沖縄のジュゴン(学名 Dugong dugon)と辺野古基地移設反対運動
(資料集成)
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解説:池田光穂
(売り子=おばあ)「何が気に入ったの?」(俺=池田)「魚の模様が可愛いからね、買って帰ろう と思って」(おばあ)「世の中が目茶苦茶になっているから、可愛いのが好かれるの」——那覇市壷屋の「やちむん通り」の陶器店にて(2012年3月25 日)
「辺野古基地移設反対運動」は、正確には「普天間基地の名護市辺野古周辺のキャンプ・シュワブの 海上沖への移設反対運動」と言うべきですが通称に従い省略しました。[→関連ページ]
ジュゴン(学名 Dugong dugon)のこと
【名称】
地方名:フィトウ(ヒトイウ=宮古)、人のこと:ウンウマ(海馬):ヨナイタマ(海霊=潮の干満を支配する神で、柳田國男の説):ヨナタマ (下地島の伝説」):ザン(琉球では最も一般的で使われる用語。犀魚の当て字と言われる):アカングワイウ(赤子魚=泣き声が赤子に似るという伝説より由 来)
【伝承】
ジュゴンには大津波と関連づけた口頭伝承がある。それによると捕獲から救ってあげた漁民あるいはその家族が、ジュゴンから大津波の来襲を予 言されて、村人等に警告するが(個人あるいはその仲間以外は)誰も聞き入れず、コミュニティが大津波に巻き込まれるというものである。明和八年 (1771)の大津波に関連づけたものが有名で、さまざまな現代作家の潤色を得て表現されている。これに関連するものに、「ジュゴンを食べると、その天罰 として大津波がやってくる」「ジュゴンを釣って連れ回した場所には津波が来襲する」「ジュゴンを捕獲した後には、後ろ脚のない豚が生まれるなどの祟りがあ る」「ジュゴンの交尾を見て人間が羞恥心をはじめて覚える(倫理の起源神話)」などである。
【ジュゴン年表】
先史時代:琉球列島の遺跡でジュゴンの骨が発掘される(先史民による捕獲と食用の示唆)
1479 『李朝実録』海馬(=ジュゴン)の特産の記録
1623 ザン(=ジュゴン)を狩る唄(『おもろさうし』十一巻)
1727 『八重山諸記帳』海馬(うんうま=ジュゴン)の特産の記録
1771 明和八年の大津波[→伝承、を参照]推定M7.4 八重山の人口の1/3が死亡と言われる
1858 『翁長親方八重山規模帳』新城島(あらぐすくじま:竹富町、上地島と下地島からなる)から海馬(うんうま=ジュゴン)として献上 の記録。時期は田植え終了の3月に、食み跡を確認した跡に、男子集団が満潮時に網を入れ年2,3頭を捕獲していた。肉は乾燥(薫製)してから献上。上地島 に東御城(あーるうがん)聖地に骨を奉納した。
1881 『水産調査予察報告(八重山奄美調査海域)』
1884 糸満漁民による「ミーカガン」の発明。これによりアギヤー(大型王込み網漁法)である廻高網(まわしたかあみ)漁が開発される。
(1894-1916年の23年間で300頭以上の捕獲記録がある)
1912 ジュゴン漁の禁漁(『沖縄漁業調査書(二)宮古郡・八重山郡』)
1933 日本統治下にあった台湾と八重山でジュゴンを天然記念物に指定
1955 琉球政府、ジュゴンを天然記念物に指定
1960 奄美で最後のジュゴンの確認記録(以降、絶滅との認識されている)
1967 西表島で最後の目視記録(以降、絶滅との認識されている)
1972 沖縄の本土復帰による、日本の天然記念物に指定
1970年代 オニヒトデの異常繁殖が始まる(1989年頃にはサンゴの白化(はっか)現象が深刻に)
1993 水産庁・水産資源保護法でジュゴンの捕獲を禁止
1997年5月31日 橋本龍太郎政権下の島田晴雄(慶応大学経済学部教授)私的諮問委員会(通称「島田懇談会」)が提言した振興政策がは じまる
1997年5月 日本科学者会議と労組(日共系?)による「沖縄米軍会場基地学術調査団」の調査はじまる(亀山 2003)
1997年8月21日 日本共産党沖縄県委員会による海域へのジュゴンの棲息の可能性による会場基地建設反対の大田知事への要請(図版参 照)
1997年 Love ジュゴンネットワーク結成(→1999年6月「ジュゴンネットワーク沖縄」に改称)
1997年12月 名護市民投票により移設受け入れ反対が過半数に達する(結果:投票総数31,477。反対とするもの52.8%、受け入 れとするもの45.3% )
1998年1月13日 辺野古沖をジュゴンの遊泳を民放のヘリコプターが確認し、その映像を放映した。(Grandpa Miyagi exclaimed, "Here comes the messenger of our ancestor-gods of the sea!*"" (Inoue 2004:95).)
1999年10月 ジュゴン保護基金委員会発足
1999年11月 北限のジュゴンを見守る会
2000年3月25日 日本生態学会第47回大会総会にて「ジュゴンが生息する沖縄島東海岸の亜熱帯サンゴ礁域の保護を求める要望書」が採 択される
2000年4月 沖縄のジュゴンに関する国際シンポジウムの開催(東京・京都・沖縄)[オーストリア・ジェームズ・クック大学教授ヘレン・ マーシュ(Helene Marsh)ならびに三重大学教授粕谷俊雄(かすや・としお)が参加]
2000年10月23日? アンマン(ヨルダン・ハーシム王国)で第2回国際自然保護連合(IUCN):東恩納氏、4万7千の署名を携える
2002年2月 UNEP『ジュゴンの現状と国別地域別の行動計画』
2003 改正鳥獣保護法で、捕獲禁止獣にジュゴンを追加
2003年8月 泡瀬(あわせ)干潟を守る連絡会が、埋め立て予定地でジュゴンの糞を発見(亀山 2003:72)
2003年9月 沖縄ジュゴン環境アセスメント監視団の結成
2004 辺野古沖で、日本政府現地技術調査(ボーリング調査)に着手
2004年 国際自然保護連合(IUCN)
2005 『沖縄県絶滅のおそれある野生生物・レッドデータブックおきなわ(動物編)』改訂版でジュゴンを「絶滅危惧種A1類」に指定す る。
2007年8月14日 辺野古における違法「環境現況調査」の即時中止と、環境影響評価「方法書」の即時撤回を求める声明(沖縄ジュゴン環 境アセスメント監視団:団長・東恩納琢磨)
2012年1月6日 沖縄防衛局による辺野古・環境影響「評価書」の持込みに関する要請(沖縄ジュゴン環境アセスメント監視団:団長・東恩 納琢磨)
【ジュゴンの当事者適格と平和運動】→「野生動物とのつきあい方」より(原出典:『人と動物の人類学』奥野克巳・山口未花子・近藤祉秋編、春風社(担当箇所」第7章 「野生動物とのつきあい方:生物多様性保全におけるツキノワグマとジュゴンの位相」Pp.205-238)363pp.、2012年9月19日)
生物多様性概念の社会化における、次の「思い籠め」の対象はジュゴンである。この動物の「当事者適格」——訴訟における判決の名宛人となる =原告になる 資格——についてが、考察の対象になる。人間主体の反戦平和運動が、動物を巻き込んだ環境保全運動と節合する社会化現象として考えられるからである。
沖縄県宜野湾市での「普天間基地代替施設移設問 題」は1995年少女暴行事件を契機に名護市辺野古への移転構想が97年から始まり2002年にはその計画案がまとまっていた。2004年の沖縄国際大学 への米軍のヘリコプターの墜落事件により移設計画が加速化したが、2009年に見直しを約束して政権政党になった民主党の鳩山内閣は公約を反故にして 2010年には移設の決定がなされ、連立与党の一角が解消するにまで至った(2010年5月30日)。辺野古沖への飛行場新設により(県内あるいは国内) 移設反対派と、同移設予定地に生息すると言われるジュゴンの保護活動家たちが結びつくことになる。WWFジャパンや日本自然保護協会を中心とする保護活動 家たちは2008年10月国際自然保護連合(IUCN)総会で採択された「移動性野生動物種の保全に関する条約」(ボン条約)を履行するようにと2009 年5月に3万人分の請願署名を(国会議員を通して)衆参両議院に提出した。彼らは2010年7月には辺野古沖で生態調査をおこなっており、10月の COP10/MOP5国際会議のサイドイベントにおいてもその内容が報告されて支援者が多数集まった。ジュゴン保護を媒介にして環境保全と反戦平和を繋げ る戦術はきわめて多元的多角的であり、さまざまな社会的資源を動員している。
沖縄の辺野古沖への基地移設を食い止めるために、 生物多様性を法廷に持ち込むというユニークな方法がある。その例を名古屋に本部がある「環境法律家連盟」(Japan Environmental Lawyers Federation, JELF)に見てみよう[関根 2007, 2008]。まず、彼らは米国の国家歴史保存法(NHPA) を根拠に、アメリカの国防総省に対して、代替施設の建設は、国家歴史保存法に違反し、同施設がジュゴンに及ぼす影響に「配慮」しなかったとし、(1)同法 違反の違法確認、(2)同法を遵守するまで建設関与禁止の差止め、(3)裁判所が適当と認める法的救済を提訴した。国家歴史保存法はThe National Historic Preservation Act (NHPA; Public Law 89-665; 16 U.S.C. 470 et seq.)といい、おもに国家モニュメントになる歴史的建造物や遺跡などの保護を目的として、1966年に大統領が署名した法律である。結果から言うと、 ジュゴンは訴訟主体になれなかったが、それと並んで提訴した人間——沖縄住民3名ならびに日米の環境平和4団体——は訴訟主体として国家歴史保存法第 402条の地域外適用——国外(=沖縄)の米軍基地においても同法が使えること——が認められた。これに先立ち同裁判所の2005年中間命令では、ジュゴ ンが同法の保護対象の「遺産」として認定されている。2008年1月24日、カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所は、(I)ジュゴンの原告適格は否定 し、また(II)差し止め請求も却下した。命令の主文は、被告である国防総省がアセスメント評価について今後どのような手続きをおこなうかについて裁判所 に提出するまでは訴訟手続きを停止するというものであった。それに引き続き、2009年12月3日には米国の環境NGOと共同し、オバマ大統領らを宛先と する書簡が提出されている。書簡のタイトルは“Re-proposed U.S. Military Air Base Expansion near Henoko, Okinawa”となっており、ジュゴンの他に、3種のウミガメ(タイマイ=Hawksbill、アカウミガメ=Hawksbill、アオウミガメ= Green)とその生態系の保全が、種の保全法(ESA)と関連づけられて要請されている。
また2010年明けからは、国家歴史保存法に対す る違法性訴訟に加えて、より法的拘束力の強いとされる種の保存法(ESA) ——生物多様性から人間が得られる法的権利と正当性を保護する法令——訴訟を準備していることを環境法律家連盟(JELF)は構想していることを発表し た。種の保存法は、Endangered Species Act of 1973 (7 U.S.C. § 136, 16 U.S.C. § 1531 et seq., ESA)、1966年の法律(Endangered Species Preservation Act of 1966, P.L. 89-669 )および1969年の修正条項を改正して、1973年に署名された、自然保護に関する包括的な法律である。
これらは基地移設が(人間の行動の意思決定をもた
らす)下部構造で、それにまつわる自然保護思想は下部構造から影響を受ける観念(=上部構造)であるという主(=原因)—従(=結果)関係ではない。むし
ろ自然保護に関する法的手続きは、現代日本における政策決定における最優先課題となった。2011年9月に就任した野田首相は、辺野古への移転問題を「協
議」するために同年10月末に訪沖したが、その際に県知事に実際に伝えたことは「環境影響評価書」いわゆる環境アセスメント報告書を沖縄県に提出するとい
う計画のことであった。アセスメント書の提出が、基地の移転を承認してほしいというメッセージになっているのだ。地元住民やそれを代表する県知事の意向の
確認の前にクリアなければならないのは、それが反対派の主張するような「デタラメ」であろうがなかろうが、環境保全に関する「証明書」の提出なのである。
それゆえ基地移設反対派にとってもジュゴンへの熱を込めた「思い籠め」が最重要課題になるのである。環境問題は、政治問題の代理(=表象)になっているの
ではなく、代補(=それ自体では部分にすぎないが、それなくしては全体が完結しない不可欠な要素, supplement)になっているのである。
【資料編】
■亀山統一論文(2003)年の5つのテーゼ(池田光穂によるまとめ)
1.沖縄の自然破壊は辺野古に始まるわけではない。2.近代の沖縄の自然破壊は(日本侵攻の)米軍の上陸による戦争での破壊である。3.米 軍の海外派兵は自然のみではなく人間生活を破壊する。4.日本政府は米軍(=米国政府)に対して過剰な支援をおこなっている。5.科学者会議の調査の結 果、辺野古は死んだ海ではなかった。
■逆格差論
1970年、本土復帰前に1町4村(名護町・羽地村・久志村・屋部村・屋我地村)の合併により名護市となる。1970年琉球政府首席・屋良 朝苗が、復帰にあたって米軍基地撤廃の建議書を持参し上京するが、すでに国会では米軍の存続が、衆議院特別委員会で強行採決されていた。名護市では、沖縄 と本土の(経済)格差に関するリビジョニズムが登場する。名護は自然や暮らしの豊かさがあり、それは本土の都市生活とは真逆である。これが当時の「逆・格 差論」の主張であり、この精神は名護の人たちに現在まで受け継がれ、1998年2月に市長に当選する容認派の岸本建男氏も、この逆・格差論者であった(宮 城 2002, 2008)。
■ジュゴン保護運動との「節合」(井上雅道さんの研究)
"The possihility that this giant marine mammal might he frequenting Henoko's sea was hrought up early in the movement hy the Okinawa branch of the Japanese Communist Party. Then several divers along Henoko's coast reported that there were remains of suhmarine pastures of algae and seaweed that the dugong might have eaten. Following that, a search for the dugong was undertaken. The Japanese Scientists' Association, local and Japanese TV stations, environmental NGOs including the World Wildlife Fund-Japan, and concerned divers came to Henoko to look for it. Dugong T-shirts were made as a source of revenue for the Society for the Protection of Life. In the process, the dugong hecame an icon of the antibase mobilization, something around which to build sentiments and discourses for the protection of the environment. A cartoon of a dugong holding a flag that said "No" in its flipper appeared on one of the Society's handmade signs. Some of the flyers, pamphlets, and posters of the antihase coalition, often with pictures of the dugong on them, read, for instance, "Money disappears in a moment, hut nature, if protected, lasts forever." Shortly after the referendum an Okinawan TV crew in a helicopter found and videotaped a dugong hasking on the surface of Henoko's sea. Grandpa Miyagi exclaimed, "Here comes the messenger of our ancestor-gods of the sea!*"" (Inoue 2004:95).
The antibase movement secured a slim victory in the referendum[held on Dec. 21, 1997 - adds the author of this web-page]—52.8% of voters opposed the new base, while 45.3% favored it.(* The number of votes in the referendum was 31,477 (82.45% of eligible voters).)
*the messenger of our ancestor-gods of the sea:「ニライカナイからの使い」のことという(井上雅道氏からの私信 2012年3月25日による)。
■ジュゴンが生息する沖縄島東海岸の亜熱帯サンゴ礁域の保護を求める要望書(日本生態学会:2000年3月25日)
「米軍による普天間基地の移設決定に伴い、新しい米軍飛行場の建設予定地に名護市辺野古沖が決定された。しかし,現在その付近ではジュゴン が頻繁に発見されており,それへの影響が大いに危惧される海域である。
辺野古沖をはじめとした琉球列島のサンゴ礁海域は,ジュゴンの分布の北限にあたり、かつてそこではジュゴンが豊富に生息していた。しか し、ジュゴンの肉を目的にした捕獲や、定置網や刺し網などによる事故によって戦後激減し、琉球列島周辺ではほとんど絶滅したと考えられてきた。近年、沖縄 島の東海岸でジュゴンが何度も目撃され、それを機に1997年から1999年にかけて、琉球列島全域で大規模な生息状況調査が行なわれた。その結果、琉球 列島の中でジュゴンの生息しているのは沖縄島中部の東海岸に限られ、繁殖の可能性もあることが明らかになった。しかし、現在その生息数は10頭程度にすぎ ず,ジュゴンは日本で最も差し迫った絶滅の危機にある哺乳類であることが明らかになった。ジュゴンは昼間はサンゴ礁の外側のやや深い場所で休息し、夜間に 浅い海草藻場に索餌にやってくる。したがって、ジュゴンが生息するためには、広い海草群落が存在し、日中の休息場所と夜間の索餌場所との連続性が保たれる とともに、ジュゴンの行動に影響を及ぼすような人間活動が控えられる必要がある。
また、現在日本で唯一ジュゴンが発見されている沖縄島の東海岸は、沖縄沿岸域の中では、比較的良好なサンゴ礁が残っている海域である。サ ンゴ礁とサンゴ礁との間にはリュウキュウスガモ、ボウバアマモ、リュウキュウアマモ、ウミジグサ、マツバウミジグサ、ベニアマモなどからなる海草藻場が介 在する日本では特異なサンゴ礁生態系を形成している。この地域は、サンゴ礁と海草藻場がモザイク状に散在しているため複雑で多様な生物群集が維持されてお り、その種多様性と学術的価値は極めて高い。この生態系を代表する特徴的な生物がジュゴンである。
米軍飛行場の移転先である名護市辺野古沖は、学術的に貴重な海草藻場とサンゴ礁が共存することが、ジュゴンにとって最適の環境を提供する 海域となっている。
飛行場の建設工法は具体的には明らかにされていないが、もし海上基地建設が行われた場合、沿岸海域での大規模な工事となり、海草藻場・サ ンゴ礁生態系およびジュゴン個体群に重大な打撃を与えるものと予想される。よって,以下の事を要望する。
1 ジュゴンが生息する沖縄東海岸のサンゴ礁生態系の生態調査を行うこと
2 辺野古沖への米軍飛行場建設に伴う、サンゴ礁生態系およびジュゴンへの影響を評価し公表すること
3 要望項目2の影響評価の科学的妥当性が認められるまで、米軍飛行場建設を延期すること
4 絶滅の危機にあるジュゴンの保護のためその生息域の環境保護計画を早急に策定すること」
(出典:http://www.esj.ne.jp/esj/ESJ_NConsv/2000Jugon.html)
■沖縄タイムス(1997年8月21日と22日の新聞記事)
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■池田光穂の質問と、それに対する2012年3月26日付の沖縄県立図書館奉仕係の回答(その節は有り難うございました!)
【質問】米軍普天間基地の辺野古への移転に伴う政府の環境アセスメントに対して、沖縄県が意見書を出したとのことですが、このことに関する 資料は貴館には収蔵されておられるのでしょうか?また、それは閲覧可能でしょうか?どうかよろしくお願いします。
【回答】
沖縄の意見書がでたとのことですが、「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書に対する知事意見」でしょうか。この資料でした ら、当館は所蔵していませんが沖縄県庁のHPから閲覧する事が可能です。
沖縄県環境生活部環境政策課のHPより:
1)「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書」の審査について(答申)(沖縄県環境影響評価審査会)
http://www3.pref.okinawa.jp/site/view/contview.jsp?cateid=68&id=11606&page=1
No.68:H24.2.8:普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書の審査について(118KB)
2)普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書に対する知事意見
No.68:H24.2.20:普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書に対する知事意見(飛行場)( 90KB )
※2012年1月5日『琉球新報』の記事では、3月27日までに知事意見を政府に提出あります。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-185911-storytopic-53.html
※なお、本日(3月26日)の『琉球新報』朝刊 2面によると「米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けた環境影響評価(アセスメント) の評価書の埋め立て部分に関し、県は27日の提出する」との記事があります。】
■H24.2.20:沖縄防衛局長・真鍋朗に対する「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書に対する知事意見(飛行場)のうちジュ ゴンに関する記述
注釈:この意見書は、平成24年2月8日に沖縄県環境影響評価審査会(会長:宮城邦治)が沖縄県 知事・仲井真弘多(真は旧字体)に答申した「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書の審査について(答申)」内容を踏まえている。ここで異同 は確認しないが、ほぼ後者のものを反映しているものと思われる。
「一帯の沿岸域及び沖合の海域においては、国の天然記念物であるジュゴンが確認さ れ、礁池内の海草藻場でその食み跡等が確認されるなど、当該沿岸海域一帯はジュゴンの生 息域と考えられている。特に、嘉陽海域の海草藻場については、当該事業者における調査結 果においても、定期的にジュゴンが利用していることが示されている。ジュゴンは、平成15 年に改正された鳥獣保護法においても捕獲、殺傷が原則禁止とされている種である。また、 県においては平成17年9月に公表した「改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物ー動物 編ー」で絶滅危惧・A類として掲載しており、環境省においても平成19年8月にジュゴンを レッドリスト(絶滅危惧・A類)に追加するなど、その保護へ向けた施策が展開されている ところである。本県におけるジュゴンに関しては、これまで科学的調査がほとんど行われて おらず、その生活史、分布、個体数などに関する知見が非常に乏しい実状にあるが、ジュゴ ンは沖縄島が分布の北限と考えられ、特に古宇利島周辺海域から嘉陽・大浦湾周辺海域に少 数の個体群が生息していると推測されている。」(1頁)
「事業者である国は、これまでの環境影響評価の手続において、環境影響評 価方法書(以下「方法書」という。)で事業特性としての事業内容を十分に示さずに、追加 ・修正資料を提出させられたところであるが、それにもかかわらず、環境影響評価準備書(以 下「準備書」という。)において新たに追加、修正を行ったり、ジュゴン等に対する複数年 の調査を実施していないなど、知事意見に十分に対応せずに手続を進めてきたところである。」(2頁)
「10 ジュゴンについて(12頁〜14頁)
(1) ジュゴンについては、事業者が行った調査において、大浦湾内で食み跡が確認され、個体Cが 大浦湾東側海域や宜野座沖に移動することが確認されており、過去には環境省の調査で大浦湾よ り西側でも食み跡や個体が確認されていることから、広範囲な移動能力を有するジュゴンについ て、餌場への移動を阻害するような影響はない等の断定的な予測は適切ではない。多数の作業船 や土運搬船等の往来によってジュゴンの沖縄島東海岸南北方向の移動を分断する可能性があり、 繁殖のための移動にも影響するおそれがあり、環境保全上の問題が生じる可能性がある。
(2) ジュゴンに対する影響について定量的評価を行うべきであるとする意見に対し、「一般的な定 量評価の手法であるHEPやPVAは用いませんでしたが、調査の結果を基に、事業計画によるインパ クトの程度を照らして、予測・評価を行いました。」としている。事業者自らの調査で沖縄島の 最少個体群は3頭と推定しているにもかかわらず、一般的な定量評価の手法であるHEPやPVAを用 いなかった理由が明らかにされていない。
(3) 「ジュゴンについては、調査範囲に辺野古地先海域を含めた複数年の調査を実施すること」と の知事意見に対し、「平成19年度や平成21〜22年度の自主的調査も含め、3カ年以上(複数年) の調査データを用いて予測・評価を行いました」との見解を示しているが、平成21〜22年度の調 査は環境影響評価のために実施された調査ではなく、当該調査の手法及び調査結果については、 住民等や関係市村長の意見が聴取されていない。
なお、これらの調査結果も含めて考察したジュゴンの生活史等の生態については、十分に解析 されているとは言えない。
(4) 辺野古前面の藻場を利用していないと判断した理由について、「人為的影響として、米軍演習 及び海上作業の状況をみると、平成16年以降特に増加した傾向はみられない」としているが、海 上作業について作業日数は示されているものの、当該作業の内容、規模、時間帯等の具体的なデ ータが示されていない。また、当該データは「第十一管区水路通報」を基に整理したとしており、 事業実施区域周辺海域で事業者自らが行った環境調査等の全ての行為が含まれているか明らかで はなく、人為的影響が適切に検討されているか不明である。
(5) 「ヘリコプター及び小型飛行機の飛行高度と発生騒音レベル、水中への音の入射角から、調査 時のジュゴン確認位置において水中へ入射した音圧レベルについて解析すること」との知事意見 に対し、小型飛行機の飛行高度と発生騒音レベル、水中への音の入射角が示されていない。その ため、予測の前提が明らかではなく、ヘリコプターの方が大きいことの根拠が不明である。
(6) 個体識別できなかった15頭について、A〜Cのいずれかの個体であると推定した具体的な根拠 が不明である。 (7) 平成21年2月に嘉陽地先の水中ビデオカメラで撮影された個体について、雌の可能性も考えら れるとしていたが、当該個体がAではないという根拠は不明である。
(8) 航空機騒音による影響はコース直下の限られた範囲にとどまることからジュゴンの行動や生息 範囲に及ぼす影響は小さいと予測しているが、コンター図と生息域の重ね合わせなどによる具体 的な影響範囲は示されておらず、発生する騒音の継続時間も考慮されていない。
また、予測はCH-53を用いて行われているが、より騒音レベルが大きいと思われるオスプレイ を用いて、又は、ジュゴンの可聴域において騒音レベルが最大になる航空機を用いて行う必要が あり、予測は適切ではない。
(9) 水中に入射した音が影響を及ぼす範囲が、ジュゴンの沿岸域との往来にどのように影響を及ぼ すのかについて、予測されていない。また、入射音の波などによる拡散の程度と影響が考察され ていない。
(10) 低周波音の影響について、海域生物全般の影響レベルを適用して影響を及ぼす可能性はない としているが、その適用性についての根拠が不明である。
また、低周波音は波長が長いため遠くまで伝搬するが、どの範囲まで低周波音が伝搬するのか 不明であることから、その生息地だけでなく、行動域全般での予測・評価を行い、環境保全措置 を検討する必要がある。
(11) 環境保全措置としての衝突回避のための見張りの実効性が検討されていない。また、衝突回 避可能な速度として、オーストラリアの事例(10ノット)を参考に設定する方針としているが、船 舶の大きさや海域の状況について、オーストラリアとの比較検討の結果も示されておらず、具体 的な内容が記載されていない。
さらに、生息を避けて沖合を航行する計画についても、具体的な航行位置が示されず、その措 置を米軍に周知することについても、その効果の程度が不明である。
(12) 生息環境としての機能や価値を変化させる可能性はないとしているが、水中音の状況が変化 することなどを考慮しておらず、餌場の変化や、水中音の状況の変化及び構造物の存在による移 動経路の変化などを考慮していない。
(13) ジュゴンの逃避等の行動を引き起こす可能性のある音圧レベルとして、既存資料より、133dB 以上としているが、ピンガーの発する時間等、資料における詳細な試験条件等が示されておらず、 当該事業における事業実施時の水中騒音との条件の違いが不明であることから、逃避行動を引き 起こす可能性のある音圧レベルとして133dB を設定する事の妥当性が不明である。
(14) 個体Cの行動範囲が大浦湾東側海域までの範囲であることについて、辺野古地先を利用しな い理由が適切に検討されておらず、個体群が維持できるとの予測の根拠が妥当ではないと考える。 また、大浦湾汀間漁港周囲のみをバッファーゾーンとみなした根拠が不明である。
(15) 環境保全措置として、「光を海面に当てないようにマニュアルを作成して米軍に示すことに より周知する」ことが追加されたが、その効果の程度及び実効性が不明である。
(16) ジュゴンが工事中の影響を回避するため沖合に移動する場合、これまでにあまり利用してい ない海域へ移動すること自体が、個体に大きなストレスになると考えられるほか、沖合において 外敵と遭遇する危険性の増加が懸念される。
(17) 事後調査として、ジュゴンのヘリコプターを使った追跡調査を実施することについて、「米 軍の運用と関連することから困難な状況である」としているが、具体的な理由が不明である。」(12頁〜14頁)
「14 海域生態系について (1) 施設等の供用時の夜間照明による影響について、ジュゴン(個体C)に影響が及ぶ可能性があ るとして、「可能な限り海面に向けた照射を避けることについて米軍に対してマニュアルを作成 して示して周知する」との環境保全措置を示しているが、その効果の程度及び実効性は不明であ る。……(4) 特殊性の観点から、ジュゴン及びウミガメを予測の対象として抽出したとしているが、生態系 としての予測・評価ではなく、個別の予測・評価になっており、海域生態系へ及ぼす影響について 明らかにされていない。」(15頁)
リンク
文献
(この文献に関する註釈→島外と現地を往還したり、関西を中心に反戦運動をする人たちの語りの記録であり。ジュゴンの話は表紙を除いて 出てこない。むしろ編者による「あとがき」のエピソードから、自然保護と反戦運動のユニークな節合に関して意図的に避けている感じすら受ける)。
ネット情報(原則としてリンクしていません:コピー&ペーストで検索してください)
Dugong: Status Report and Action Plans for Countries and Territories (UNEP)
www.unep.org/NairobiConvention/docs/dugong.pdf
International efforts to save dugongs, the world's last remaining 'mermaids':
http://www.unep.org/Documents.Multilingual/Default.asp?DocumentID=649&ArticleID=6772
池田光穂「政治的アイデンティティとしての〈地元民〉」
http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/100517futenma.html
池田光穂「反逆する自然、癒される自然:日本における生物多様性概念の社会化について」
http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/101205DoDo.html
「『沖縄米軍基地所在市町村に関する懇談会』提言の実施に係る有識者懇談会」報告書について(日本商工会議所)
http://www.jcci.or.jp/okinawa/000629shimadakon.html
日本生態学会「ジュゴンが生息する沖縄島東海岸の亜熱帯サンゴ礁域の保護を求める要望書」
http://www.esj.ne.jp/esj/ESJ_NConsv/2000Jugon.html
辺野古海上基地ボーリング調査差止請求事件:訴状3(著者:岡山県平和委員会)
http://homepage2.nifty.com/heiwaoka/menu/usja/henksoj3.htm
「辺野古海上基地ボーリング調査差止請求事件」訴状(著者:岡山県平和委員会)
http://homepage2.nifty.com/heiwaoka/menu/usja/henksoj1.htm
辺野古における違法「環境現況調査」の即時中止と、環境影響評価「方法書」の即時撤回を求める声明(沖縄ジュゴン環境アセスメント監視団:団 長・東恩納琢磨)
http://www.ryukyu.ne.jp/‾maxi/07-0814-asses-seimei.html
沖縄防衛局による辺野古・環境影響「評価書」の持込みに関する要請(沖縄ジュゴン環境アセスメント監視団:団長・東恩納琢磨)[沖縄・生物多様 性市民ネットのブログ]
http://okinawabd.ti-da.net/e3748844.html
ジュゴンネットワーク沖縄
http://www.ii-okinawa.ne.jp/people/higap/index.html
北限のジュゴンを見守る会
http://sea-dugong.org/
日本のジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保全(日本自然保護協会)
http://www.nacsj.or.jp/katsudo/henoko/2004/07/iucn-2.html
世界自然保護フォーラムでジュゴンに関する2つのワークショップ開催 (ジュゴン関係、2004/11/20:IUCN)
http://www.iucn.jp/2004/244-041122.html
Helene Marsh, James Cook University
http://www.helenemarsh.com/
WWFのIUCN勧告「2010年国連国際生物多様性年におけるジュゴン保護の推進」(仮訳)
ジュゴン研究の「」の代表の向井宏さん(京大フィールド研)
■その他の関連情報
■写真はWWFのウェブページより(写真をクリックすると掲載されているページに飛びます)
このウェブページは、日本学術振興会・科学研究費補助金・萌芽研究「生物多様性概念の 社会化の研究:現代生態学者の科学人類学」(研究代表者:池田光穂:平成22・23年度)の研究資金によるものです。
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