授業のチェックポイント IV
(暴力について考える:第3部)
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最近の授業:暴力について考える(対話術F)2019
【教科書】
歴史的記憶の回復プロジェクト編、2000『グアテマラ 虐殺の記憶』飯島みどり他訳、東 京:岩波書店
第 III 部 二度と再び
第1章 暴力に立ち向かう
第2章 尊厳を取り戻す女性たち
第3章 二度と再び繰り返さないために
勧告——社会再建への道
第 III 部 二度と再び
第1章 暴力に立ち向かう
1. マヤ先住民族のあいだにある文化的な前提は、さまざまなかたちで暴力に立ち向かう人びとの姿勢に影響を与えている。 テクスト では6点(pp.180-1)あげられているが、マヤ先住民について書かれた民族誌などから、それらのよ詳細な具体例をあげ、それらの類似点や相違点につ いて検討しなさい。
2. 太刀打ちできない暴力を前にして、息を潜め苦渋に耐えたり、あるいは居住地より避難し逃げ延びることは、決して卑怯 なことで はない。それは、どのような点において正当化されるのか、考察しなさい(pp.181-)
3. 避難民について、以下にのべるカテゴリーについて簡単な定義を説明しなさい。また、グアテマラ内戦時の報告されてい る人数を テクストよりあげ、確認しなさい。
・国内避難民
・亡命者
・合法難民
・非合法難民
・抵抗の共同体への参加者
4. 長く住み慣れた土地を逃げることには、どのようなジレンマ——とくに政治的危険性について——を住民に与えることに なった か?(p.186)
5. 難民化にともなうアイデンティティの喪失体験と新たなアイデンティティ体験は、どのように説明することができるの か? また それらの経験は共存可能か、あるいは不可能なのか、検討しなさい(p.190)。
6. 行政当局の対応とは関係なしに、難民を受け入れたメキシコ人たちがいる(pp.191-2)。なぜ、そのようなこと ができた のか? その理由を考えてみなさい。
7. 難民の状態が長期化することにともなう問題点(p.192)を指摘しなさい。
8. なぜ「抵抗の共同体」は、イシュカンやイシル地方といった山中の隔絶したところに築かれたのか?(p.194)
9. 「抵抗の共同体」に参加した人たちの人口はどれくらいだったか?(p.195)
10. ゲリラと抵抗の共同体との関係はどのようなものだったか? 重要証言14(p.195)と解説(p.196)を参 照にしな がら分析しなさい。
11. 1986年にグアテマラに文民政権ができてからも、帰還難民は軍隊や市民パトロールによってさまざまな人権弾圧を 受けた。 当時の軍隊は、帰還者に対して、どのような見解をとっていたからなのか?(p.198)
12. 暴力による破壊から人間性を回復してゆく過程の中で、家族関係の修復・回復・創造は大きな意味をもつと指摘されて いる (pp.198-9)。それはなぜなのか?
13. 人びとはなぜ暴力による説明を、個人的あるいは限られた社会集団関係から説明し、その次に「妬み」、さらには政治 経済的な 一般的理由といったふうに、説明を展開していくのか?(pp.199-)
14. 暴力の生起の説明において、テクストの著者は「『なぜ暴力がおこったのかわからない』という答は完全に論理的な結 論だと言 える」(p.200)と言っているが、その理由を具体的に説明しなさい。
15. ゲリラは共同体の外部からやってきた、という説明は、このテキストの著者によると「抑圧された記憶」つまり自らの 身を守る ためにひねり出された歪んだ説明であるとされている(pp.201-2)。それが論証されるためには、どのような事実が明らかにされなければならないか、 考えなさい。
16. 「集団的記憶を構築する過程」においては「すべての人間は、生起した事柄に意味づけをするとき、自分が持っている 文化概念 をあてはめ」ようとする(共にp.202)。そうだとしたら、真の歴史的記憶というものは決して一枚岩的な性格をもたせることはできなくなる。多様性を認 めることと、歴史の記憶をねじ曲げようとすること(pp.177-8)をどのように関連づけるこ とができるのか、考えなさい。(赤字部分は改訂しました:2001.09.06)
第2章 尊厳を取り戻す女性たち
17. 生命を弄(もてあそ)ぶという以外に表現のしようのない、とんでもない暴力行為(pp.203-205)は、「民 間人に対 する軍の残虐性をはっきりと表」すとこのテクストの著者は説明するが、その残虐性は、どのようなかたちで軍は可能にさせたのか? 軍事組織がもつ性格や機 能を組織的、集団的、個人的という視座から分析しなさい。[→註%]
18. 女性に対する性暴力を考える際に、二次的被害を考慮することは重要である。二次的被害とはなにか?(p.206; p.211)
19. 女性に対する性暴力事象において、加害者もまた精神的被害をうけることもある。重要証言027(p.207)を参 照にし て、検討しなさい。
20. 性暴力をおこなった軍隊=男性は、そのあと虐殺や放火など徹底的な破壊行為を連鎖的におこなっている。これらの行 為の間に は、何か関連があるのだろうか? 考察しなさい(pp.206-8、死体への陵辱はpp.209)。[→註&]
21. 重要証言027(→課題19)に、強姦した後、加害者である上官が部下に「子どもの死を見て哀しまないで済むよう に女を先 に殺せと命じた」という(p.209)。彼の判断は、倫理的であると言えるだろうか? 考察しなさい。
22.「女性と子どもを皆殺しにする戦略」(p.210)が軍による軍事行為として正式に盛り込まれていたということを証 明される ためには、どのような証拠が必要か?
23. 女性への暴力が、軍事行為の最中に暴発したものであり、軍による組織的犯行でないことを証明するためにはどのよう な証拠が 必要になるのか?
24. 女性に対する暴力に、女性たちはいったいどのような「抵抗」を実践したのか?(pp212-)
25. 大人が逃げ延びるために子どもを犠牲にする行為と、息絶えるまで子どもの面倒をみる行為は、矛盾する行為のように 思える が、はたしてそうだろうか? 考察しなさい。
26. 行方失踪者の捜索する人たちになぜ女性が多いのか? 彼女たちの組織的運動には、内戦終結に向けてどのような社会 的意味が あったのか? (チリやアルゼンチンのケースも参照してください)
27. 女性の母性や優しさを全面に出し、その価値を称揚する運動のやり方は「本質主義」と呼ばれ、女性のさまざまなジェ ンダー・ セクシュアリティの多様性を認めないという前提にたつと批判されることがある。グアテマラの失踪者支援組織の女性は、そのような発話(pp.216-7) をおこなっているが、これもやはり本質主義として批判されなければならないのだろうか? それともこの本質主義批判を掛け値にしても、問題提起のほうが優 先されるべきなのか? 考察しなさい。
第3章 二度と再び繰り返さないために
28. 死んだものたちが(現実には)二度とよみがえれないように、苦しみを和らげるために、時間を逆に戻すことはできな い。苦痛 の修復は、そのような時間を逆にすることができない現実に直面することからはじまる(証言0569、p.220)。彼女が言う「すべてを明らかにしなけれ ばならない」という言葉の意味を考えてください。
29. 被害者と生き残った人たちは、「この苦しみを和らげるために」内戦終結後のグアテマラ社会に、どのような諸要求を つきつけ ているのか、まとめなさい。
30. 「人権をまもる」という抽象的な表現を、具体的な実践の課題というかたちで翻訳しなおしてください(pp.220 - 222)。
31. 「真理を明らかにする」という抽象的な表現を、具体的な実践の課題で翻訳し直してください。(pp.223-4)
32. 正義の要求(pp.224-227)には、具体的にはどのようなものがあるか、あげなさい(pp.224- 228)。
33. 平和をもたらすための諸要求は、どのようなかたちで人びとに表現されているのか(pp.228-231)整理をお こない、 それが実現されるためにはどのようなことが行政当局によってなさればならないのか、また人びとはどのようなかたちで、その行政当局の遂行を監視・支援しな ければならないか。
34. 国際社会は、グアテマラの平和の実現と維持のために、どのような責務があるのか? また、そのような責務は内政干 渉である という見解に対して、どのように答えるのか?(あるいは答えられないのか?)について検討しなさい。
34. カトリック教徒ではない学生のみへの質問です。「教会の役割」(p.233)について、無神論者・非カトリック・ 異教徒か ら、どのような立場をとるのか、自分の現時点での見解を明らかにしなさい。
35. 補償がなされても死んだ人は生き返らない。にもかかわらず補償をおこなう理由はなぜか? このテキストの著者は、 それに対 してどのように考えているのか?(p.234)
36. 死者の尊厳を復活させるとは、どういうことなのか? なぜ死者の尊厳を復活させる必要があるのか?/ないのか? 説明せ よ。
勧告——社会再建への道
37. この報告書の著者があげているグアテマラの社会再建について検討しなさい。その前に、以下の用語が、内戦時の暴力 事象とど のように関係するのか、定義を含めてからその関係を明らかにしてから、議論をおこなうこと。
・補償
・物理的回復措置
・補償措置
・再適応措置(p.244)
・心のケア
・集団的記憶
・記憶の還元
・教育カリキュラム
・歴史教科書
・失踪者
・秘密墓地/遺体発掘
・「象徴的性格をもつ一般的補償」
・マヤの伝統的聖地
・記念行事/儀式
・集団的アイデンティティ
・社会アクター
・正義
・人権侵害
・社会的制裁
・司法措置と慣習法
・土地問題
・軍改革
・徴兵/良心的徴兵拒否
・国際社会との関係修復
註
註%:中国大陸における日本軍の残虐行為を「日本的集団主義」によるものであるという説明 がある (野田 1998)。もしそのような文化的概念あるいは特殊事情を持ち出すならば、ベトナムにおける南ベトナム軍や米兵あるいはグアテマラにおける残虐な軍事行為 の驚くべく類似性について説明できなくなる。グアテマラのケースを検討する際にも、個別特殊性と一般的普遍性という両面から考察することが重要である。 [もとにもどる]
註&:軍隊が戦闘を終えた後も、その犠牲者の死体を陵辱する行為は広くみられる。なぜ、そ のような ことをするのか?(→ベトナム戦争におけるベトコン兵士の肝臓の生食い、ニカラグアの内戦)[もとにもどる]
応用問題
難民はどのように認定されるのか、法的人権の観点から調べなさい。
難民キャンプでは、彼らは一定の人道的保護を受けるが、同時に完全な自由が保証されるされるわけではない。その実態ならびに、 自由を制 限する理由について考えなさい。
【文献】テキスト
歴史的記憶の回復プロジェクト編、2000『グアテマラ 虐殺の記憶』飯島みどり他訳、東京:岩波書店。
【文献】参照すべきもの/したもの
今村仁司、2000『ベンヤミン「歴史哲学テーゼ」精読』東京:岩波書店
狐崎知己、2001「ジェノサイドから多民族国家の構築へ:グアテマラ和平協定と真相究明活動に関する政治経済学的考察」太田 好信編 『グローバル化によるグアテマラ国家ナショナリズムと汎マヤ・エスニシティの形成』(文部科学省科学研究費補助金基盤研究A2研究成果報告書)ページ指定 なし、42pp.+図表3pp.、福岡市:2001年
野田正彰、1998『戦争と罪責』東京:岩波書店