第1章 健康言説の構築過程──生活習慣病を手がかりとして
第2章 健康言説の流通過程──言説がなぜ人びとの心に働きかけるのか?
第3章 健康言説の類型と構造──健康関連広告を事例として
第4章 健康言説=消費構成体──陀羅尼助を手がかりとして
第5章 健康広告の存立構造──健康の資本主義的運動について
今日の広告において「健康」のイメージが多用されていることは誰もが知る事実である。「健康」が現代社会生活にとって有力なブランドイ メージであ ることも周知であろう。しかし、それがなぜ、ほかならぬ「健康」であるのかということを、従来の広告研究は明らかにしなかった。
本研究は、この基本的かつ重要な問題を社会学・人類学的研究手法から分析し、広告研究と健康に関する社会研究を架橋することを目的とす る。
我々は、これまで文化現象としての医療について研究を多年にわたり積み重ねてきた。近年は「健康文化」に焦点を当て、それを解読するため の方法論の開発に携わっている。その際、我々が注目したのが社会構築主義理論(social constructionism)の分析手法である。この理論は欧米の医療社会学──病気と健康の社会学──において注目されており、我々の研究はその理 論の日本的展開において一定の貢献をしている。
現代社会における健康文化の諸相を検討するためには、言説の意味空間がまず最初に分析されなければならない。健康について人びとが語る言 説には、 さまざまな位相があり、それらが複合的に連関することによって「健康文化」が構築されるからである。健康言説には多様な類型があり、語る主体から分類する と「専門家言説」「素人言説」「メディア言説」および「匿名言説」の諸類型が考えられる。構築主義では「専門家言説」が徹底的に相対化され、民間医療や民 間信仰をふくむ「素人言説」と同格に扱われるが、「メディア言説」については十分に分析されてきたとは言えない状況にある。
「メディア言説」は現代社会生活において極めて重要であり、その分析は広告研究が長年手がけてきた領域でもある。メディアは人びとに情報 を提供す るのみらならず、言説に公共性を付与する。しかも、メディアはメディアの内部事情に基づいて、客観的現実とは独自の現実像を提示しており、その点で「専門 家言説」からも「素人言説」からも自律的である。
従って、広告における健康言説の実態を克明かつ網羅的に展望する作業は、広告研究のみらなず健康文化の社会分析にとっても必須の作業とな る。我々 が広告に着目したのは、それが独自の意味的世界を構成しており、しかも培養効果の高い──つまり構築性の高い──領域であるという理由からである。広告に おける健康言説の徹底的なタイポロジーを提示し、その意味空間の分節性と変容に迫ることが、未開拓の課題となって我々の前にある。
本研究は、従来の広告研究におけるジャンルとして広告文化論の延長上に位置する。しかし、日本の健康文化や医療文化の観点から、広告の果 たす文化 的役割の実態と問題点を切り出すところにユニークな特色をもつ。また言うまでもなく、健康文化の構築分析を通して広告研究と健康文化の社会研究を架橋する 研究は日本では最初の試みとなる。
報告書(要約):「日本の広告における健康言説の構築分析」
報告書:「病気と健康の日常的概念の構築主義的理解」
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099
珍宝亭日乗 | 池田蛙 | 電脳蛙 | 授業蛙 |
報告書構成(当初案を代表者が改作)
日本の広告における健康言説の構築分析