じめによ んでください

説明モデル

Explanatory models, by Arthur Kleinman, 1980.


解説:池田光穂

A・クラインマンが『文化の文脈における患者と治療者』(1980) の中で提唱した、人々が病気になった時に、どのように考え、どのように対処するのかついて、人々が考え行動する病気対処行動の形式的描写のことを、説明モ デルという。この説明モデルは医療者側(=専門家モデル、ないしは専門家型)にも患者とその家族の側(=民俗モデル、フォークモデル)にも病気を説明する 際にいくつかの共通点がある。例えば、

そ の要素の結びつきや関係についての論理的むすびつきについての説明を明らかにする必要があると考えられる。

説 明モデルでは、病気の発症とそれに対する行動は、一定のパターンをもち、多様性はその病気の経過や個人や集団の個別性によるものであると考え られる。

Kleinman's Explanatory Model
クラインマンの説明モデル
Psychiatrist and anthropologist Arthur Kleinman suggests that care providers ask their clients questions to gain insight into the client’s worldview, culture, social context, and spirituality. Exploring what is most important to clients can help build a trusting relationship between clients and care providers.
精神科医であり人類学者でもあるアーサー・クラインマンは、医療従事者 がクライアントに質問を投げかけることで、その世界観、文化、社会的背景、そして精神性に対する理解を深めるべきだと提言している。クライアントにとって 最も重要なものを探求することは、クライアントと医療従事者の間に信頼関係を築く助けとなる。

Kleinman's theory of explanatory models is a set of questions care providers can ask during an assessment which provides insight into what is most important for the client in terms of their health, illness, and care.  Try blending these questions into your discussion in an informal manner.
クラインマンの説明モデル理論とは、医療従事者が評価中に尋ねられる一 連の質問であり、クライアントにとって健康・病気・ケアにおいて何が最も重要かについての洞察を提供するものである。これらの質問を、自然な形で会話に組 み込んでみるといい。
What do you call your problem? What name do you give it?
What do you think has caused it?
Why did it start when it did?
What does your sickness do to your body? How does it work inside you?
How severe is it? Will it get better soon or take longer?
What do you fear most about your sickness?
What are the chief problems your sickness has caused for you (personally, family, work, etc.)?
What kind of treatment do you think you should receive? What are the most important results you hope to receive from the treatment?
自分の問題を何と呼んでいるのか?どんな名前をつけているのか?
何が原因だと思うのか?
なぜその時期に始まったのか?
その病気は体にどんな影響を与えるのか?体内でどう作用するのか?
どの程度深刻なのか?すぐに良くなるのか、それとも時間がかかるのか?
その病気について最も恐れていることは何か?
その病気によって生じた主な問題は何なのか(個人的、家族、仕事など)?
どんな治療を受けるべきだと思うか?治療から得られる最も重要な結果は何だと期待しているか?
https://www.culturallyconnected.ca/practice/kleinmans-explanatory-model



  • 以下における「病気の民族誌」記述において、中米の 農民の民俗的病い(=消化不良を特徴とする症状)であるエンパチョについて、池田光穂『実践の医療人 類学』(2001)から引いて、医療モデルが具体的にどのように解説されるかみてみよう。

     ここからはより具体的に一つの事例を追求しながら、この下痢をめぐる民俗的病因論 や治療のプロセスについて考えてみたい。

     エンパチョは便秘、下痢、食欲不振などの広範な消化管症状を伴う「民俗 的な病い」であることはすでに触れた。しかしながら、エンパチョにかかることは、必ずしも下痢になることを意味しない。以下に述べる事例は、ドローレスの 青年アントニオ(仮名)が語ってくれた下痢を伴わないエンパチョの病像の経過である。なお事例は一九八六年二月一〇日より一六日までの一週間の出来事であ る。

     二月一〇日「昼食を食べたとき、調子良く食べることができなかった」。

     二月一一日「朝食も、昼食もたべなかった。夕食だけとった」。

     二月一二日「朝早く(七時頃)、オルガという女性に食用油脂を使って マッサージを(一五分ほど)してもらった。しかし(腹の調子は)よくならなかった。少しは楽になったけど。シグアパテ(薬草名)のオルチャタ(素材をペー スト状にし水と粗糖を加えた飲料)とサル・アンドリュー(水に溶かす発泡清涼剤:商標)を飲んだ。その後で、スルファビスムート(消化剤:商標)を2包飲 んだ。その後で、朝食を取り、昼食と夕食は、ふつうに食べた」。

     二月一三日「前の夜は、ずっと[腹の]痛みがあって調子が悪かった。だ から、オルガのところに戻った[=同じマッサージを受けた]。いつも痛み、腹の痛みがする。一〇日に、一日中、空腹を辛抱して夕食をたくさん食べたのがエ ンパチョの原因だ」。

      二月一四日「痛みで一日中横になっていた」。

       二月一五日 彼はサンタ・ロサ(都市)に出て、私立診療所 の医師のところに行った。そこで肩の痛みを彼に訴えたという(前日の痛みが腹部のものか、肩のものか、あるいはその両方かは正確には不明である)。医師に は「肺に障害を受けている」と言われた。しかしエンパチョのことは、医師には聞かなかった。「医師はエンパチョのことは何も知らない」からである。またエ ンパチョの痛みもその時には、消えてしまったという。

     人がエンパチョになったとき、それはどのように判断されるのであろう か。エンパチョの診断は一連の腹部の異常、すなわち腹痛や下痢などから判断される。しかしすべての下痢や腹痛がエンパチョに結びつくわけではない。すでに 述べたように多様な下痢を構成する原因のひとつにすぎない。では腹痛(dolor de esto'mago)はどうだろう。別のインフォーマントは腹痛を原因に応じて次の六つの原因に分けて説明する。(一)アイレ(aire)——差し込むよ うな「痛み/疝痛」、(二)ロンブリセス(回虫)、(三)パスモ——(第八章参照)、(四)消化不良(indigestio'n)、(五)エンパチョ、 (六)「赤痢」である。このように先にあげた出産介助者のような専門の治療者のみならず、ふつうの農民においても、下痢や腹痛についてはさまざまな角度か ら、独自の解釈を加えて説明することができる。

     例えば、痛みを意味するアイレである。スペイン語における空気や雰囲気 という意味ではなく、身体の特定部分の疝痛を表現する言葉である。この場合は、「アイレが身体に入った(Se metio' aire)」という表現や、「アイレがお腹に邪魔をしている(Aire esta' molestando [el] esto'mago)」と表現される。これらが結果的にどのような感覚を引き起こすのかとの質問に対して、「腹が痛くなる」、「腹に(ボールのような)塊 を感じる(Se siente una pelota en esto'mago)」あるいは「食欲がない」という返答がある。この種のアイレによる腹痛には、下剤が処されることがあり、これは後述するエンパチョの 処方に類似している。

     また「赤痢」の痛みは、腹痛のなかでも独自の痛みをもち、病気のカテゴ リーとしてきわめて重症だとみなされている。このことは、ホンジュラスの別地域で調査したケンダルらの報告と一致する(Kendall. et al. 1984)。



    Otto Dix (1891-1969)
    was a German painter and printmaker, noted for his ruthless and harshly realistic depictions of German society during the Weimar Republic and the brutality of war.
    Along with George Grosz and Max Beckmann, he is widely considered one of the most important artists of the Neue Sachlichkeit.
    "Dr. Mayer-Hermann", Berlin 1926
    Oil and tempera on wood
    58 3/4 x 39" (149.2 x 99.1 cm)


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    医 療人類学辞典

    Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099

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