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アイヌ遺骨等返還の手続きについて考える

On repatriation of Ainu human remains in 2017-2018

池田光穂

丹菊逸治と池田光穂による個人が特 定されないアイヌ遺骨等の地域返還手続きに関するガイドライン(案)の提唱はこちらです!

文 科省「大学が保管するア イヌ遺骨の返還について」から……

「ア イヌの人々は、日本列島北部周辺、とりわけ北海道に先住し、独自の言語、宗教や文化の独自性を有する先住民族です。/政府では、衆参両院による「アイヌ民 族を先住民族とすることを求める決議」(平成20年6月6日)及び「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」の報告書(平成21年7月29日アイヌ政策 のあり方に関する有識者懇談会決定)等を踏まえ、内閣官房長官が座長を務めるアイヌ政策推進会議の下に、アイヌの人々の意見等を聴いて、アイヌ政策の推進 を図っているところです。/その中で、過去に発掘・収集され、現在大学が保管するアイヌの人々の遺骨及びその副葬品の中には、アイヌの人々の意にかかわら ず収集されたものも含まれていると見られていることから、アイヌの精神文化の尊重という観点から、遺族等への返還が可能なものについては、各大学等におい て返還するとともに、遺族等への返還の目途が立たないものについては、国が主導して、アイヌの人々の心のよりどころとなる象徴空間に集約し、尊厳ある慰霊 が可能となるよう配慮することとしています。/この方針を踏まえ、これらの遺骨等のうち、身元が判明しているもの(特定遺骨)については、各大学において 祭祀継承者への返還を進めることとしており、文部科学省は特定遺骨の返還についてガイドラインや手続の詳細をまとめるとともに、返還に向けた大学の取組に ついて情報を公開しています」http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/ainu/index.htm

★★★【超重要リンク】大学が保管するアイヌ遺骨 の返還について https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/ainu/index.htm

毎 日新聞「アイヌ民族遺骨(7月—引用者):31日に独で返還式 独学術団体と合意」

【ベ ルリン中西啓介】北海道で盗掘されたアイヌ民族の遺骨がドイツで保管されている問題で、日本政府は遺骨を所有する独民間学術団体「ベルリン人類学民族学先 史学協会」(BGAEU)と返還について合意し、7月31日にベルリンの在独日本大使館で遺骨の返還式を行うことを決めた。複数の関係者が明らかにした。 19 世紀後半以降、アイヌ民族の遺骨が人類学などの研究対象として海外に持ち出されたが、外交ルートを通じた返還が実現するのは初めて。/また、日本は 2007年に国連で採択された「先住民族の権利に関する宣言」に賛成しているが、返還は宣言に盛り込まれた「先住民族の遺骨返還への努力」を政府が履行し た最初の例になる。/返還されるのは、1879(明治12)年にドイツ人旅行者ゲオルク・シュレージンガーが札幌のアイヌ墓地から収集した頭骨1体。シュ レージンガーは19世紀の民族学誌で「夜の闇に紛れて入手した」と盗掘による収集だったと認めている。遺骨はBGAEU設立を主導したベルリン大教授のル ドルフ・ウィルヒョウに研究資料として提供されていた。/BGAEUは昨年12月の毎日新聞の取材で、遺骨が「不当な手段」で収集された可能性があること を把握。測定や資料照合の結果、今年1月、「倫理的に許されない手段で収集された」と認め、日本政府と返還協議を行う意向を表明。内閣官房アイヌ総合政策 室が在独日本大使館を通じ返還協議を進めていた。/返還式には、北海道アイヌ協会の加藤忠理事長がアイヌ民族を代表して出席。BGAEUのアレクサン ダー・パショス代表、日本政府の代表者と共に、返還合意文書に署名する予定だ。ドイツ以外の外国にも複数のアイヌ遺骨が散逸しており、今後返還が実現する 場合、今回の政府主催による返還式がひな型になる見通しという。/138年の歳月を 経て「帰国」/【ベルリン中西啓介】北海道から盗み出されドイツへに 渡ったアイヌ民族の遺骨が138年の歳月を経て、「帰国」する。海外からの返還「第1号」となる遺骨を巡っては、日本政府と独収蔵団体の間で数カ月にわた る協議が行われた。返還協議で政府が進めた取り組みは、国内外でのアイヌの地位向上に大きく貢献しそうだ。/独民間学術団体「ベルリン人類学民族学先史学 協会」(BGAEU)が今年1月、返還の意向を表明したことを受け、政府は日本大使館職員をBGAEUに派遣し返還協議に着手する一方、返還後の遺骨の取 り扱いなどについて検討を進めた。/6月の閣議決定で、北海道に完成予定の「アイヌ 文化振興施設」の基本方針の中に、遺族への返還を優先し「直ちに返還で きない遺骨については施設に集約する」と明文化することになった。人権に配慮し、施設で管理する遺骨を研究対象にしないことも記した。/海 外のアイヌ遺骨 を巡っては豪州政府が6月、国内にある3体の返還意向を表明している。ドイツとの返還協議で作られた政治的枠組みや、返還式のあり方は、今後の海外からの 遺骨返還を促進することになる」毎日新聞2017年7月20日 https://mainichi.jp/articles/20170720/k00/00m/030/170000c

産 経新聞、北海道日高地方のアイヌ民族の有志グループ「コタンの会」による返還請求の報道(2017年7月9日)

「北 海道日高地方のアイヌ民族の有志グループ「コタンの会」が、北海道大が保管するアイヌの遺骨計198体の返還を求め、近く札幌地裁に提訴することが8日、 関係者への取材で分かった。北大に対するアイヌ遺骨返還訴訟では、過去最多の遺骨数となる。/関係者によると、返還を求めるのは1930〜70年代に静内 町(現新ひだか町)と浦河町から持ち出され、北大が研究目的で入手した198体。コタンの会は遺骨をもともとあった地域に戻すべきだとし、訴訟を経ずに返 還できないか模索していた。北大が司法手続きを通じた形を望んだため、提訴に方針転換した。/北大は入手したアイヌ遺骨について、頭骨の測定など研究後も 大半を返還していなかった。1000体近くを大学内の納骨堂に保管している。遺骨をめぐっては平成24年以降、アイヌの子孫らが返還を求めて3次にわたり 北大を提訴。順次和解が成立し、一部は地元で再埋葬された」。http://www.sankei.com/affairs/news/170709/afr1707090001-n1.html

北 大開示文書研究会が解 説する2012年9月14日、2014年1月、2014年5月27日の「遺骨返還訴訟について」の解説。

「先 祖の墓地を「発掘」され、遺骨を持ち去られたままになっている浦河町杵臼コタン出身の城野口ユリさん、小川隆吉さんら計3人の遺族は2012年9月14 日、北海道大学に遺骨の返還と1人当たり300万円の慰謝料支払いを求めて、札幌地方裁判所に提訴しました。/また2014年1月、畠山敏さんがモベツコ タン(北海道紋別市)由来の遺骨4体の返還などを求めて、北海道大学を提訴しました。/さらに2014年5月27日、浦幌アイヌ協会(差間正樹会長、17 人)が遺骨64体の返還などを求めて、北海道大学を提訴しました。/これらの訴訟は併合され、同じ法廷で審理が行なわれます。/2016年3月25日、3 地域の訴訟のうち浦河から持ち去られた遺骨について和解が成立しました。/2016年11月25日、3地域の訴訟のうち紋別市内から持ち去られた遺骨につ いて和解が成立しました。/2017年3月22日、3地域の訴訟のうち、浦幌アイヌ協会と北海道大学との間で和解が成立し、遺骨と副葬品の返還が決まりま した。・北大開示文書所研究会は、原告のみなさんを支援しています」http://hmjk.world.coocan.jp/trial/trial.html

平 田剛士氏による「先祖の遺骨返還めぐり政府がアイヌの対立引き起こす」週間金曜日:2017年8月3日

「人 種差別主義の解剖学者らが墓を暴くなどして集めた大量のアイヌ遺骨を、全国の大学・博物館などが長らく放置している問題をめぐって、北海道内で動きが激し い。/旭川アイヌ協議会(川村兼一会長)は7月13日、北海道大学が保管する旭川市内出土の遺骨2体の返還と損害賠償を求めて、旭川地裁に提訴した。また 日高地方のアイヌたちがつくるコタンの会(清水裕二代表)は、新ひだか町内の旧墓地から持ち去られた遺骨約200人分の返還を求めて近く同大学を提訴す る、と明らかにした。/これまでの同様の訴訟では、和解協議を経て道内3地域のアイヌコタン(地域グループ)に計約100体の返還が決定。昨年7月の浦河 町に続き、今年は浦幌町と紋別市で再埋葬・納骨が実現する。/一方政府は、全国の大学や博物館に残る計1676体と個体分離不能な382箱分のアイヌ遺骨 を、東京五輪に合わせて白老町に新設する国立施設に再集約した後、整理し直して各地域に戻す、という手順を決めた。ただし期限は示されず、一刻も早い先祖 の帰還を望む各コタンにすれば、訴訟が最善手であることは間違いない。/複雑なのは、有力なアイヌ団体である公益社団法人北海道アイヌ協会(札幌)が各コ タンの提訴に否定的なこと。内閣府アイヌ政策推進会議メンバーを務める阿部ユポ・同協会副理事長は6月、平取町内で開かれた講演会で政府手順を肯定したう え、「(会議を通して国の謝罪・賠償を求めている最中なのに)裁判をやられると我々が介入できない」と原告らを批判。同調する新ひだかアイヌ協会が、コタ ンの会に提訴中止を求める騒ぎに発展している。/アイヌ同士をこんなふうに対立させてしまう日本の先住民政策は、「先住民族の権利を尊重し促進する緊急の 必要性」をうたう国連先住民族権利宣言(2007年)とは依然、正反対の極にある。/(平田剛士・フリーランス記者、7月21日号)」http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2017/08/03/antena-44/

Naohiro Nakamura, Cultural affiliation is not enough: the repatriation of Ainu human remains. Polar Record, 53(2):220-224 のアブストラクトより

Abstrac: "The challenges faced by indigenous peoples in repatriation negotiations vary across the globe. In 2012, three Ainu individuals launched a legal case against Hokkaido University, demanding the return of the human remains of nine individuals and a formal apology for having conducted intentional excavations of Ainu graveyards, stolen the remains and infringed upon their rights to perform ceremonies of worship. This action marked the first of such legal cases in Japan. The Ainu experienced both legal and ethical challenges during negotiations with the university; for example, while the claimants applied the Ainu concept kotan as a legal argument for collective ownership of the remains, Hokkaido University claimed the lack of assumption of rights relating to worship under the Civil Code of Japan. There has been significant progress recently on repatriation, mainly due to the Native American Graves Protection and Repatriation Act in the US, and several meaningful recommendations have been made to ease the repatriation process. However, such recommendations are often case specific and variations in the experiences of indigenous peoples from country to country have not been widely documented. This article discusses the challenges faced by the Ainu in repatriation negotiations in Japan, with a particular focus on the difficulties of applying indigenous customs and philosophies within legal frameworks.” DOI: https://doi.org/10.1017/S0032247416000905

「先 住民族が送還交渉で直面する課題は、世界各地でさまざまである。2012年、アイヌの3人が北海道大学を相手取り、アイヌの墓地を意図的に発掘し、遺骨を 盗み、礼拝の権利を侵害したとして、9人の遺骨の返還と謝罪を求める裁判を起こした。このような訴訟は、日本では初めてのことであった。アイヌの人々は、 アイヌの概念であるコタンを用いて遺骨の集団所有権を主張したのに対し、北海道大学は民法上の礼拝に関する権利の不存在を主張するなど、大学側との交渉に おいて法的・倫理的な問題を経験した。最近、米国におけるアメリカ先住民の墓の保護と送還に関する法律を中心に、送還に関して大きな進展があり、送還プロ セスを容易にするためのいくつかの有意義な勧告がなされている。しかし、このような勧告は多くの場合ケースバイケースであり、国によって先住民の体験に違 いがあることはあまり知られていない。本稿では、日本におけるアイヌの送還交渉で直面した課題について、特に法的枠組みの中で先住民族の習慣や思想を適用 することの難しさに焦点を当てながら論じる」

Cultural affiliation" means that there is a relationship of shared group identity which can be reasonably traced historically or prehistorically between a present day Indian tribe or Indigenous organization and an identifiable earlier group. - modified from Determining Cultural Affiliation Within NAGPRA

NAGPRA, Native American Graves Protection and Repatriation Actのタイトルの試訳は、「ネイ ティブ・アメリカン墳墓保護と返還に関する法律」。具体的には、「ネイティブ・アメリカン墳墓保護と遺骨お よび副葬品の返還に関する法律」であろう。ウィキペディアの次の資料を参照のこと:Native American Graves Protection and Repatriation Act, NAGPRA, 1990, by Wiki

National NAGPRA(ホームページ)

Cultural Affiliation とは、文化的帰属と 訳することができ、近代法(ひいてはローマ法典)を根拠にした、個人あるいは集団(法人)が所有(権)を媒介にした関係性を主張するもので、この場合は、 先住民の〜族ないしはその末裔は、その民族の文化的事物(抽象的表象を含む)を帰属していると主張する権利である。もし、そのような文化的事物が、大学・ 研究機関・博物館・団体あるいは個人が、「所有」している場合、そのような文化的事物の帰属を確定しなければならず、その「所有」の来歴に、歴史的あるい は社会通念的にみて違法ないしは不適切なものがあれば、文化的帰属を主張している個人あるいは集団(法人)は、その「所有者」に対して、返還を求めること ができる。上掲のNAGPRAは、そのことをネイティブ・アメリカンに対して確認した法律のことである。

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リンク(ネイティブ・アメリカン)

リ ンク

リ ンク(研究=日本学術振興会)

リ ンク(アイヌ遺骨の返還)

リ ンク(埋葬等)

リ ンク(本サイト内)

リ ンク(学術理論編)

文 献

そ の他の情報


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