or hazard of commercial loss, spec. in the case of insured property or goods.が近く、その用例として、1719 W. Wood Surv. Trade 239 To avoid the Loss or the Risque of having any Goods by him, out of Time.と1728 Chambers Cycl. s.v., The Risk of Merchandizes commences from the Time they are carried aboard. が挙げられている。(→リスク概念の歴史)
リスクのより実用的で測定可能なものの定義は、(その否定的な事象が)〈起こる確率〉と〈結果〉(=具体的には死亡者数など[確率変数]) の積である。
カーメンとハッセンザール(2001)年によると、リスクの定義は「生じる結果とその可能性の積からなる確率、または結果がもたらす影響の 程度を表す」ということである(『リスク解析学入門』:Kammen, Daniel M. and David M. Hassenzahl., 2001. Should we risk it?: Exploring environmental, health, and technological problem solving. Princeton, N.J.: Princeton University Press.)
また、リスクファクターとは、ある特定の疾病(disease)に寄与する危険な要素のことである(→「リスクファクター」)。
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リスクの定義は、研究者や団体に種々あるが、ここではリスクマネジメントの観点からISOのリスクの定義「不確実性が目的に与える効果」を参照しよう。
"The International Organization for Standardization publication ISO 31000 (2009) / ISO Guide 73:2002 definition of risk is the 'effect of uncertainty on objectives'. In this definition, uncertainties include events (which may or may not happen) and uncertainties caused by ambiguity or a lack of information. It also includes both negative and positive impacts on objectives. Many definitions of risk exist in common usage, however this definition was developed by an international committee representing over 30 countries and is based on the input of several thousand subject matter experts." - Risk by the definition of ISO, International Organization for Standardization.
したがって、この定義に準拠すると、ISO流の考え方を適用すると、リスクマネジメント(Risk management)とは「不確実性が目的に与える効果」を管理・制御することということになる。(→)
NASAが作った国際宇宙ステーション(ISS)の衝突リスクの分布(青[low]←→赤[high])を見える化して表現している。
●リスクとハザードは異なるという見方について
ハザードの説明を見てみよう。その中にリスクとの関係が対比的に叙述されている。
"A hazard is an agent which has the potential to cause harm to a vulnerable target. Hazards can be both natural or human induced. Sometimes natural hazards such as floods and drought can be caused by human activity. Floods can be caused by bad drainage facilities and droughts can be caused by over-irrigation or groundwater pollution. The terms "hazard" and "risk" are often used interchangeably however, in terms of risk assessment, they are two very distinct terms. A hazard is any agent that can cause harm or damage to humans, property, or the environment. Risk is defined as the probability that exposure to a hazard will lead to a negative consequence, or more simply, a hazard poses no risk if there is no exposure to that hazard." #Wiki.
また、現実に起こってしまった災害の状態をインシデント(incident)という。
■リスク概念の歴史:
リスクは、信用経済と投資を扱う経済学の理論のなかで生まれ成長してきた。他方、賭博や投機行動において最適な結果を求める動機とそれを満 たす説明概念の発達などから、確率をとりあつかう応用数学における発展があり、この2つの領域がマッチあるいは融合して、リスク概念を計算可能なものにし ている。あるいは、そのような理論上のフィクション(=想定される事態の構築)が成立している。
◎合理的市場という神話 : リスク、報酬、幻想をめぐるウォール街の歴史 / ジャスティン・フォックス著 ; 遠藤真美訳,東洋経済新報社 , 2010年
●リスク社会の誕生
リスク社会の誕生は、近代社会における「再帰的近代化」という現象と切り離して考えることができない。例えば、ベックは、合理的な近代化が、大規模な環境汚染を引き起こしたり、激甚災害などに十分な対応ができないことを通して、この市民社会そのものがリスクを 含んだものであることを再帰的に自覚させるにいたると主張する。たしかに、ベックの議論を受けて、我が国(日本)における、リスク社会論の成立とその受容 は、その後の、企業の環境汚染に対するモニター制度や、政府機関による食の安全性、あるいは、激甚災害への対応や、災害が起こらないように近代理性的にそ の防止策を検討するだけでなく「減災」などの用語や概念すら生み、災害後の人的・経済的被害の予測を立てるだけでなく、そのダウンサイドリスクを最小限に 食い止めようとする努力に、正当な根拠を与えるようになる(→「再帰的近代化」)。
■リスク社会論に関する議論(抄)
-リスク社会論(ウルリヒ・ベック, Ulrich Beck, 1944-)
Risikogesellschaft - Auf dem Weg in eine andere Moderne (1986) (Risk Society)
-近代社会論(二クラス・ルーマン,Niklas Luhmann, 1928-1998)
Niklas Luhmann, 1996: Modern Society Shocked by its Risks (= University of Hong Kong, Department of Sociology Occasional Papers 17), Hong Kong(ネット上で入手できます)
-プロスペクト理論[不確実状況下における意思決定論*](ダ ニエル・カーネマン, Daniel Kahneman, 1934-)
(経済の)効用(=満足度)を決めるのは変化であり、状態(=富の絶対量)ではない[効用関数から価値関数へ]
ヒューリスティクス(heuristic)
=発見的方法のことであり「必ず正しい答えを導けるわけではないが、ある程度のレベルで正解に近い解を得ることが出来る方法」(日本語ウィキペディア)
■余滴
プロスペクト理論に従うと、人は富(=得られる資源)の絶対量よりも変化から「効用」を得る。また、その未来のリスク計算は、得られる効用
(=利得)よりも失う効用(=損失)のほうを重くみる傾向がある。ただし、これがすべてのギャンブラーとしての人間に適応可能か、あるいは人類に普遍的に
該当するのかは、カーネマンやトベルスキー[ http://bit.ly/19BdxG7
]がノーベル経済学賞を受賞しているにも、関わらず(君の理解にとって)保証の限りではない
【リンク】
【文献】
効用関数(最初=左・真ん中)縦軸: 効用、横軸:収益率[限界効用逓減: law of diminishing returns]とD・カーネマンの価値関数(最後=右)
【グラフの出典】
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 2011-2019