A Bibliographical Review: Harm Reduction Strategies for Amphetamine
and Other Non-Opioid drug Use
1.【はじめに】——4つの命題を検討する
1.1.世界薬物報告(2017)によると、2009年以来、アンフェタミン系興奮剤(ATS, amphetamine-type stimulant)の、世界での押収量が急増している。このような状況の中、注射器を用いてヘロイン等を使用する薬物使用者への対策として発展してきた ハーム・リダクションを、アンフェタミン系興奮剤や、新興の危険ドラッグ( NPS , novel psychoactive substance )に向けた対策に援用する動きがある。(画像は拡大します)
1.2.薬物対策は、国情や時代に応じて、多様な形態を採りうる。諸外国では、ハーム・リダクション・アプローチをもちいて、覚せい剤等の使用 に対してどのような対策を行なっているのであろうか。
1.3.そして、それらは日本における薬物使用の問題に応用しうるであろうか。
1.4.また逆に、日本における、覚せい剤の問題に関連した経験の中から、ハーム・リダクションを展開しようとしている国々へ、助言・貢献でき ることがないであろうか。
《ハームリダクションの考え方》 ・そのサービスの利用者になるのに、物質(薬物やアルコールなど)の使用や害のある行動をただちに、禁止することが求められない ・ハーム・リダクションと禁止主義的な考え方は、二者択一的なものでは なく、連続的・相互補完的なものである。 ・ハーム・リダクションは、医療とソーシャル・ケアの両方の領域で展開 されている ・利用者にとって「しきいが低い」ことが必須。指導的・管理的要素は必 要最小限に。利用者の生き方を決めつけたり非難するような雰囲気を一掃することが大事。 ・ハーム・リダクションはケア・オプションを増やすための考え |
2.【覚せい剤等による危害(ハーム)の同定】
2.1.覚せい剤等の使用によって引き起こされるさまざまな健康被害や、社会的影響については、比較的多くの報告がなされている。先行する疫学 的研究を総括し、Radfar SR & Rawson RA(2014)は、ハーム・リダクション・アプローチで対処すべき問題を、覚せい剤等使用が「直接的な医学的害」「間接的な医学的害」「間接的な社会的 損害」の3つに分類した。
2.2.Grund J-P他(2017)は、ヨーロッパのドラッグユーザーを調査対象とした医学文献を収集し、同じく、「血液由来のウイルス感染」「性感染症やその他のバク テリア感染」「神経医学的問題」「循環器系問題」「呼吸器系問題」「過剰摂取」「精神医学的問題」「妊娠と子育て」の8領域を得ている。
(サー
ビスユーザーの心のつぶやき)——連続体(スペクトラム/コンティニュム) ●やめたい←→●もう使いたくない←→●使 わない生活にもどりたい←→●や めた方がいいに決まってる←→●も しかしたらやめられるかも←→●や める決心がつかない←→●や められるならやめたい←→●自 分を変えたい←→●や められるわけない←→●ま だやめない←→●や めたくない←→●や める気はない |
ドロップ・イン
drop-in とは?:特定の条件に当てはまる人が利用することのできる、気軽な立ち寄り所。友だちづくりや休憩、自分の生活に役立つ情報の収集、ス
タッフへの相談などができる。 |
3.【危害(ハーム)を引き起こすマイクロ・リスク・エンヴァイロンメント】
3.1.Pinkham S & Stone K(2015)は、上のような、覚せい剤使用による健康被害・社会的被害についての諸研究に基づき、ハーム・リダクションを展開すべき「対処領域」を5つ 設定し、そのそれぞれについて、「害につながる具体的行動」を特定した(下表)。さらに、それらの行動を修正し危害を少なくするために「とりうるハーム・ リダクション戦略」を提案した。Pinkham & Stoneの行ったことは、基本的に、個人や対面的対人レベルで修正可能な健康リスクの除去、つまり、行動変化や保健行動の採用による、マイクロ・リス ク・エンヴァイロンメント(micro risk environment)の修正である。
4.【覚せい剤等ユーザーへのサービスの届け方】
4.1.Pinkham & Stone(2015)が列挙した個々のハーム・リダクション戦略は、次のようなプログラムの中で、具体化されている。
4.2.まず、一つには、注射器交換プログラム、薬物使用ルーム、ドロップイン等、ヘロイン使用者向けの既存スキームを利用/スキームに同乗し て、覚せい剤等使用者への展開するタイプがある。これらのサービスの中で、覚せい剤等を使用している人向けの情報提供や必要な器具を配布する。
4.3.オランダでは、アウトリーチ・バンに看護師が同乗し、覚せい剤使用者のうち希望者に対面で使用量コントロールのための認知行動療法を行 うというプログラムがある。ドラッグユーザーに向けた出前健康相談プログラムの拡張版である。
4.4.薬物のヘビー・ユーザー、ポリドラッグ・ユーザー、生活困窮者・生活再建ニーズのある人、セックスワーカーやHIV感染の問題を持つな どをもつ人などが活用しやすいよう、各種の相談資源との連携をとり、ワンストップの統合的アプローチを展開するのが望ましいとされる。
4.5.現在、東南アジア・東アジア(主として中国)での覚せい剤使用が拡大しているが、この地域での対策として、覚せい剤使用者に向けた統合 的ハーム・リダクション・プログラムの展開が、国際保健の専門家より推奨されている。刑務所内での強制的治療に代わるコミュニティ・ベースの介入としての 展開である。
ケ
ム・セックスchemical sex
とは?:薬物の影響下で行う性的行為のこと。ヨーロッパのゲイ・コミュニティから広がった用語。安全な性行為のことを忘れてしまいやすいことや、長時間の
激しい性行為によるHIVやそのほかの感染症のリスクを押し上げる。 |
5.【 Club Health(クラブ・ヘルス) 】
5.1.もう一つのタイプは、クラブ・シーンや野外音楽フェスティバルへアウトリーチして情報提供や必要な物品を届けるという内容である。 ヨーロッパでさかんな取り組みで、Club Health(クラブ・ヘルス)等の呼び名がある。
5.2.若者、ドラッグ使用が娯楽的使用にとどまっている人など、薬物使用歴の短い若年層に働きかけをすることができる。
ヨーロッパやカナダの経験(ハームリダクションを導入後の変化や意義) ・医療につながるまで、平均6年。その間にドラッグユーザーは周縁化さ れていき、ヘルスケアシステムとの接触がほとんどなくなってしまう(スイス)。 ・ハーム・リダクションによって援助の場に現れる薬物使用者の数が増え た。その結果、ドラッグ・シーンから抜け出るための医療、ケア・サポートのニーズが高まった。 |
【謝辞】本報告は、以下の研究助成金による研究成果に基づく。日本学術振興会科学研究費補助金「ハームリダクション時代の依存症ケア:日蘭の文
化的差異を
ふまえた国際比較研究」
(課題番号15K13084,2015-2017年度),「個人・行動・環境・健康リスクをコア概念とした薬物・アルコール依存症予防教育の画策」(課題
番号21500654 ,2009-2011年度), 「アルコール・薬物乱用防止教育とエイズ教育統合の試み」(課題番号19500580
,2009-2010年度)。
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クレジット:平成29(2017)年度 アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会・第39回 日本アルコール関連問題学会,2017年9月8 日(金)・9日(土) 於:パシフィコ横浜会議センター(神奈川県)P5-20
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