SF映画における生殖の概念
Concepts on Reproduction in Sci-Fic movies
0. 問題の所在
あらゆる被造物は人間のつくりあげたものである。あらゆる被造物が神がつくりあげたというユダヤ・キリスト教における神義論(Theodicy)や神学のテーゼと、形式的 には同じであ る。したがってこれは「人間の神学」(人義論あるいは人学=人類学)ともいえるものだ。さまざまな被造物の「解釈」は人間がつくりあげたものである。これ を出発点に して、芸術表象のうち「人間の想像」について、具体的事象をあげて、それらを解析する[出典:社 会の表象/表象の文化]。
"Theodicy (/θi:'ɒdɪsi/), in its most common form, is an attempt to answer the question of why a good God permits the manifestation of evil, thus resolving the issue of the problem of evil. Some theodicies also address the evidential problem of evil by attempting "to make the existence of an all-knowing, all-powerful and all-good or omnibenevolent God consistent with the existence of evil or suffering in the world."...The German mathematician and philosopher Gottfried Leibniz coined the term "theodicy" in 1710 in his work Théodicée, though various responses to the problem of evil had been previously proposed. " - Theodicy.
Théodicée
title page from a 1734 version(宗
教哲学 : 『弁神論』 /
ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ著 ; 佐々木能章訳
工作舎、1990-1991.)《アダムの肋骨から生まれたイブは今日で言うところのクローン人間。クローン人間との交接は近親交配になるが性染色体の遺
伝子のシェアという観点から近代生物学に適合的である》《聖母マリアは単為生殖だが彼女は聖人たちの交接で生まれる》「ヨアキム(Joachim)
は、古い伝承によれば聖母マリアの父、妻はアンナ。ユダヤの出身で、ダビデ王の家系に属する。聖人崇敬を行う全ての教派で聖人とされる。ヨアキムはヘブラ
イ語男性名エホヤキムがギリシア語化したもの。正教会・カトリック教会・聖公会で聖人」。聖母マリアは単為生殖だが彼女は聖人たちの交接で生まれる。そし
て、この絵は、聖母マリアの誕生に、大天使ファヌエルが関与することを示唆する。
A.【映像誌的背景】(=ecological settings)
1.ジャンル
ジャンルとしては、エイリアン=宇宙の化け物(=異人)との“否定的”出会い/対決を 描いたもの。
このジャンルの多くは、古典的には怪物と対決する“文化英雄”(culture hero)ものとして描かれてきた。「エイリアン」は映画は、70年代を通して興隆してきた大きなジャンルである、オカルト映画から、思想的(例えば異人 を描く視点)にも、映像テクニック的にも大きく影響している。
エイリアンとの否定的出会いを描いたものとしては、多くのカルトムービーをはじめとし て、メジャーなものとしては「遊星からの物体X」「ソラリス」(→これは肯定/否定という二分法では論じられない)などが、ある。
比較として、宇宙人との肯定的出会いを描いたものとしては「ET」「ニューヨーク18 番街の出来事」「2010年」(→deus ex machina)
2.作家
「エイリアンズ」(1984年)は、言うまでもなく「エイリアン」(1979年)の続 編である。しかしながら、監督・脚本とも別の作家が担当している。
「エイリアン」 リドリー・スコット監督/ダン・オバニオン脚本
スコット監督の他の作品:「ブレード・ランナー」「ブラック・レイン」
「エイリアンズ」 ジェームス・キャメロン監督/ゲイル・ハード脚本
キャメロン監督の他の作品:「ターミネーター」「アビス」
"Aliens is a 1986 American
science-fiction action horror film written and directed by James
Cameron, produced by his then-wife Gale Anne Hurd, and starring
Sigourney Weaver, Carrie Henn, Michael Biehn, Paul Reiser, Lance
Henriksen, William Hope, and Bill Paxton. It is the sequel to the 1979
film Alien and the second installment in the Alien franchise. The film
follows Weaver's character Ellen Ripley as she returns to the planet
where her crew encountered the hostile Alien creature, this time
accompanied by a unit of space marines." - Aliens (film), by Wikipedia
B.【登場人物】
リプリー 商業宇宙船の飛行士。前作「エイリアン」における唯一の生き残り。
ニュート 少女。宇宙植民地に生き残った唯一人の生存者。
海兵隊戦士たち
情けない将校 エイリアン攻撃の指導者。もともと軍事的決断力に欠けている。
ヒックス 男性的(マッチョ的)な存在。負傷しながら最後まで生き残る。
バスケス 女性兵士。攻撃的な性格だが、優秀な戦闘能力がある
など
ビショップ アンドロイド。半身をエイリアン・クイーンに引きちぎられながら生存。
バーク 船主の会社から派遣される会社人間。マキャベリストで情けない最後を遂げる
エイリアン達
エイリアン・クイーン エイリアン達のグレート・マザー的存在。母性原理の権化。
C.【ストーリー】/(=民族誌)
1.帰還から再出発まで
2.植民星(エイリアン星)に到着から第一次攻撃まで
3.基地内への撤退と核攻撃の決定まで
4.エイリアンの総攻撃
5.ニュートの救出とエイリアン・クイーンとの出会い
6.植民星の軌道上・母船における最後の対決
D.【スペースSF映画における生殖の概念】(=パラダイム,理論的背景)
エイリアンの生殖パターン
通常の地球上の生物の生殖には、無性生殖と有性生殖の二つに大別できる。人類は、有性 生殖でオス(男性)とメス(女性)の交尾(性交)によるものが普通である。むろん、厳密には、女性の雌性配偶子(卵子)と雄性配偶子(精子)の結合、とそ の結果としての受精卵が母体の子宮内膜に着床し、恒常的に栄養が供給されるなければならない。
エイリアンの場合、オスの存在は不明であるが、映画においては、「エイリアン」「エイ リアンズ」ともそれを確証づけるものはない。従って、エイリアンは、我々が推察する限りにおいては、メスのみの単為発生を繰り返しているようである。これ は、地球上の生物界においては、単為生殖期のアリマキ、すなわちアブラムシがそれに相当する。
またエイリアンは、卵から孵化した後の幼生期に人間に寄生し、成長した後に宿主である 人間の体内から、それを食い破り、一人前のエイリアンになるものと思われる。
ここで、ひとつの謎が生じる。地球人を宿主とする以前のエイリアンの生殖様式である。 彼らは、地球人と出会う前から生殖を繰り返してきたのであるので、地球人を宿主とする以前には、どのような世代交代(生殖を繰り返し遺伝子を後の世代に伝 えてゆくこと)のパターンであったのであろうか?
仮説として、二つのことが考えられる。まず、地球人以外の生物を宿主にしていたという こと。あるいは、エイリアンは地球人を含む生物を宿主とするような生殖パターンを持っておらず、地球人と出会ったことが、エイリアンにとって生殖上の革新 すなわち、
単為発生の後寄生生活をおこなうようになったという仮説である。
最初の地球人以外の生物を宿主とする仮説は、魅力ある、そして説得力のあるものであ る。なぜなら、「エイリアン」において、地球人がエイリアンの惑星に到達したとき、そこに成熟したエイリアンはおらず、卵のみであった。さらに、そこには 化石化した“宇宙人パイロット”がノストロモ号の乗員(=地球人)によって確認されている
E.【エイリアン II における性構成】(=文化の解釈)
ここでいう性構成(gender construction)とは、社会的な性あり方、すなわちそれぞれの(男・女)性役割における振舞いやアイデンティティーは、社会的・文化的に構築さ れるものである、ということを指している。
「エイリアンズ」の登場人物における性構成
伝統的性役割/中間的カテゴリー/性役割の転倒
エイリアン=クイーン /リプリー・ニュート/バスケス
リプリーとニュートの関係
エイリアンと戦う同僚
保護と被保護の母子的関係(「マミー!」)[→エイリアン・ク イーンと鬼子母神]
F.【否定的遭遇型SF映画における文化英雄】
3つのパターン:誰が正義を行使しうるのか?
1. 兵士・・・・・・マッチョ性の強調・・暴力の発露・・・・・・・・・・プレモダン
2. 科学者・・・・・英知の勝利・・・・・科学的合理性の勝利・・・・・・モダン
3. ジャーナリスト・情報の収集・・・・・バランス感覚/ネットの制覇・・ポストモダン
G.【出典, resource】(=文献)
【補記】
『エイリアン』を体内に取り込まれた異物による死という古くからのフォークロアであるという 指摘は、ハロルド・シェクター『体内の蛇』リブロポート、1992年を参照のこと。
【付録】C.におけるストーリーのテキスト(——池田の独断と偏見による構成)
1.帰還から再出発まで
前作「エイリアン」において、宇宙輸送船ノストロモを自爆させ、船内に残ったエイリア ンから逃れたリプリーは、その後、愛猫とともにコールド・スリープ状態に入り、宇宙を漂流していた。
57年後に地球近く(?)のステーションにリプリーは保護されるが、その時にはすでに 生き別れた11歳の娘は、帰還の2年前に66歳で癌で死亡していた(!)。
エイリアンの存在を、周りの人びとに信じられてもらえず、会社からは輸送船の損害を糾 弾され倉庫係に左遷されたリプリーは、エイリアンからの恐怖におびえて、悪夢に悩まされる日々が続いていた。
そのころ、ノストロモ号が消息を絶った近くの星に植民に出かけた数十家族の開拓者から の連絡が途絶え、軍部ではその安否と治安対策に海兵隊(=宇兵隊?)を派遣することが決定した。輸送船の会社で働くバークは、リプリーにその星への同行を 依頼するか、リプリーは拒絶する。しかし、エイリアンの悪夢に悩まされていたリプリーは、それを断ち切る決心を固め、最後には同行に同意する。
2.植民星(エイリアン星)に到着から第一次攻撃まで
コールド・スリープから覚めたリプリー、兵士、バーク、ビショップらは、植民星の軌道 上に待機した母船から、植民星へと向かう。小型宇宙舟艇に装甲車を積み、海兵隊兵士達が武装して、偵察に植民地内の基地に侵入する。基地内は全くの無人で あった。
リプリーや将校は装甲車の中で、兵士達が映し出すモニターを見ながら指示を出してい た。兵士達は、やがて、基地内の通路が奇妙な洞窟と化していることを報告した。そこで、遭遇したのは、エイリアンに卵を産みつけられた最後の生存者であっ た。彼は“殺してくれ”と力なく叫びながら兵士に訴えた。その瞬間、孵化したエイリアンが犠牲者のはらわたから飛び出し、兵士達は銃を乱射する。幼生のエ イリアンが最初に殺される。その声を聞き、近隣にいたエイリアン達が一斉に兵士たちに襲いかかる。
兵士たちを無線で指示していた将校は、頼りない指示を部下たちに与え、おまけに交信が 途絶えてしまった。リプリーは、それを“ふがいなく”感じ、装甲車を兵士たちのところに乗り付けて負傷兵を救出する要請する。びびった将校に、業を煮やし たリプリーは、将校の制止を振り切って、装甲車を運転、兵士たちを救出する。
3.基地内への撤退と核攻撃の決定まで
植民星の基地内に撤退した全員は、植民者たちが使っていた医務室の後を見つける。そこ には、エイリアンに寄生された時の臨床記録や、エイリアンの幼生の標本(生きている!)が見つかる。かれらは、そこを前線の基地として、エイリアン対策を 議論する。
その時、兵士の生物反応レーダーに生物の影が映った。なんとそれは、最後の生存の少女 ニュートであった。彼女は、両親や兄をエイリアンの犠牲にされ、逃亡してせいで、人間の言葉をほとんど失いかけていた。しかしながら、リプリーの介護と対 等な付き合いを続けてゆくうちに、次第に口を開くようになった。辣腕女兵士バスケスに「白雪姫」と馬鹿にされていたニュートは、エイリアンの習性や、植民 地の基地内の通路のことに熟知しており、後になくてはならない存在になる。
リプリー、将校や兵士たちは、植民星には、ニュートのほかに生存者が残っていることを 絶望視し軌道上の母船から核攻撃することを決定する。ただひとり、バークが“未知の生物を殺してはならない”と反対するが、全員から一笑に付される。
連絡を受けた小型宇宙舟艇は、リプリー、ニュートや兵士たちを迎えにゆくが、すでに小 型舟艇にはエイリアンが乗り込んでおり、彼らを救出する寸前に操縦士はエイリアンに襲われ、機体もろとも木っ端微塵に破壊されてしまう。危うし!!
4.エイリアンの総攻撃
再び、前線基地に戻った彼らは、地球からの救援には時間がかかり過ぎて絶望であると判 断する。ビショップの提案で、遠隔操縦で軌道上の母船から、小型宇宙舟艇を飛ばし母船上に帰還し、そこからエイリアンのいる地上を攻撃することになった。
バークは再び、エイリアンが“最強の生物兵器になる”と称して、地球にエイリアンを 持って帰ることを提案するが、兵士たちの多くは犠牲になっており、リプリーも1匹でも持ち帰ることが地球の滅亡を意味すると主張して、それを一蹴する。
しかし、会社人間バークは陰謀をめぐらし、リプリーとニュートが寝ているすきに、標本 になっているエイリアンの幼生を彼女たちに寄生させようとする。あわやのところで、その危機を逃れた途端、エイリアンの総攻撃が始まった。
攻撃しながら逃げまどう、兵士たち。ニュートを抱きリプリーは、逃げまどいながら、 バークが閉めたハッチを叩く。安心するバーク。しかしながら、因果応報、安心した彼が振り向いた鼻先にはエイリアンがいた。
エイリアンの総攻撃の前に、辣腕バスケスも、根性のない情けない将校とともに、自決を 遂げた。逃げまどう、リプリーとニュート、さらに兵士ヒックス、しかしながら、その兵士も負傷してしまった。そして、ニュートが回転ローターに巻き込まれ て行方不明になってしまったのだ。
ビショップの操縦する宇宙舟艇に負傷した最後の兵士ヒックスを連れて乗船したリプリー は、はぐれたニュートのことが、気ががりで、ヒックスを収容した後に、ビショップに、後で再び迎えに来て貰うことを依頼する。リプリーは、ここで初めて武 装して、ニュート救出に向かう。
5.ニュートの救出とエイリアン・クイーンとの出会い
かつてヒックスのくれた発信器をリプリーは、ニュートの腕に巻き付けていた。発信器の 源を頼りに、リプリーはエイリアンの巣窟に単身乗り込むのである。発信器の音源が近づいてゆき、そこにまさにニュートがいるはずのところには、腕から外れ た発信器があったのだ。絶望に打ちひしがれるリプリー。まさにそのとき、“キャー”と泣き叫ぶその声は、ニュートだったのだ。リプリーは、再び武器を構 え、声のする方に近づいてゆく。
ニュートは、エイリアンの幼生を植え付けられるべく、エイリアンの卵の前にしっかりと 固定されていたのである。ニュートをそこから解放し、しっかと懐抱したリプリーの背後には、巨大なエイリアン、そうなのだ!エイリアン・クイーンが、まさ に産卵の最中であったのだ。彼女は、その全体器官ともいえる洞窟の中で身体を固定しており、リプリーとニュートを威嚇している。いま、まさに孵化しようと するエイリアンの卵に銃口をむけるリプリー、それを見ながら周りのエイリアンにリプリーへの攻撃を牽制をするエイリアン・クイーン。
ニュートを抱いた怒り心頭のリプリー、“いてまえ〜”とばかり、火炎放射器を噴射、周 りのエイリアンを掃射し、焼け爛れた産卵の床面に銃弾を投げ込む。かわいいわが子を焼き殺されたエイリアン・クイーン、こちらも100%怒り狂い、固定し た身体を解き放ち、リプリーとニュートに復讐をもやす追撃がはじまったのだ。
崩壊寸前の宇宙植民地基地内を逃げるリプリーとニュート、追いかけるエイリアン・ク イーン。エレベーターの最上階で、待っているはずのビショップの宇宙舟艇がない!。エレベーターのボタンをしっかりと押して追いつくエイリアン・クイー ン。危うし、風前の灯火。 ‥‥そこへ、宇宙艇が現れ、間一髪のところでエイリアンを後にする。
6.植民星の軌道上・母船における最後の対決
宇宙空間に逃げ延びたリプリーとニュート、ビショップ。地上では、核爆発がおこり平静 な雰囲気につつまれる。(ここで、大概の人はすべてうまくいったと安心する。実際に、画面上も先の5.の部分は完全に緊張するシーンが連続する)
彼女たちに、宇宙艇の到着が遅れたことを詫びるビショップ‥‥。
ところが、ビショップは突然、白い体液を口から吐きながら胴体がまっぷたつに引きちぎ られる。なんと、小型宇宙舟艇にエイリアン・クイーンがしがみ付いていたのだった。逃げまどうリプリーとニュート。悶えるビショップ。ニュートはすばしこ く床の下部に、リプリーは倉庫に逃げた。卵を孵化させる執念をもつのか、エイリアン・クイーンは必要にニュートを追う。絶対絶命ニュート!!、彼女の “キャー”という声が母船の中にこだまする。
そのとき、倉庫の扉があいた。ロボット的な力を発揮するメカニック・スーツである“パ ワー・ローダ”に身を包んだリプリーだ。彼女はエイリアン・クイーンを威嚇する。
“彼女[ニュート]から離れなさい、この雌イヌ!(bitch)”
Get away from her, you bitch!
エイリアン・クイーンとリプリーの最後の死闘が始まった。最後の“火事場の馬鹿ぢから” によって、とうとうエイリアンは宇宙空間に排出される。真空の宇宙空間に、ニュートも引きずり出されるかと、ハラハラするのであるが、半身のビショップが しっかとニュートの手をつかむ。
最後のシーンは、畳み掛けるように、生存者たち(半身のビショプ、負傷したヒックス、 そして我が主人公リプリーとニュート)が、コールド・スリープにはいるところである。リプリーは、本物のエイリアンをやっつけることによって、本当に安ら かな夢をみることができる、という暗示がなされる。
■クレジット:文化人類学講義・特別付録/ SF映画における生殖の概念/ エイリアンズの文化人類学/ 1990年12月21日 限定版発行/ 1991年01月18日 増刷/ 2002年6月25日 改訂
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
『ブレードランナー 2049(Blade Runner 2049)』 というハリウッド映画(2017年公開)がある。1982年の人気映画『ブレードランナー』の続編である。2049年の地球の未来における、人間とアンド ロイドの生殖の未来を描いたものである。この映画は、それほど、2020年現実世界とはほとんど無縁の荒唐無稽の映画であるが、こんな映画を見ても、文化 人類学者は、自分のフィールドワークよろしく、映画の登場人物あるいは登場アンドロイドの「血縁関係」を描かないと気が済まないのである。(→出典は「人類学者は○[マル]と△[サ ンカク]が好きっ!」)
「映画のあらすじの中では、デッカードと レイチェル(すでに死亡している)には男性と女性の2人の子どもがいたという発言と、アナ・ステリン博士だけだという主張が ある。そして、映画の主人公K(のちにレプリカント解放戦線のリーダー・フレイザから「ジョー」と命令され、模造記憶ではなく本物の記憶をもつアナの兄弟 と示唆される)はデッカード(父親?)をウォレスから守ろうとして、瀕死の重傷を負い、映画はエンディングを迎えるからである。
● 「男性の女性への孕ませ願望」の具現化か?
「こ
の映画そのものは、フェミニスト人類学的には次のように批判することができる。男性中心主義的な映画の視聴者ならびに製作者からみれば「男性による女性の
身体の支配欲望」あるいは「男性の女性への孕ませ願望」が、ついに、「人間のデッカード」(=違う解釈もある)がレプリカントのレイチェルを孕ますほどの
「精力の持ち主」であったということだ。なぜなら、デッカードは、『ブレードランナー 2049』でも、Kと互角に戦えるだけの老人として再登場する。他方、オリジナルのタイレル・コーポレーション製のレイチェルはすでに死んでおり、ウォレス社のニアンダー・ウォレスがレイチェルの後続レプリカントを作るが、デッカードの籠絡には失敗する」(→「
『ブレードランナー 2049(Blade Runner 2049)』の人類学的分析」)
そのように考えると、遡及的に映画『ブレードランナー(Blade Runner,
1982)』は、デッカード刑事が、レプリカント処分の指令をうけて、レプリカント・ハントをして次々とそれを「停止」させるが、最後は、レプリカントの
自己意識のないレイチェルを——タイレル博士の最後の発明でもある——レプリカントであることを目覚めさせる過程で、逆に、レイチェルに恋愛感情を持ち、
ガフから伝えられる「逃亡したレプリカントは処分するように」という上司の命令を裏切って、恋の逃避行に出るという、異種婚姻譚という人類学の古典のジャ
ンルに踏み込んでいる。他方、フェミニスト人類学批判の観点からみれば、デッカードは二次元恋愛よろしく、機械ないしはダッチワイフ——実際に映画ではプ
リスのように「慰安用」の女性型も存在する——としてのレイチェルに恋あるいは性交願望をもち、逃避行の末結ばれるという、おぼっちゃまの倒錯した純愛願
望の物語ともいえる。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
リンク
文献
その他の情報
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099