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フィールドワークにおける知識と全体性

Knowledge and totality in fieldwork

Mitzub'ixi Qu'q Ch'ij

このベージでは、フィールドワークにおける知識と全 体性を渡邊欣雄『沖縄の社会組織と世界観』新泉社、1985年を参照にして考えてみよう。

(沖縄への)「回数を重ね滞在日数をのば すうちに、当初の沖縄文化研究 の予想は、まったく外れたものであることがしだい しだいに明確になりはじめていった。予想をくつがえしたそのおもな原因は、この十数年間における人類学理論 の変化にもよるが、新しい理論による沖縄文化の新たな発見よりも、沖縄文化の急激な変化と沖縄文化を成立さ せている沖縄文化地域の人びとの知識の大幅な変化に由来することがきわめて大きいのである。五度にわたり沖 縄最西端の与那国島を訪れ、そこで毎年おなじ話者におなじような質問をしたとき、前年とはちがった答えがか えってきたという経験は、沖縄文化研究に対する筆者の見通しをくつがえす不吉な前兆であった。それは、われ われ調査者が以前とはちがったコンテクストで質問をしたり、ちがった態度で話者に接したりした結果だ、と簡 単に結論づけられるようなちがいではなかった。(p.498)
・自分(=社会人類学者)が想定していた ようなイメージが、いつまでも相手の社会から得られるとは限らない。
・その要因は、議論を支えている「理論 の変化」にあるが、それは主要因ではない。
・主要因は、その社会の変化の速さである→「沖縄文化の急激な変化と沖縄文化を成立さ せている沖縄文化地域の人びとの知識の大幅な変化に由来する」
・文化がスタティックなものであると信じるとこれはまさに「不吉な前兆」である。アメリカ合衆国を中心とした人類学領域ではこの本が出版された翌年の1986年にJames Clifford and George E. Marcus eds., Writing culture : the poetics and politics of ethnography.が出版されている。
沖縄文化地域のなかにおける文化の地域 差、すなわち知識のヴァリエー ションは、すでにさまざまな研究者に よる調査報告によってますますあきらかになりつつあるが、一地域においても同時代的な知識のちがいや知識の 変化のあることが明確に理解できるようになったのは、七度目に訪れた沖縄本島東村における二ヶ月余の調査の あとにおいてであった。文化が人びとのもつ知識の体系であるとするならば、沖縄の各社会において知識は決し て均一・同質的なものではないので、沖縄文化もまたさまざまな知識の種類や、知識間の関係によってくみたて られた不均一な、異質なものの全体ということになる。(p.498)
あの人ならみんな知っているから、あの 人に聞きなさい」、とよく現地 ですすめられることがある。現地で推 薦をうけたからというので、その人をたずねてみると、事実、現地でこのように評価をうけている人の多くは、 あらゆるわれわれの疑問に応じてくれ、かくてわれわれの調査報告も、このような人物の情報にもとづいて作成 されがちである。「すべてを知っている」と評価された知識をかりに《全知》と称するならば、当該文化を理解 するて一かかりとしての情報源たる知識は、《全知》を頂点とするハイアラキー、あるいは成層性を帯びているの である。すなわち《全知》に相当する話者が存在するのであれば、ある特定の知識しかもちあわせぬ話者も、あ る問題についてはまったく知らぬ話者も、あるいはまた《全知》にてらしてまちがった、あるいはちがった知識 をもつ話者もいるはずであり、こうした知識の依存関係が沖縄文化に存在していたのである。…… たとえ《部知》ではあっても、《全知》の知識とは異なる知識が存在したとすればどうだ ろうか。《全知》にとっては《偽知》となるが、《偽知》はたとえ《全知》が存在していても可変的ではない、と いう状態がある。本書所収の論文ではこれを知識のヴァリエーションとして併せ掲載しているが、同種の問題に 対する異質な知識の併存こそ、すなわち知識の一体系ではなく、知識の諸体系、もっと極端にいうのであれば、 知識の非体系こそ文化であり、したがって沖縄文化そのものである、ということができるのではないか。このよ うな見解が一五年間にわたって沖縄文化に接してきた筆者のひとつの結論である。(pp.498-499)
以下このような《知識と象徴の変化と変 異》に関する問題は、国立民族学博物館における研究会の席上で発表 したことでもあり、いずれ改めて公刊するつもりでいるので、「沖縄文化研究は永遠に終了しない」、とだけここ で結論寺つけておくことにしたい。(p.499)
出典:渡邊欣雄『沖縄の社会組織と世界 観』新泉社、1985年

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Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099