このページは、池田光穂『実践の医療人類学—中央アメリカ・ヘルスケアシステムにおける医療の地政学的展開—』世 界思想社、2001年(ISBN4-7907-0874-8)本体定価5,800円の著者が、出版社の協力のもとに、この著書を有効に活用するための 256[最終予定]のヒントを提供するものです。
17〜32
『學鐙』98号(2001年10月)より[※]
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【医療人類学とは】
医療人類学は、諸国の政治・経済的思惑とも連動しながら拡張しようとする近代 医療の要請により成立した……その一方で、医療人類学が異文化を介して自文化を知るという文化人類学の基本的な視点と態度を踏襲するならば、必然的に現代 医学・医療そのものが問い直しを迫られることになる。
【中川米造門下生「池田光穂」】
中川〔米造〕門下生の一人である池田氏は丸刈りにした独特な風貌といい、無邪気で迫力ある物言いといい、一度あったら忘れられない印象的な人物であった。 ……彼のテーマの中心となるのは、当該国の医療政策や国際医療協力の活動を通 して展開する「国際保健」についてであり、本書の大半を占めるのもこのテーマ をめぐる論考である。
【医療の地政学的展開】
さて池田氏のこれまでの研究活動の集大成である本書には、彼が中川氏やその 門下生たちとのやりとりのなかで培った問題意識やアプローチの方法が色濃く表 れており、刺激的で挑戦的である。……過去十五年間の既発表論文を集めたもの であるが、大幅な加筆修正がなされていることもあり、池田節とも言えるその熱 い論調、語り口は終始一貫している。
ただここで注意したいことは、……医療人類学はけっして一枚岩ではなく、実に 多種多様な視点や立場があるということである。……強い問題意識と主張に彩ら れた本書は、人類学全体の中でその位置づけが確認されながら読まれるべきであ り、……
【医療人類学の向かうところ】
近代医療に対峙しこれを「批判」的に検証しようとする池田流医療人類学のスタイルに対しては、その動機に共感を覚えつつまたそれが今日必要な立場であることを認めつつも、多少違和感を感じていることを断っておく。
本書がそのような医療人類学のおもしろさと可能性を知るきっかけになることを 期待したい。
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以上が書評からの抜粋です(文中、太字は引用者=池田光穂です)。星野さんどうもありがとうございました。
ただ読者一般の方に、太字で強調した部分について著者である私は書評への違和感を反論の形で表明しておきます。
本書を素直にお読みになれば明白ですが、私の指導教官(故・中川米造さん)には学恩を強く感じていま すが、一般の読者がそこにひとつの「中川色」を感じるのは無理だと思いますね。だって本書では中川さんについて持ち上げもしていないし批判も加えていない からです。もし、かりに私の主張の中に「中川門下」一流のイデオロギーを感じられるのは、それは星野さん自身の主意的な解釈ではないでしょうか? 星野さ んは、よい意味でも悪い意味でも虹色でキメラ的だった中川さんの学識を、あたかもひとつのイデオロギーに還元されておられるようです。
星野さんのこのような物言いは、たぶん私よりもむしろ世に少なからずいる中川さんのエピゴーネン(=医療を「人道的に改造する」ことを夢見る人たち)に迷惑な話でしょう。彼らこそ「中川門下生」と自称して憚らないのですから。
文化人類学のスピリットは、当事者たちの経験や意見を別の言語表象でおきかえてあげることではなく、 人々の経験や意見についての別の言語表象がいったいどのようにして可能になるのかを考えることにあると思います。つまり、理論はどのような実践を引き出す にいたったのか、実践はいかなる形で理論の体をなしてそこに住まうことになるのか、などなど。
だから、私は中川さんの門下であるかどうかなどという本書とは無関係の話などせずに、星野さんの本書 の主張に対する違和感を単刀直入に話すべきだったのではないでしょうか。それらが、相互に交渉可能なのかそうでないのか。どのような言説を抑圧し、どのよ うな言説を生産的に活用しているのか。この書評がそのような争点を明らかにしなかったのは、ちょっと残念でした。
■ 星野晋さんのホームページ(外部リンク)
■ 中川米造という人について(池田光穂のページより)
■ 本書の読み方について(タグジャンプ)
18.『実践の医療人類学』刊行の波及効果!(学生編)
アジア医学生国際会議(AMSC)の事務局のRina Inagaki (Japan)さんから2002年大会での講演の依頼がきました。残念ながらその時期(2002年8月)日本に不在することになり、出席は断念! しか し、AMSCのみなさま、これを機会に一層の連帯をお願いします。
■ AMSC
19.『実践の医療人類学』刊行の波及効果!(臨床医学編)
日本消化器病学会における学術集会での講演(2002年4月24-26日)依頼が来ました。具体的なスケジュールはこれから詰めていきます。
日本消化器病学会は、1898年に長與称吉(称は旧字体)を創設者に胃腸病研究会として発足しましたが、称吉は、長與又郎の兄で、私の近年の関心は 彼とロックフェラー財団との関心にあります。また、私は外科手術についてのいくつかの論考を発表してきましたが、これも消化器病との深い関係があります。
というわけで、今回の講演には大いなる期待と関心をもっています。
■ 日本消化器病学会
■ 長與又郎とロックフェラー財団(池田光穂)
■ 池田光穂業績集1(→「近代医療を考える」を御覧ください)
この書物について熊本大学文学部内部の書評研究会が開催されました。東京から野村一夫さんをメインコメンテーターにして、学内の同僚からもさまざまな批判をいただきました。野村さんのコメントについては、この前のウェブページの項目の11.を参照して下さい[リンク先:項目11.]。
さて、その研究会で指摘された同僚のつぎのようなコメントは、私には鋭くつきささりました。思ってもみませんでしたが、冷静に考えると思い当たるふしもあります。そして、これは重要な課題です。こういうことです。
池田さんのこの本には、医療人類学(ないしは文化人類学)は、どんな方法からでも、どのような テーマでも自由にすることができる、という主張が随所に込められている。しかし、そこで挙げられる具体的な事例の解釈は、まさに、池田さんが、そう読 め!、そう読まなければならない!という、ある種の脅迫的な主張も同時にある。この矛盾をあなたは、どのように考えるのか?
この同僚の意見は、彼の意見そのものではなく、私が受け取った問いかけを、私なりに理解したものなので、あえて彼の氏名については触れませんが(この人の名前は慶田勝彦先生です, 2003/04/06)、このページの項目17.の星野さんのコメントもそのような心証をもたれた結果かも知れません。
これに対する私の答えもまた、アンビバレントです。そのとおり!という素直モードと、「勝負するなら主張の様式ではなく内容で勝負してくれ」という強情モードですね。
しかし、やっかいなことに、この本の主張や私の考え方の中に、読み方への主張が、逆に書いているうちに内容を規定するというレトリックが幅を利かせているのかも知れません。
21.東京大学木村秀雄教授による本書の書評が登場
国際協力事業団青年海外協力隊の機関誌『クロスロード』2003年1月号(p.67)に東京大学教授の木村秀雄さんの書評が収載されました。題して 「ホンジュラス隊員OBによる『実践の医療人類学』」サブタイトルは「ルーティンとしての学問を排す」とあります。木村さんは、著者である私以上に本書の 魅力を掴んでくださいました。本文の締めくくりに次のような言葉があります。
「ただ批判しているだけでは何も進まない。しかしが、学問的な議論をただ無邪気に適用するのはあまりにも危険である。『実践の医療人類学』は、学問の応用の間の緊張と、それにともなう最大のおもしろさを実感させてくれる本である」(木村 2003:67)。
本書は、この魅力を最大限に達成できたかどうか自信がありませんが、謙遜ではなく次回の著作への自戒として、また励みとして精進したいと思います。木村先生どうもありがとう!
本文を画像情報として見たい方は【こちら】をクリックします。ただし、400Kほどのサイズがありますので、予めご了承下さい。
22.桜美林大学の文化人類学者である奥野克巳先生の指定図書に本書が!!
桜美林大学国際学部の奥野克巳先生のゼミのページに本書が推薦書として取り上げられていることを発見!
本書が奥野克巳先生の「闘いとしての読書」の中にどのように位置付けられているか、しっかりと探究しましょう!
◆ 読書案内(奥野克巳)
http://www.obirin.ac.jp/‾okuno/supervision.html (2003年1月21日)
◆ こちらは、桜美林大学図書館の情報
本書以外にも優良図書を多数発見!、がんばって読もうね!
23.グアテマラ文献リストに登場!
電脳旅社あじあ山荘の主宰するウェブページに池田光穂のいくつかの論文とともに収載!!
http://www.ne.jp/asahi/world/trotter/biblioguate.htm (2003年1月21日)
24.アカデミックリソースガイドにも収載されています「実践の256(にごろ)」
25.当然、{グレート医療社会学}こと立岩真也さんのページにも登場します.
立命館大学大学院で教鞭をとられる立岩真也先生にも『実践の医療人類学』ほか、医療人類学関連情報がたくさん収載されています。
26.Developing World のブックリストにも登場!
27.本書は「文理融合」を考える格好の書物との推薦をいただきました!
東海大学総合教育センターの文理融合を考える推薦書に本書が収載されています。医療現象を人類学的批判の観点から眺め(=medical anthropology)、医療を人類学的に組み換える「人類学的医療(= Anthropological Medicine)」を構想する私には、力の入った支援エールであると感じています。
文理融合科目別 推薦 新刊図書リスト(東海大学総合教育センター)
28.当然、中川敏さんの医療人類学講義のノートも拝見しております。
大阪大学大学院のシャープな知性、中川敏さんのウェブページにリンクします。こちらは、私(池田光穂)が不得手な分野ですので、十分に準備して、彼の議論に応えるべきところは応えてゆきたいと思います。
中川敏『 二種類の阿房な原住民:医療人類学の歴史』
29.トヨタ財団レポート(No.97, Nov.2001)に書評が収載されているのを発見!(本文は下記のとおりです)
実践の医療人類学 中央アメリカ・ヘルスケアシステム における医療の地政学的展開 池田光穂著 世界思想社刊 2001 年3.30 刊 A5 判394 頁¥ 5,800 ISBN4‐ 7907‐ 0874‐ 8
「筆者は1984 年、国際協力事業団青年海外 協力隊員として中米ホンジュラスの保健省 に派遣され、1 年間は首都でマラリア、デン グ熱等の疾病対策活動を行い、1985 年から 1987 年まではドローレスという標高1,000 メートルを超す山岳小村で地域保健活動に 従事した。この間1986 年度にトヨタ財団研 究助成を受けている。 本 書は、この体験を原点に、筆者が1988 年から2000 年にわたって発表してきた論文 を、1.医療人類学と国際保健、2.医療体系 論、3.疾患の民族誌、4.疾患と健康、5.コ ミュニティ参加と現代社会の5 部(16 章)に より構成したもの。書かれた順番としては 3 ・4 部が古く、現地における保健医療をめ ぐる民族誌的記述が豊富である。論文の年 代はさらに2 部から1 部にさかのぼって新 しくなる。その間、膨大な文献の渉猟を経 ることで筆者の中で徐々に理論的な枠組み が先鋭化してきたものと想像される。すな わち筆者の表現をかりると、「『土着』と『近 代』の調停者として振る舞い、一方的に近 代医療の浸透と展開を許してしまう医療人 類学の言説は、住民を教化し良導する植民 者のそれと変わらない。」「内部と外部とい う対抗図式を導入し、そこに立つことで調 停者としての位置を確保してきたこれまで の医療人類学者の自画像を拒否し、医療人 類学運動がもっていた批判的な反省作用を 救出するきっかけとしたい。これが本書を まとめるにあたっての私の動機であった。」 そ の結果、本書の第1 部はまさに医療人類学の学問成 立過程、ある いは開発と医 療協力をめぐ る現代史の教 科書ともいえ る内容となっ ている。文献 目録、索引も 充実してい る。(M.K.)」(p.14)
30.その後の展開(池田光穂の著作)
『エスノグラフィーガイドブック』[共著]松田素二・川田牧人編、嵯峨野書院(担当箇所:池田光穂「『野の医療:牧畜民チャムスの身体世界』」)Pp.70-74,2002年1月
◆ 書評:河合香吏『野の医療』(嵯峨野書院、2001年)
31.その後の展開(池田光穂の著作)
『日常的実践のエスノグラフィ——語り・コミュニティ・アイデンティティ』[共著]田辺繁治・松田素二編、世界思想社(担当箇所:池田光穂、第6章「外科医のユートピア——技術の修練を通してのモラリティの探究」),Pp.168-190,2002年9月
外科医・陣内傳之助がみた医療のユートピアと実践的モラリティの関係について論じました。
32.その後の展開(池田光穂の論文)
「医療と文化」について考える,『教育と医学』,第49巻8号(2001年8月),Pp.34-40,2001年8月
※製作協力:中川大一さん[もどる]
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