仮面研究への道
La voie des masques
●ジャン-ルイ・ベドゥアン『仮面の民俗学』斎藤正二訳、文庫ク・セ・ジュ、白水社.
第1部 仮面の心理学
1.1 仮面の起源とその伝播
1.2 仮面の本質と実際:そのさまざまな形式とそれから派生したもの
1.3 無意識:すなわち、仮面の彫刻師
1.4 本質的存在と外見的存在
1.5 仮面の秘密:見てくれどおりのものになり切ること
第2部 仮面のテクニック
2.1 アフリカ黒人の仮面
2.2 エスキモー、およびアメリカインディアン諸種族における仮面の伝承とテクニック
2.3 メラネシアの仮面
第3部 仮面とその変貌
3.1 仮面の機能
3.1.1 防御手段としての仮面
3.1.2 超自然的な存在:神、神話上の英雄、祖先、精霊の化現としての仮面
3.1.3 識別のための標識としての仮面
3.1.4 支配の手段としての仮面
3.1.5 仮面から派生したもの
3.2 仮面の芸術
3.2.1 資料
3.2.2 変装から仮面へ
3.2.3 仮面芸術の2つの要素
3.2.4 仮面の眼差し
3.2.5 エスキモーの仮面の諸性格
3.2.6 仮面と恐怖
3.2.7 仮面の象徴的原理
3.3 仮面の宗教的側面
3.3.1 カチナ崇拝
3.3.2 チベットにおける悪魔崇拝
3.3.3 仮面をつけた神々
むすび
●仮面の研究に興味のある学部生Q君への手紙
「仮面の人類学入門」「レヴィ=ストロース・仮面の道・研究ノート」にご訪問くださってありがとうございました。さて、最近、仮面についての関心や問い合わせがありましたので、ちょっと気づいたことを一言二言。
仮面についての研究について、それは民族表象を取り扱うから××学だろうと浅薄に特定のジャ ンルに押し込めてはなりません。仮面についての研究は、人間の文化全体に関わることから、実にこれまで多くの研究ジャンルで検討されてきました。
古くは演劇における仮面や役割(=仮面のメタファー)で古代ギリシャの哲学者たちが「ペルソ ナ」という概念をめぐって議論しています。また、現代の社会学や人類学のご先祖さまとも言うべきマルセル・モースは『社会学と人類学(II)』において仮 面についての直接言及はないもののペルソナの問題について比較民族学的に考察しています。そこではトーテムや生霊などが、ペルソナを考察する上で重要な概 念であるという議論をしています。
畢竟(ひっきょう)、人類学は世界の仮面に関する実証ならびに理論研究については、それこそ 山のような業績があります。この分野では、仮面をめぐって皆さんの興味に応じて、ほとんど無数とも言える研究テーマを選ぶことができます。
私・垂水が大学の学部時代に人類学に憧れた理由の1つがレヴィ=ストロース『仮面の道』新潮 社(1977)でした[本ページのタ イトルは、そのパロディです]。この本は、多数に図録により仮面のさまざな魅力が味わえ、お まけにそれほど長くない彼の理論的論文(他の彼の本にくらべて難しくない)もそれほど苦労しなくて読めます(→「仮面の道・研究ノート」)。
文化表象学にも仮面研究者がやってレクチャーしています。最近では、佐々木重洋さんの『仮面 パフォーマンスの人類学』世界思想社(当然、地域科学図書室にあり!)が非常勤で来られました。国立民族学博物館の吉田憲司さんは現在は博物館人類学で有 名ですが、もともと仮面の秘密結社で呪薬の研究をおこなっていました。民俗学領域では、熊本にも縁の深いクライナー・ヨーゼフさんは、伝播学派の伝統を継 ぐ南西諸島の仮面についての論文もあります。
ポピュラーカルチャーでは、ご存じ仮面ライダーやダースベイダー(変身しますからペルソナ論 の重要なテーマになります)から、ちょっと古いですが少女漫画では美内すずえ『ガラスの仮面』(これはペルソナのメタファー)まで、さまざまな仮面ジャン ルがあります。「ペルソナ(persona)」とは、精神分析家のカール・ユングになる術語で、ギリシャやローマの古典劇に使った仮面のことですが、人間の「外面的側面」をこのように呼びました。しかし、それはユング派の特殊な用語法です。現在では、演劇における「人格」のことをペルソナということが、多いです。
"A persona (plural personae or personas), depending to the context, can refer to either the public image of one's personality, or the social role that one adopts, or a fictional character. The word derives from Latin, where it originally referred to a theatrical mask. On the social web, users develop virtual personas as online identities. In fan fiction and in online stories, the personas may especially reflect the authors' self-insertion." - persona.
このように、仮面研究とは人間研究そのものですから、どうか現在皆さんが関心をもって見てい る1つの仮面(能や狂言あるいは神楽の面でもよい)には、それを分析する広大な地平が広がっていることを知って下さい。
我々が実証で証明できることは、ほんのわずかなことです。しかし、そのような小さな実証研究 を支えているのは、豊かでほとんど無尽蔵と思われる理論の束です。このような理論の面白さに触れずに卒業してゆくのは、本当にもったいない。すくなくとも 仮面を研究テーマに選んだ人は、その面白さにもっとも近いところにいるですから、この面白さを独り占めするのではなく、他の人に伝えるぐらいの度量が必要 です。幸せを独占するのは罪と言うではないですか?
なんたって、我々の人生は短いのですから・・・。
垂水源之介より
地震の神、クウェクウェ仮面、クワクワカワク、ニューヨークアメリカ自然史博物館蔵 |
〈ゾノクワ〉の仮面(43X34CM)。クワクワカワク。1870-1880年頃作成。ヤコブセンコレクション、ベルリン人類学博物館 |
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