臨床コミュニケーション入門
2006年 第1学期
Introduction to Human Care in Practice
第1学期=吹田キャンパス:人間科学部 21講義室
第2学期=豊中キャンパス:法経講義棟 法2番講義室
□ キーワード:臨床コミュニケーション、ディスコミュニケーション、人間の相互理解、臨床知、実践知、スキル学習
□ 講義目的
1. 臨床コミュニケーションという人間活動に関する基本的な考え方について理解する。
2. さまざまなタイプの臨床コミュニケーションがもつ可能性と限界について理解する。
3. 臨床コミュニケーションに関する「知」に基づいて、日常生活におけるさまざまなコミュニケーション不全(ディスコミュニケーション)を発見し、具体的な解決方法を見いだすことができる。
□ 講義内容
授業の前半は、臨床コミュニケーションに関する概略を学びます。毎回さまざまなタイプの臨床コミュニケーションについて特色を明らかにし、それらの可能性と限界について学習します。後半は、前半の授業で示された臨床コミュニケーションのタイプの中から、受講者の日常生活の中から身近な事例を採集し集積ものを、いくつかのカテゴリーにわけ分類します。そして、いくつかの判断基準にもとづいて典型的な事例をグループディスカッション形式で検討した上で、発表会をおこないます。事例の収集に関する技法の他に、分析手法や研究調査の倫理などについても同時に学びます。
□ 授業評価
教科書
特に指定しませんが、必読文献はその受講者に配布します。
参考書
毎回の授業の中で指摘するほかに、ウェブページ等で提示します。
成績評価:平常点(80%)と筆記試験(20%)。
講義で学んだことを後半の実習に反映させるために特に出席点と授業に対する貢献度(質問やコメントを積極的におこなう)を重視します。
臨床コミュニケーションとディスコミュニケーションとは?
臨床コミュニケーションとは、人間が社会生活をおこなうかぎり続いてゆく、ある具体的な結果を引き出すためにおこなう対人的コミュニケーションのことを言います。(→「臨床コミュニケーション」について詳しく調べる)
今日の細分化された専門領域において、専門家どうしは専門用語を駆使する概念的な理解つまり認識知に基づいてコミュニケーションをおこなっています。このような高度な専門知識は人間生活を向上することに貢献しましたが、他方で別の領域の専門家や一般の人々との円滑な交流や相互理解の妨げの原因にもなっています。
あることを理解するということには、認識知の他に、臨床コミュニケーションにもとづく臨床知や実践知という別種の「知」があるにもかかわらず、この事実が忘れられているのです。このような「知」の不十分な理解にもとづくコミュニケーションの失敗や不全を、私たちはディスコミュニケーションと呼んでいます。(→「ディスコミュニケーション」について詳しく調べる)
本講座ではこのような「知」のあり方を自覚するために、様々な専門領域の大学院生どうしの討論をおこないます。各自が専門領域以外の者と円滑にコミュニケーションを図る能力、プレゼンテーション能力、および社会的判断力を身につけることを通して、ディスコミュニケーションを解消するための具体的なスキルの学習を目指しています。
具体的には異文化間、医療現場、世代間、裁判等々における臨床コミュニケーションの特徴と課題を理解するとともに、参加者が自分たちの生活の場面からディスコミュニケーション事例を持ち寄り、そのプレゼンテーションと解決のための討論を通して、各領域におけるコミュニケーションの可能性と限界を明らかにします。そして、この臨床コミュニケーションの将来の課題を皆さんとともに模索してゆきます。
さらに学びたい人は第2学期に開講する「現場力とコミュニケーション」、夏期集中講義の「ディスコミュニケーションの理論と実践」を受講することが望ましいでしょう。より少人数で、テーマを絞ったグループ討論で、学びを深めることができます。
1. オリエンテーション、臨床コミュニケーションとは (4/11 平成18=2006年度前期の開講日) 担当:池田
臨床コミュニケーション入門(→臨床COM入門ノート)
2. 異文化間のコミュニケーション (4/18 平成18=2006年度前期の開講日) 担当:池田
【授業資料】リンク先
3. 医療現場のコミュニケーション (4/25 平成18=2006年度前期の開講日) 担当:西村
【配付資料】2回分の講義内容および目標
医療現場のコミュニケーション ※遷延性植物状態患者と看護師の語り
4. 専門家(医療者)と非専門家のコミュニケーション (5/09平成18=2006年度前期の開講日) 担当:西村
【配付資料】
西村ユミ「専門家(医療者)と非専門家とのコミュニケーション」 パワポ・スライド 12枚
5. 介護をめぐるコミュニケーション (5/16 平成18=2006年度前期の開講日) 担当:西川
【配付資料】
西川勝「下実上虚(1)ある看護師のため息」『精神看護』7(3):80-81、2004年
西川勝「職場のエロス(7)青い瞳」『精神看護』5(1):75、2002年
6. 世代間のコミュニケーション (5/23 平成18=2006年度前期の開講日) 担当:西川
【配付資料】
西川勝「普通のケア」
7. 紛争におけるコミュニケーション (5/30 平成18=2006年度前期の開講日) 担当:中西
【配付資料】
中西淑美「紛争におけるコミュニケーション」パワポ・スライド33枚
8. 裁判をめぐるコミュニケーション (6/6 平成18=2006年度前期の開講日) 担当:中西
【配付資料】
中西淑美「裁判におけるコミュニケーション」パワポ・スライド15枚 ほか図書関連資料からの抜粋
9. プレゼンテーションの方法 (6/13 平成18=2006年度前期の開講日) 担当:池田
【配付資料】リンク先
■ プレゼンテーションの方法 キーノートスライド16枚
10. グループディスカッション(1) (6/20 平成18=2006年度前期の開講日) 担当:池田
【配付資料】池田光穂「臨床コミュニケーション入門 グループワーク1」全2頁
11. グループディスカッション(2) (6/27 平成18=2006年度前期の開講日) 担当:西村
【配付資料】西村ユミ「臨床コミュニケーション入門 グループワーク2」全1頁
(事前配布資料)西村ユミ「専門家(医療者)と非専門家とのコミュニケーション」
12. グループディスカッション(3) (7/04 平成18=2006年度前期の開講日) 担当:西川
【配付資料】西川勝「臨床コミュニケーション入門 グループワーク3」全1頁
および白小易「客間の珍事」抜粋資料全1頁
13. グループディスカッション(4) (7/11 平成18=2006年度前期の開講日) 担当:中西
【配付資料】中西淑美「臨床コミュニケーション入門 グループワーク4」全5頁
「加濃式社会的ニコチン依存症質問票」(ただし授業には利用せず)全2頁
14. グループディスカッション(5) (7/18 平成18=2006年度前期の開講日)
授業目標を振り返ってみましょう。
1. 臨床コミュニケーションという人間活動に関する基本的な考え方について理解する。
2. さまざまなタイプの臨床コミュニケーションがもつ可能性と限界について理解する。
3. 臨床コミュニケーションに関する「知」に基づいて、日常生活におけるさまざまなコミュニケーション不全(ディスコミュニケーション)を発見し、具体的な解決方法を見いだすことができる。
この3つの観点からおさらいしましょう。
1. さまざまな臨床コミュニケーションのモード(様式)があることがわかった!
[場所]医療・看護・福祉の現場、日常生活空間、政治や司法などの場、ヴァーチャルな意識においても!
[当事者]治療者ー患者、実践者ー顧客、同僚どうし、異文化間、先生と生徒(弟子)、意識のない人との間にも!
[タイプ]了解、理解、論争、紛争、無視、誤解、出会い、決別など
2. 臨床コミュニケーションがもつ可能性と限界とは?
[可能性]パターン化可能なコミュニケーションと不可能なコミュニケーションの弁別。できることとできないことの峻別、一般化できないこと知ることの意義
[限界]文脈(コンテクスト)や歴史性が、コミュニケーションのゆく末にさまざまな影響を与える。すべてをパターン化することができない。ある教訓がべつの事例に必ずしも役立つとは限らない。個々の事例のコミュニケーションの1回性・偶発性(→同時に豊かさにも通じる)
3. コミュニケーション不全(ディスコミュニケーション)を発見し、具体的な解決方法を見いだすことができる。
我々は3つの教訓を引き出すことができただろうか?
1)参与することの重要性:参加しないとコミュニケーションは観察できない
2)観察することの重要性:参与しながらも、状況を客観化(再帰性・自己相対化)する試みを忘れない
3)具体[事象]のなかに参与することの喜び:よい対話者は、コミュニケーション・ディスコミュニケーションが起こっている現場におもむき、当事者とのよく話し合うことが重要。よき対話者とは、よき「聴き手」であることが多い。
最後に、実習型授業についての皆さんの感想をお聞かせください。
1 授業の進度はよかったか?
2 授業のレベルはどうであったか?
3 教師(インストラクター)の説明はよかったか?
4 授業をとったためのメリットはなにか?
5 授業をとったために被ったデメリットはあるか?
6 使われた教材は、よい議論の材料になったか?
7 教師(インストラクター)が選んだ題材と与えられたテーマはうまくマッチしたか?
8 この授業に効果があったとすると、その効果の寿命(有効期限)はどれくらいか?
9 類似の授業があったら受けてみたいか? また未受講の友人にすすめるか?
15. [予備日](7/26 平成18=2006年度前期の開講日)
1. オリエンテーション、臨床コミュニケーションとは
2. 異文化間のコミュニケーション
3. 医療現場のコミュニケーション
4. 専門家(医療者)と非専門家のコミュニケーション
5. 介護をめぐるコミュニケーション
6. 世代間のコミュニケーション
7. 紛争におけるコミュニケーション
8. 裁判をめぐるコミュニケーション
9. プレゼンテーションの方法
10. グループディスカッション(1)
11. グループディスカッション(2)
12. グループディスカッション(3)
13. グループディスカッションの発表(1)
14. グループディスカッションの発表(2)
15. 筆記試験