はじめに よんでください

感覚経験の宗教学

On Religion of Sensual Experience

池田光穂

感覚経験の宗教とは、感覚/感性のエスノグラ フィーの記述を試み、そこから得られるデータを比較検証し、感覚経験の経験主義的理解を深める理論的貢献に挑戦する宗教研究の分野である。

そのためには、感覚のエスノグラフィーについての知識が有用である。感覚の宗教学の研究方法論は、文化人類学のフィール ドワークによるエスノグラフィー資料の収集である。感覚にまつわる社会現象の収集のために、参与観察の他に、Gopher等をつかった動態的映像記録、ナ ラティブ映像などを現場で再生して被調査者自身がメタコメンタリーをするなど、《感覚経験にまつわる内省》と《感覚経験の言語化》手法を動員することが主 眼になる。

Remedios Varo (En.); Remedios Varo (Sp.), Creación de las aves - Creation of the Birds, 1957./ 1955 La revelación o El relojero [レメディオス・ヴァロ

【感覚の定義】

感覚とは、人間がおこなう個々の実践行為の中にみられる言語的(つまり事後的解釈行為的)あるいは非言語的(つまりその最中における直接経験の)経験の総体である。

【宗教ならびに宗教学の再定位】Re-orientation of Religion

古典的な(=標準的な)宗教研究(=宗教学)の紹介の事例:"Religious studies, also known as the study of religion, is an academic field devoted to research into religious beliefs, behaviors, and institutions. It describes, compares, interprets, and explains religion, emphasizing systematic, historically based, and cross-cultural perspectives." - Religious studies.

宗教研究とは、宗教的な信念、行動、制度などを研究 する学問分野である。宗教を記述し、比較し、解釈し、説明するもので、体系的、歴史的、そして異文化的な視点を重視しているのが宗教学である。ただし、こ れでは、宗教研究と宗教の定義という作業に関する言及は不問にされたままである。したがって、この定義を完全なものにするためには、宗教の定義は不可欠で ある。

"Religion is a social-cultural system of designated behaviors and practices, morals, beliefs, worldviews, texts, sanctified places, prophecies, ethics, or organizations, that relates humanity to supernatural, transcendental, and spiritual elements; however, there is no scholarly consensus over what precisely constitutes a religion."-Religion.

宗教とは、人間を超自然的・超越的・精神的な要素と結びつける、関連づけられた行動や慣習、道徳、信念、世界観、テキスト、聖地、予言、倫理、組織などの社会的・文化的な体系=システムである。しかし、何をもって宗教とするかについては、学術的なコンセンサスは得られていないのが現状である。

したがって、ある宗教は、その宗教学者が定義したも のを研究することができるが、その宗教学者が定義していない部分を、別の宗教学者が別の宗教だと定義していると、ある人にとっての宗教が、別の人にとって の宗教にならないということになる。宗教学者の怠慢は、それらを統一したコンセンサスとして定義しようとしないことである。この批判は、宗教を統一した定 義にしたい宗教学原理主義派の仕業だと言えるかもしれないが、これは宗教と宗教学を統一したイデオロギーの中で定義したいという知識社会学の正常な欲望で あり、その意味で原理主義者とは言えない側面をもつ。むしろ、宗教をアナーキーなまま定義せず、自分の理解可能な宗教を、宗教だと言って、その観念を弄ぶ のが、旧来の宗教学者であると私は主張しているのである。

さて、宗教を、行為の集積(=宗教的実践/宗教的諸 実践 religious practices)として理解しようとする考え方がある。こちらのほうは理念的な定義から始める無能学者よりも、より知的に洗練されている。ウィキペ ディアによると宗教的諸実践は、次のように説明されている。

"Religious practices may include rituals, sermons, commemoration or veneration (of deities and/or saints), sacrifices, festivals, feasts, trances, initiations, funerary services, matrimonial services, meditation, prayer, music, art, dance, public service, or other aspects of human culture. Religions have sacred histories and narratives, which may be preserved in sacred scriptures, and symbols and holy places, that aim mostly to give a meaning to life. Religions may contain symbolic stories, which are sometimes said by followers to be true, that may also attempt to explain the origin of life, the universe, and other phenomena. Traditionally, faith, in addition to reason, has been considered a source of religious beliefs."-Religion.

宗教的実践には、儀式、説教、(神および/または聖人の)記念または崇拝、犠牲、祭り、饗宴、トランス、イニシエーション、葬儀、婚礼、瞑想、祈り、音楽、芸術、ダンス、公共サービス、または人間文化のもろもろの側面が 含まれている。宗教には神聖な歴史や物語があり、それらは聖典やシンボル、聖地に保存されているが、それらは主に人生に意味を与えることを目的としてい る。宗教には、生命や宇宙の起源やその他の現象を説明しようとする象徴的な物語が含まれることがあり、それは信者によって真実であると言われることもあ る。伝統的には、理性に加えて信条こそが、宗教的信仰(religious beliefs)の源であると考えられてきた。

したがって、宗教は統一した全体的要素が、それぞれ の実践行為のなかに「共通」してあるいは変形作用を通して垣間見られることが、少なくとも最低限みられることになるのである。実践行為は、それをおこなう 一人一人が経験する感覚のことにほかならない。したがって、宗教的感覚とは、人間がおこなう個々の宗教の実践行為の中にみられる言語的(つまり事後的解釈 行為的)あるいは非言語的(つまりその最中における直接経験の)経験の総体であるということができる。

David Howes, Sensual Relations: Engaging the Senses in Culture and Social Theory.University of Michigan Press , 2003

【書籍解説】With audacious dexterity, David Howes weaves together topics ranging from love and beauty magic in Papua New Guinea to nasal repression in Freudian psychology and from the erasure and recovery of the senses in contemporary ethnography to the specter of the body in Marx. Through this eclectic and penetrating exploration of the relationship between sensory experience and cultural expression, Sensual Relations contests the conventional exclusion of sensuality from intellectual inquiry and reclaims sensation as a fundamental domain of social theory. - Nielsen BookData.

リンク

文献

その他の情報


Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099


本研究は「中米・カリブにおける感覚のエスノグラフィーに関する実証研究」研究代表者:滝奈々子の研究成果に負っている

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