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コミュニケーション・スタディーズ

What is so called "Communication Studies" ?

人間機械論再考」より

解説:池田光穂


コミュニケーションの 必要かつ最小限の定義は、相互的な情報通信(メッセージ※)交換のことである。情報通信交換をおこなう際には、情報が双方向的に媒体の中を交通することが 必要である(光や電磁波のように媒体を必要としないものもある)[→コミュニ ケーションの定義]。

ウィナー(1961)はメッセージを次のようにそっけなく定義している。つまりメッセージとは 「時間内に分布した測定可能な事象の離散的あるいは連続的な系列のこと」であり「電気的・機械的な方法、あるいは神経系などによって伝送されるもの一切を 含んでいる」と[ウィーナー1962:11]。

シャノンとウィーバー(1949)年に『サイエンティフィック・アメリカン』に寄稿した「分析的 コミュニケーション・スタディーズ」を冠した論文において、コミュニケーションについて次のように書いている。

【原文】

"The word communication will be used here in a very broad sense to include all of the procedures by which one mind may affect another. This, of course, involves mot only written and oral speech, but also music, the pictorial arts, the theatre, the ballet, and in fact all human behavior. In some connections it may be desirable to use a still broader definition of communication, namely, one which would include the procedures by means of which one mechanism (say automatic equipment to track an airplane and to compute its probable future positions) affects another mechanism (say a guided missile chasing this airplane),"(Shannon and Weaver 1949:3).

【拙訳】

コミュニケーションという言葉は、ある精神(マインド)が別の精神に影響を及ぼすようなもの によって引き起こされる諸手順のすべてを含む、はなはだ広い意味において、ここで使われることだろう。もちろん、これ(=コミュニケーション)には、書か れ話された言葉(スピーチ)のみならず、音楽、絵画芸術、演劇、バレー、それどころか、すべての人間行動までも包摂している。ついでながら言うと、コミュ ニケーションをさらに広い定義でとらえることは妥当なものとなるだろう:つまりそれには、あるメカニズムが別のメカニズムに影響を与えることによる手順を 含めてもよい(例えば、航空機を追跡し想定される将来の位置を計算する自動装置は、その航空機を追尾する誘導ミサイルに影響を与えるように) (Shannon and Weaver 1949:3)。

シャノンとウィーバーによる、この『サイエンティフィック・アメリカン』論文が重要な点は、従来、彼らのコミュニケーションの定義は「情報論的 で狭量である」という従来の見方は純然たる彼らに対する誤解、あるいはより積極的に言えば偏見とも言えるべきものであることである。つまり、シャノンと ウィーバーもまた、コミュニケーションの過程は経時的あるいは因果的に複雑な状況を生起するものであるという我々の常識と共通していることを、ここで確認 しておこう。

人間がおこなうコミュニケーションを私(池田)は、人間コミュニケーションあるいはヒュー マン・コミュニケーションと呼ぶ。人間コミュニケーションを成り立たせる媒体は社会である。

さて、コミュニケーション全般を研究することが、コミュニケーション・スタディーズの目的であ る。コミュニケーション全体は、人間コミュニケーションを包摂する。つまり、人間コミュニケーションを研究するためには、これまで電気通信工学で研究して きたコミュニケーション研究の応用研究のほかに、動物や人間独自のコミュニケーションに関する独自の研究領域、さらには、エコロジーのような従来コミュニ ケーション研究とは言えなかった研究領域も包摂される必要がある。このような理念を図式的に表すと下記のようになる。

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重要なコミュニケーション理論(図式)

※メッセージの定義(N・ウィーナー)

「時間内に分布した測定可能な事象の離散的あるいは連続的な系列のこと」であり「電気的・機 械的な方法、あるいは神経系などによって伝送されるもの一切を含んでいる」(ウィーナー1962:11)。(→『サイバネティックス』岩波書店)[→コミュニケーション理論の基礎

※ローマン・ヤコブソンによる言語の二軸理論

ヤコブソンは、ソシュールの2つの精神性の対比、すなわち、特殊化しようとする精神(esprit particuraliste)と統一化しようとする精神(esprit unificateur)の対比からはじめる。

「言語活動の獲得とは、ある個人がその言語体系に組みこまれてゆくことであるように思われます。これがきわめてはっきり見てとれるのは、喃 語から語の分節への移行過程においてです。そこではデフレーションと呼んでいる事態が起こります。つまり豊かな喃語が突然消失し、幼児はその言語体系で使 われていない音だけではなく、その言語体系にとってきわめて有用な多くの音さえも失ってしまうのです。幼児の発音能力は、その音節を区切って発音する能力 に依存しているわけではなく、音素の対照とその表意的価値の獲得に依存しているのです。幼児が合体する厳密な秩序が、幼児に音素の言語的価値の可能性を示 唆するわけです。こうして、ヤコブソンは「もろもろの音素対立の体系が意味作用へ向かってゆく」と定義することになります」[メルロ=ポンティ 1993:28:訳文は少し変えています]。

「ヤコブソンは、彼の理論を失語症に適用することによって……、言語活動の所有は、音素の統合に依存していることになりますから、逆に失語 症は音素体系の崩壊の結果生ずるにちがいありません。ヤコブソンは、すべての真性失語症患者において、この音素体系が規則的に解体してゆくこと、そして一 時的な平衡回復をともなうことがよくあることを確認しています。……失語症のある患者は、失認症や失行症にはかかっていないにもかかわらず、ある種の言葉 を発音できません。しかし、これらの語が失われるのは、それがある部分の全体をなしている場合だけです。ここでヤコブソンは、フッサールがおこなっている [言語と]チェス・ゲームとの比較を援用しています」[メルロ=ポンティ 1993:30-31:訳文は少し変えています]。

「ヤコブソンはその論文の後半部になってはじめて音素の定義に取り組み、こう言っています。「音素とは、ある語を他の語——その音素以外は その語と等しい音素からなる他のすべての語——から区別するような言語活動の要素である。つまり、音素とは言語活動の弁別的要素にほかならない」」[[メ ルロ=ポンティ 1993:28:訳文は少し変えています]。

「音素は語を弁別する要素であり、その語が事物に関係するのですから、音素体系の障害は、本来の言語活動の障害と同じ様相を呈し、同じ結果 をもたらすことが多いのです。例えば、同音異義化がそうです。ヤコブソンは例として、Rippe(肋骨)とLippe(唇)という2つのドイツ語を引いて います。……(1)意味了解能力は健在で、音素識別能力だけが損傷された患者の場合。患者はもはや/l/と/r/とを区別できないので、2つのものに同じ ひとつの言葉を使わざるを得ません。つまり、彼にとってこの二語は同音異義語になってしまいます。(2)音素識別能力は健在で、語意了解の能力を失った患 者の場合。患者は言葉の意味を失っているので、彼にとってはたしかに、音の響きの異なった二語なのですが、しかし、それらの言葉は彼にとって意味をもたな いので、彼はもはやそれらを区別することができません」[メルロ=ポンティ 1993:31-32:訳文は少し変えています]。

「いずれにしても問題になるのは、言語能力の障害かシンボル機能の障害なのです。音素論者たちは、もはや「シンボル機能」という概念を、語 にだけ限って使うように制限したりはしません、彼らは、音素体系をそこに統合します。というのも、彼らは音素と語のあいだに密接な平行関係のあることを確 かめているからです。音素と語は、言語連鎖のうちにあって、それらが部分として含まれている全体を差異化する要素なのです」[メルロ=ポンティ 1993:32:訳文は少し変えています]。

小さい場合は画像をクリックすると単独で拡大します(作画は池田のオリジナル)

「脈絡の構成要素を合体させるものは隣接性[→メトミニー]という外的 関係であり、代置集合の基盤となっているものは相似性[→メタファー]という内的関係 である」(ヤコブソン 1973:33)。

相似性/隣接性

隠喩的方法/換喩的方法

相似性の異常(similarity disorder)→隣接性が優位に:動物を表現するのに動物園で観た順に動物を列挙する。

隣接性の異常(contiguity disorder)→相似性が優位に:統辞規則の異常いわゆる電文体の発話

これらに関する詳しい説明は「ディスコミュニケーションの定義と理論」 でも説明していますので、ご参照ください[→リンク

※ローマン・ヤコブソンによる言語伝達の構成因子とその機能

小さい場合は画像をクリックすると単独で拡大します(作画はヤコブソン(1973)によります)

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その他の情報

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