アシエンダ
hacienda
解説:池田光穂
ヌエバエスパーニャ(新スペイン=新大陸 の旧スペイン領)における大規模農場のこと。
大土地所有制(latifundio)の ひとつ(新大陸の大土地所有制のもうひとつの形態はプランタシオン)。ブラジルでは、アシエンダに相当 するのはファゼンダ(fazenda)。
アシエンダ制度の歴史
16世紀中葉まで
【土地所有制度】
repartimiento, gracia, merced という分与地で、先住民土地を侵すことの禁止。
gracia あるいはmerced には2種類あり、caballeri'a と peoni'a がある。この違いは分与地のサイズの違いで、前者の5分の位置がpeoni'a。この制度はスペイン本国(catillia)の領主所領 sen‾ori'o を範としたもの。
【先住民労働のコントロール】
先住民に対する賦役と貢納制度(=これをエンコミエンダ encomienda [制]という)
Encomienda は土地所有の権利を有しなかったが、エンコメンデーロは、分有地(merced)を所領する権利を保有した。そのため先住民の教化と賦役の労働調達のため に、先住民共同体の隣接地に分与地を受託した。
エンコミエンダは他人への譲渡は禁じられていたが、土地と一体となり時 代がたつと家産的性格が強くなる。
1542年の新法によりエンコミエンダ制は廃止される。
後に、先住民人口の激減や逃亡などにより機能しなくなる。スペイン人たちは、直接生産に従事するような経営形態を模索し始める。
【先住民と植民地産品生産の関係】ラテンアメリカ地域による異なる経路
1.カリブ海地域
先住民の病気による人口激減とそれに対応する、黒人奴隷の導入。アシエンダやサトウキビ農園=インヘニオ(ingenio)が成 立(→「資本主義と奴隷制」)。
2.メソアメリカ
上記のエンコミエンダ制による先住民の「農村共同体の漸次的解体」と「土地の蚕食」(西川 1999:490)がおこるが、先住民への賦役労働への依存が続く。
3.アルゼンチン・パンパ
狩猟生活の先住民との衝突。ガウチョによる野生化した牛馬の捕獲と粗放的牧畜という土地所有の拡大。(1826年永代借地法による 永代借地権が所有権に転化する。これが現在の estancia の起源)
16世紀末〜17世紀初頭
スペイン人入植者たちは、ヨーロッパから土地の所有制度もまた持ち込んだが、植民地を経営する王室は、そこで農業生産に従事する植民者 に対して恩貸地(おんたいち)を提供した。
16世紀末になると、この恩貸地制度を最終的に植民者の土地所有として認めるのがコンポシション(composicion)という法的 手続きだった。これにより、スペイン人植民者への土地所有権が認められるようになった。
アシエンダは財産という意味だが、土地所有にまつわる諸設備の整備や(先住民)労働力など含めた、不動産としての財産の意味へと転用す る。
19世紀初頭
ラテンアメリカ各国の独立後の土地所有改革制度は下記のようなものからなりたっていた。
19世紀後半
ラテンアメリカ全土における商品作物生産の拡大により、耕地のそのものが拡大し、アシエンダの周囲の土地を接収し、あわせて労働力を調 達するようになった。アシエンダの専有面積の増大。
アルゼンチン:1826年永代借地法による永代借地権が所有権に転化する。これが現在の estancia の起源となる。1876年アベジャネーダ法により移民の導入と官有地の分割払い下げがおこなわれる。
ブラジル:1850年の土地法、1854年公有地庁により、セズマリア(sesmaria, 分与地)制度の廃止。1888年奴隷制度廃止し、奴隷に依存していたファゼンダは、19世紀末よりコロノ(請負契約労働者)に依存するようになる。
20世紀初頭
アシエンダ制の形態学
おおきく(1)小作地と(2)地主直営地、に分類される。
(1)小作地
雇用役として従事する小作(名称:コロノ、インキリノ、ワシプンゲーロなど)
分益小作=小作地で直接経営収穫できるが収穫の一部を使用権として支払うもの(ヤナコナ、アパルセーロ、メディエーロ)
賃金によって働く小作(名称:アレンダタリオ)
(2)地主直営地
農業労働者(名称:ガニャン、ペオン、アフェリーノ、ボルンタリオ)
アシエンダの人的構成員例(19世紀メキシコ)
地主(不在・在住)
エリート:支配人、司祭、管理人、正書記、経理士
中間層:人夫頭、書記、教師、番人
下層民:ペオン、下働き使用人、児童労働者(見習い)
以上のことからアシエンダ制の特徴をあげ ると、
となる。
★ラテンアメリカにおける土地所有関係の 類型
西川(1999:491)によると「生産諸関係の視点」から5類型に分けている。すなわち、1.ラティフンディオ(大土地所有制):1a: 伝統的アシエンダ型と1b:プランテーション型(=資本主義アシエンダ)、2.中農型、3.ミニフンディオ(零細土地所有)型、4.コムニダー(共同土地 所有)型、5.エヒード型。
1963-1964年のパンアメリカ農業開発委員会(CIDA)の農業階層構造の定義は下記のようなもの
ラティフンディオ:12名以上の就業者をもつ。多家族中農型:4名から12名。家族農:2〜4名。ミニフンディオ:2名未満
1.ラティフンディオ(大土地所有制):
1a:伝統的アシエンダ型:
パトロン=ペオン関係を基調とする。19世紀に資本主義型に移行しつつある(コメント:史的唯物論的解釈?)。管理形態は不在地主 で、現地には管理人(administrador) とその下に中間管理人(mayordomo)が存在し、これらは管理農と言われてきた
1a1:ブラジル北東部・カリブ海:サトウキビ農園
1a2:アルゼンチンパンパのエスタンシアの牧畜
1a3:メソアメリカ、アンデス、カリブ海の一部:先住民労働に依存
1b:プランテーション型(=資本主義アシエンダ):資本主義的経営形態をもつ
19世紀の後半、ヨーロッパおよび米国からの直接投資や入植。会社経営の場合は、港湾、鉄道のほかに栽培技術や加工における近代的 技術導入が見られる。賃労働者への労働搾取形態。
西川によるとプランテーションにも2種あり、中米、コロンビア、エクアドルのバナナ栽培、革命前のキューバサトウキビ農園と、公有 地化された企業的農場で、ブラジル・サンパウロのコーヒーファゼンダ、ボリビア・ユンガス、コロンビアアンデスのコーヒー・アシエンダ。
2.中農型
3.ミニフンディオ(零細土地所有)型
4.コムニダー(共同土地所有)型
5.エヒード型。
★アシエンダ制にみられるような土地制度 を改革する(land reform)こと、それにあわせて農業生産技術の改革の2つのうち、ひとつないしはふたつをわせて農業改革(agrarian reform)という。[→農業改革]
★用語
ラティフンディオ(latifundio):ラテン語の latifundium に由来する。レアル・アカデミア・エスパニョーラの『スペイン語辞典』によれば finca rustica de gran extencion とある。
新大陸におけるラティフンディオの起源を何に求めるのかということについては二説あり:1.エンコミエンダ制起源:植民によって先住民 の土地を蚕食拡大しかつ先住民労働に依存する家産的経営形態に着目する[→植民国家]。2. 19世紀の資本主義起源:独立後のラテンアメリカが域内経済を発達させると同時に西欧との貿易が進み、世界資本主義が伸展する過程のなかで、地域の土地制 度が大規模化(=資本主義的生産様式)していったという解釈。
メキシコでは1917年憲法27条の土地の貧民への分配の履行[→原文]を定めているが(1994年のサパティスタ蜂起の原因)、憲法は大 土地所有であるラティフンディアという用語法をたしかに使っている。
ミニフンディオ(minifundio):零細土地所有の形態。これはラティフンディオーミニフンディオ制とハイフンで結ばれる場合には、 ラティフンディオの制度が進んで先住民たちの土地所有が蚕食された結果としてラティフンディオ制の帰結として零細土地所有(ミニフンディオ)が生まれたと 解釈する。
恩貸制度(おんたい):ラテン語で beneficium (ベネフィキウム)といい古代ローマ末期からあった制度で、大土地所有者が土地を恩恵として貸し与え、耕作用益権を与える代わりに、貢納や労役(軍事を含 む)を提供するもの。
リンク
文献
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099